TOPICS 第2回 Hi Advanced MR セミナー
3T TRILLIUM OVALの実力と将来性
工藤 與亮(北海道大学病院放射線診断科准教授)
2015-9-25
北海道大学病院(936床,外来患者約3千人/日)では,3Tが3台,1.5Tが2台,計4社5台のMRI装置が稼働し,年間1万4千件を超える検査を実施している。本講演では,2014年11月に導入した日立メディコ社製3T MRI「TRILLIUM OVAL」の実力について臨床画像を供覧するとともに,日立メディコ社と進めている共同研究の中から最新の研究内容についても紹介する。
3T MRI 「TRILLIUM OVAL」の実力 ─臨床画像供覧─
当院の全MRI検査における撮像部位の割合は,脳・頭頸部が半分以上を占め,続いて四肢関節,上腹部,脊椎,骨盤,乳腺,心臓の順になっている。TRILLIUM OVALによる検査は全MRI検査中18.5%であり,領域としては脳・頭頸部が圧倒的に多い。
当院におけるTRILLIUM OVALの使用経験およびその実力について,以下に臨床画像を供覧して解説する(図1〜13)。
●上腹部領域(図1)
TRILLIUM OVALは,4ch-4portの独立制御可能なRF照射コイルシステムのため,均一な照射で高画質が得られる。腹部ではダイナミックMRIをはじめ,DWI,MRCPの画質も評価されている。また,モーションアーチファクトを低減するアプリケーション“RADAR”は使い勝手が良く,使用頻度が高い。
●脊椎領域(図2)
TRILLIUM OVAL の3D撮像(PBSGシーケンス)は,信号ムラのない高精細な画像が得られるため,脊椎や腰椎領域で有用である。
●脳・頭頸部領域(図3〜12)
TRILLIUM OVALは,通常のルーチン撮像で十分な診断能を有し,FLAIRにおける淡いコントラストの描出能にも優れる。また,DWIやBSI,MRA,3D系,FatSep,STIRなどの画質も評価されている。
●脳腫瘍の血流評価:Perfusion MRI(図13)
MRIによる脳血流の評価には,造影剤を用いて血管床の増大(CBV)を見るDSCや新生血管の漏れやすさ(permeability)を見るDCE,非造影で血液スピンの磁気的ラベルにより血流増加(CBF)を見るASLなどの方法がある。われわれはTRILLIUM OVALを用いて,これらの血流評価法の前向き研究を開始している。また,低酸素腫瘍を評価するFMISO-PETに対して,MRIで描出しうるQSMシーケンスの研究も始めている。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
3T MRI 「TRILLIUM OVAL」の将来性─最新の研究開発の実際─
●定量的磁化率マッピング(QSM)
QSMは,物質に固有の物性値である磁化率を推定し,ボクセルの分子情報や化学組成を類推する技術である。定性的な磁化率強調画像(SWI)に対し,QSMは定量的な解析画像である。
静磁場の中では物質の性質によって,局所磁場が減弱したり(反磁性体:diamagnetic),強まったり(常磁性体:paramagnetic)する。ヒトの体内にある代表的な常磁性体の1つは鉄(フェリチン)であり,灰白質と皮質のコントラストや皮質外の層構造の描出に寄与しているとされる。デオキシヘモグロビンも常磁性体で,静脈に関係する。一方,主な反磁性体であるミエリンは,灰白質と白質のコントラストだけでなく,白質の中の線維束のコントラストにも影響すると言われている。
これら磁化率変化の要因の中から,われわれはデオキシヘモグロビンに着目して,日立メディコ社と共同研究を進めている。例えば,微小出血の症例において,出血も脈絡叢の石灰化もT2強調画像やSWIではすべて黒く描出されるが,QSM画像では磁化率の高い出血は白く,磁化率の低い石灰化は黒く描出され,両者の鑑別に有用である(図14)。
われわれがいま最も注力しているのは,酸素代謝の画像化である。酸素摂取率(OEF)を臨床で測定する方法は従来はPETしかなく,酸素代謝を直接見る簡便な手段として,QSMは有望と考えている。OEFは,QSMの静脈内のデオキシヘモグロビンの量を磁化率変化から算出し,OEFとして画像化する。
PETで右半球のOEFの上昇が認められる例をQSMから作成したOEFと比較してみると,PETと同様の所見が得られた(図15)。26症例について同様に検討したところ,PETとQSMのOEFは良好に相関していることがわかった。QSM-OEFを発展させ,将来的には低酸素の脳腫瘍も評価できるよう共同研究を進めている。
|
|
●O-17を用いた脳血流検査
われわれは,酸素の安定同位体O-17を用いたMRIによる脳血流検査の研究開発を進めている。
O-17は被ばくやアレルギーなどの問題もなく安全だが,天然存在比が0.038%しかないため,MRIで信号が取得可能な高濃度にするには高額な費用がかかることが難点である。
O-17のMRIの信号検出方法には,O-17の共鳴周波数を用いる直接法と臨床機で使っているプロトンの信号を用いる間接法がある。間接法は臨床機で撮像可能で汎用性が高い。われわれは現在,撮像法に関して日立メディコ社と共同研究を進めている。
なお,O-17の研究開発は2009年に岩手医科大学で開始され,2014年からは北海道大学にて医師主導の臨床研究を行っている。
北海道大学のフロンティア精神を発揮し,日立メディコ,日立製作所をはじめとする産学連携のオールジャパン体制で,近い将来の実用化をめざして研究を続けていきたい。
工藤 與亮(Kudo Kohsuke)
1995年北海道大学医学部卒業。2004年北海道大学医学研究科放射線医学分野助手。2006年米国ウェイン州立大学MRリサーチセンター留学。2007年北海道大学病院放射線科助教,翌年岩手医科大学先端医療研究センター講師。2013年より現職。
- 【関連コンテンツ】