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講演1 前立腺癌のMRI診断と治療への応用 
山添 真治(東京歯科大学市川総合病院放射線科)
第32回日本画像医学会 産学共催セッション ランチョンセミナー6 「前立腺癌のMRI診断とMRIガイド凍結治療」

2013-4-26


図1 フュージョンrSIの作成

図1 フュージョンrSIの作成

第32回日本画像医学会(金澤 實大会長・埼玉医科大学呼吸器内科教授)が2013年2月22日(金),23日(土)の2日間,東京ステーションコンファレンス(東京都千代田区)にて開催された。22日に行われた産学共催セッションランチョンセミナー6(日立メディコ社共催)では,座長の楫 靖氏(獨協医科大学放射線科教授)の進行のもと,「前立腺癌のMRI診断とMRIガイド凍結治療」をテーマに,東京歯科大学市川総合病院放射線科の山添真治氏と,東京慈恵会医科大学柏病院放射線部の最上拓児氏が講演した。

 

前立腺とは

前立腺は,大きさ約30mm×30mm大,容量20〜30mLの男性内生殖器の外分泌腺である。泌尿生殖洞から分化し,中心域は射精管とともにWolff管から分化しており,前立腺液を分泌する。前立腺の約70%を占める腺組織は,内腺と外腺に分けられ,内腺はTZ(transitional zone:移行域)とPUT(periurethral zone:内尿道周囲域),外腺はCZ(central zone:中心域)とPZ(peripheral zone:辺縁域)からなる。
前立腺は加齢とともに変化し,腺組織の約25%を占めるCZは35歳頃より萎縮し,前立腺癌はほとんど発生しない。約5%を占めるTZは,加齢に伴って増大して前立腺肥大症の発生母地となり,前立腺癌の約30%がTZから発生する。PZは,TZの肥大とともに側後方へ圧排・菲薄化し,約60%以上の前立腺癌がPZで発生する。
前立腺の主な疾患としては,前立腺肥大症,前立腺嚢胞性疾患,炎症性病変,前立腺癌が挙げられる。なかでも前立腺癌は,男性が罹患する癌の10%を占め,今後も罹患率の増加が予想されることから,画像診断が重要となる。

MRIによる前立腺癌診断

前立腺癌は,PSA値が4ng/mL以上の場合に疑われ,PSA再検査・尿検査・直腸診などを行う。その結果,前立腺癌が疑われた場合に,超音波ガイド下にてrandom systematic biopsyを施行するが,この生検は約30%が偽陰性であり,正確な病変位置の特定も困難である。従来,病期診断にCTやMRIが使われていたが,MRIの性能が向上したことから,最近は生検前にMRI検査を実施することも多い。
前立腺癌のMRIは, T2WIでは,PZで高信号域内の低信号腫瘤として描出されるが,炎症や出血などの合併症例では評価が難しくなる。TZ,CZでは,もともとT2WIにおいてモザイク状の信号を呈しているため,この中から前立腺腫瘤を見つけることは難しい。
前立腺癌の診断には,DWIとADC mapが有用とされている。DWIでは高信号として描出されるが,このときb値の設定が重要になる。ADC mapでは,b値=500/1000での測定が推奨される。
診断にDWIを用いる際のADC mapの有用性が報告されているが,原理的に2つ以上のb値から計算されるADC mapは,潜在的な不一致の懸念があり,また,信号雑音が強く,診断に苦慮する場合がある。もし,DWIの信号強度そのものが使用できれば,これらの問題を解決できる可能性がある。
近年,肺腫瘍の研究において,腫瘍の脊髄神経に対するDWIの相対信号強度が,ADC mapよりも有用であったとの報告があるが,骨盤内には脊髄神経のように指標となる標準的信号強度を示す適切な臓器が撮像範囲内にないため,適用は困難であることが考えられる。

rSI画像による前立腺癌評価

そこでわれわれは,DWIでの骨盤底部全体の信号強度を指標として,これに対する標準偏差(SD)を計算したものをrSI(relative signal intensity:相対的信号強度)として算出し,前立腺癌の評価を行った。
撮像は,T2WI,DWI,T1WI,T2WIcoro,GdFST1WIを行っている。T2WIとDWIのシーケンスが重要で,DWIはb値=1500に設定し,両者のFOV,スライス厚,スライスギャップをそろえて,同じ断面,同じ大きさとなっている。また,DWIは,加算回数を24回になるように設定している。
rSI画像は,DWIの骨盤内の信号強度を測定してSDを計算し,特定の信号(例えば,3SD以上)のみを描出する。そして,このrSI画像とT2WIのフュージョン画像を作成するが,このときT2WIとDWIが同じ断面・大きさであるため,直接フュージョンできる。このフュージョン画像は,オリジナルプログラムにより自動的に10秒以内で作成できる(図1)。
T2WIとのフュージョン画像について,rSIと従来のDWIを比較すると,DWIは信号雑音が強く残るのに対し, rSIは信号雑音が抑制され病変が明瞭に見える(図2)。ADC mapとの比較でも,病変の特定にはrSIの方が優れていた。病理との比較では,rSIは形態が類似して描出されることが観察された(図3)。また,SDの違いによるrSIの見え方を比較したところ,3SDが最も病理の面積に相関していた(図4)。
rSI画像は,比較的限局した病変の描出に有効であるが,撮像範囲内であれば周囲への浸潤(図5),リンパ節転移や骨転移も描出することができる。一方で,病変が大きく,骨盤内が全体的にDWIにて高信号を示す症例では,信号の標準偏差が高くなり,rSIの信頼性が低下する(図6)。また,小さい病変やGleason scoreが低い病変では,rSI画像での評価は難しい。特に大きさの要素が強く,病変の長径が4mm以下の場合は検出が難しい。しかし,前立腺癌はslow growthの腫瘍のため,MRIやPSAでの経過観察をすれば問題はないと言える。
日立メディコ社製1.5T MRI「ECHELON Vega」にて前立腺MRIを撮像した症例のうち,前立腺全摘出術を施行して前立腺癌が証明された17例を対象に,前立腺面積に対する癌面積の比(癌面積比)を各SD(3,3.5,4,5)のrSIと病理割面において計算し,比較検討した。
rSIと病理による癌面積比の相関性の検討では,3,3.5,4SDにて高い相関が見られた。また,フュージョンrSIでは,3.5,4,5SDでは一部の症例で描出できなかったが,3SDではすべての症例で描出でき,病理の数値とも類似していたことから,最も有効であると考えられる。

図2 従来のDWIとrSIとの比較

図2 従来のDWIとrSIとの比較

図3 移行域の前立腺癌

図3 移行域の前立腺癌

   
図4 SDの違いによるrSIの見え方

図4 SDの違いによるrSIの見え方

図5 周囲組織への直接浸潤

図5 周囲組織への直接浸潤

   
図6 大きな病変の評価

図6 大きな病変の評価

 

 

前立腺疾患への凍結治療の適用

前立腺癌の局在を特定できるrSI画像をガイドに用いて,局所治療ができるのではないかと考えている。2011年には小径腎癌に対して凍結治療が保険適用となった。今後,適用範囲の拡大が予想され,前立腺癌への適用も期待される。
前立腺癌の凍結治療は,1966年に海外で最初に報告されたが,臨床への応用は,1999年になって,経直腸超音波を使用した凍結治療が適用されてからとなる。
最近では,MRIガイド下の凍結治療も報告されている。Gangiらは,11例を対象にした1.5T MRIガイド下での穿刺,凍結治療を報告している。前立腺の容量に応じて4〜7本のプローブを穿刺し,すべての症例で尿道カテーテルにて灌流を行っている。このうち,直腸内に灌流装置を置かなかった1例に尿道直腸瘻が起きたが,ほか10例については良好な治療効果が得られている。
また,Ghanouniらは,前立腺肥大症の凍結治療を報告している。60歳代の薬剤治療抵抗性の症例に対し,MRIガイド下で経会陰式にTZ領域両葉に1本ずつ計2本のプローブを穿刺し,凍結治療を行った。その結果,夜間頻尿,尿速,残尿量が改善したことから,凍結治療は前立腺肥大症にも良い適応であると言える。

フュージョンrSI画像を用いた3Dナビゲーションの開発

現在われわれは,前立腺癌の凍結治療に向けて,フュージョンrSI画像を用いた3Dナビゲーションの研究を行っている。
これは,まず,患者にマーカーを設置した状態でMRIを撮像し,位置情報を取り込む。そして,穿刺針にもマーカーを装着し,赤外線モニタでモニタリングしてコンピュータにて解析し,ナビゲーションを行うシステムである。実際のプローブの動きと画像が連動し,確認しながら穿刺を行うことができ,小さい病変であっても正確に穿刺することができる。
今後は,このナビゲーションシステムをさらに改良し,生検や局所治療へ応用していきたい。

 

山添 真治

山添 真治
2005年東京慈恵会医科大学医学部卒業。2007年東京慈恵会医科大学放射線医学講座入局,同年助教。2008年東京慈恵会医科大学附属柏病院助教。2012年東京歯科大学市川総合病院助教,現在に至る。専門分野は,IVR,腹部・救急の画像診断。

 


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