セミナーレポート(富士フイルムメディカル)
日本超音波医学会(JSUM)第86回学術集会が2013年5月24日(金)〜26日(日)の3日間,グランキューブ大阪(大阪)を会場に開催された。26日に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー16では,順天堂大学医学部附属浦安病院の吉田幸洋氏を座長に,昭和大学病院産婦人科の松岡 隆氏と,綜合病院社会保険徳山中央病院周産期母子医療センターの中田雅彦氏が講演した。
2013年8月号
日本超音波医学会第86回学術集会ランチョンセミナー16 出生前診断サポートにおける超音波検査の利用法
ブラッシュアップ胎児スクリーニング~Bモードだけじゃもったいない!~
松岡 隆(昭和大学病院産婦人科)
超音波検査の役割には,臨床面と学術面の両面がある。学会等の発表では,さまざまなチャンピオンデータが紹介され,本当に臨床でこんなにきれいな画像が撮れるのかと感じることもあるだろう。ところが実際には,適切な設定とアプリケーションの活用により,チャンピオンデータの7〜8割程度の画像を得ることは可能である。本講演では,臨床に役立つ胎児超音波検査の考え方やアプリケーションの活用法を紹介する。
■妊婦健診のポイント
妊婦の健康診査である「健診」は,その多くが正常例であり,妊婦健診自体がスクリーニングと言える。スクリーニングにおいては,異常の拾い上げを目的とするのではなく,正常であるかどうかをチェックし,その結果として疾患が検出されることが望ましい。
2010年に,国際産婦人科超音波学会(ISUOG)が,胎児超音波診断のためのガイドライン1)を発表しており,そこに胎児スクリーニングのポイントが記載されているが,大切なのは,“Unvisualized(未確認)”の項目をしっかり意識し,スクリーニングから次のステップである検査へと,検査者が目的を切り替えていくことである。
■当院における妊婦健診の流れ
当院では,2000年から胎児スクリーニングを行ってきたが,その中で,最も関心の高い先天性心疾患の検出率について検討した。当初,検出率は順調に推移していたが,2006年頃から伸び悩みはじめ,2009年と2010年には総肺静脈還流異常の偽陰性例が2例確認された。そこで,2011年から新しい健診フローの運用を開始した。
スクリーニングにおいては,陽性所見よりも,正常所見を正しく確認し,陰性的中率を上げていくことが重要となる。
また従来,妊婦健診は,妊娠初期よりも後期に重点を置いたピラミッド型の健診が行われてきたが,後期になればなるほど,音響陰影が多くなり,超音波での胎児の観察が困難となる。そこで,われわれは現在,妊娠初期からふるい分けを行い,おのずとハイリスク例を抽出する,逆ピラミッド型の健診方法を採用している。
■胎児心臓スクリーニングのポイント
複雑な立体構造を持つ心臓を超音波という2Dの断面で観察するのは,簡単ではない。あいまいな4CVや三血管断面(3VV),三血管気管断面(3VTV)の画像は,偽陽性だけでなく偽陰性(=見逃し症例)の原因になる。断面は観察の証拠として残すべきであり,重要なのは断面間の構造的つながりを連続的に観察することである。
図1のような「正確な」4CV断面を描出することは,胎児心臓スクリーニングのスタートにおいて最も重要である。撮像のポイントとして,適切な設定を行い,プローブと胎位胎向のオリエンテーションを決める。プローブ,あるいは胎児を動かして正しい断面(胎児に対して水平断,矢状断)を作り,画像を拡大して観察することで,より良い画像を得ることができる。
■アプリケーションの活用
1)Dynamic Slow-motion Display
胎児の心臓は動きが非常に速い(140bpm)ため,画像をいったんフリーズして,保存された画像をゆっくり動かしながら観察することが多い。しかし,フリーズを解除したときには画面から胎児がいなくなっていることもしばしばである。日立アロカメディカル社製超音波診断装置に搭載されている“Dynamic Slow-motion Display(DSD)”では,画面を2分割し,左側にリアルタイム画像を表示したまま,右側にスローモーション画像が表示でき,胎児を追随して,心拍動の速さを実際の1/2や1/3にすることができるため,弁の動きが明瞭に観察できる(図2)。そのため,DSDを解除しても画面から胎児がいなくなっていることもなく,検査の連続性が保たれる。
2)Dual Dynamic Display
機能異常の診断は形を見るBモードだけでなく,血流そのものを観察可能な“カラードプラ”や“パワードプラ”を用いた観察が必要である。特に“eFlow”は,遅い血流の描出に優れ,血管の有無の観察に適している。例えば,eFlowで肺静脈を観察する際は,パルス繰り返し周波数(PRF)を低くすることで,遅い血流がより明瞭に観察可能となる(図3)。また,“Dual Dynamic Display(DDD)”は,画面を2分割してBモード画像とeFlowモードをリアルタイムに1画面で表示できるため,有用である(図4)。
■症例提示
症例は,高度肺動脈狭窄における圧負荷による三尖弁逆流(TR)症例である。25週の超音波検査にて,Bモードでは異常は認められなかったが,カラードプラで観察したところ,きわめて速いTRが認められた(図5)。パルス(pulse wave:PW)ドプラにて流速計測を試みたが,流速限界があるため計測できなかった。そこで,連続波(continuous wave:CW)ドプラにて計測したところ,TRの流速が400cm/sと確認できた(図6)。CWドプラは従来,セクタプローブでしか使用できなかったが,日立アロカメディカル社製超音波診断装置では,コンベックスプローブでも使用可能である。TRの血流速度により右房右室間の圧較差がわかることは,新生児の治療戦略上,大変重要であるため,通常の産科診療の中でプローブを付け替えることなく簡単にCWドプラが使用できることは,大きな強みであると言える。
このほか,日立アロカメディカル社製超音波診断装置には,2か所のサンプル点を同時に検出可能な“Dual Doppler”という新しい機能が搭載されている。加地らが提唱する肝静脈と下行大動脈の同時血流計測(HV-DAo法)2)により同じ時相で脈波が観察できることは,非常に便利であると思われる。
■まとめ
胎児心臓診断においては,4CVの情報がきわめて有用であり,正確な4CVを描出することで,より多くの情報を得ることが可能となる。また,日頃から超音波診断装置の各設定やアプリケーションへの理解を深め,日常臨床で使いこなしていただきたい。
●参考文献
1)Salomon, L.J., et al. : Practice guidelines for performance of the routine mid-trimester fetal ultrasound scan. Ultrasound Obstet. Genecol., 2010.
2)加地 剛・他:Dual Dopplerを用いた肝静脈および下行大動脈血流同時記録による胎児不整脈評価の実際. MEDIX, 56, 8〜11, 2012.
松岡 隆(Matsuoka Ryu)
1994年筑波大学医学専門学群卒業。同年昭和大学産婦人科学教室,2002年助教,2009年より講師。産婦人科専門医,超音波専門医,日本周産期・新生児学会周産期(母胎・胎児)専門医,臨床遺伝専門医。