セミナーレポート(富士フイルムメディカル)
第118回日本外科学会定期学術集会が2018年4月5日(木)〜7日(土)の3日間,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催された。5日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー8では,帝京大学医学部外科学講座教授の佐野圭二氏を座長に,NTT東日本関東病院外科医長の佐藤彰一氏と日本赤十字社医療センター肝胆膵外科の高本健史氏が,「肝切除ナビゲーションへの挑戦」をテーマに講演した。ここでは,佐藤氏の講演内容を報告する。
2018年7月号
第118回日本外科学会定期学術集会ランチョンセミナー8 肝切除ナビゲーションへの挑戦
肝胆膵手術のシミュレーションとナビゲーション〜必要は発明の母〜
佐藤 彰一(NTT東日本関東病院外科)
「必要は発明の母」という言葉は,ジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』で登場し,トーマス・エジソンが好んで使っていたと言われている。本講演では「必要性」をキーワードに,肝切除シミュレーションの必要性,肝切除ナビゲーションの開発,日立社の“Real-time Virtual Sonography(RVS)”を用いたナビゲーションについて述べる。
「必要性」のスペクトラム
「必要性」には,「まったく必要ない」から「たまに役立つ」「あると便利・安心」「ないと遂行できない」まで,ある程度の幅が存在する。肝切除において,ないと遂行できないものとしては電気メスが挙げられ,また,術中エコーや超音波吸引装置(CUSA),シーリングデバイスもかなり必要性が高いと言える。では,肝切除シミュレーションやナビゲーションはどの程度の必要性になるのか検討した。
肝切除シミュレーションの必要性
肝切除シミュレーションソフトウエアは,2004年に,当時・兵庫医科大学放射線科講師であった三浦行矣先生が,幕内雅敏先生(東京大学名誉教授/日本赤十字医療センター名誉院長/東和病院名誉院長)による肝臓の系統的区域切除術をコンピュータ上でシミュレーションすることをめざして,日立メディコ社(当時)との共同研究によって開発された。図1は,私が東京大学在職時の実際の症例であるが,肝前上区腹側枝(S8 vent)の染色範囲をシミュレーションして肝切除を行ったところ,切断面の画像が術中所見とほぼ一致している。現在では,画像処理ワークステーションを用いて肝容積評価や三次元画像を作成することが当たり前となっており,2012年には「画像等手術支援加算」が保険収載された。シミュレーションは,いまや「あると便利・安心」という位置づけになってきたと考える。
肝切除ナビゲーションの開発
肝切除時の多数の転移性腫瘍の位置確認や,適切な切離線の確認などを目的に,いくつかの肝切除ナビゲーションソフトウエアを考案した。一つは腹腔鏡下肝切除術の画像に日立社製の肝切除シミュレーションの画像を透過させて重畳表示し,腫瘍や切除範囲のナビゲーションとするものである。
さらに,拡張現実の技術を用いたナビゲーションも開発した。肝臓上に滅菌したプラスチックのマーカーを置いてモバイルデバイスで術野を撮影し,その画像に重ねてワークステーションで作成した三次元画像を表示する。マーカーに合わせて三次元画像も動くため,腫瘍の位置や切除範囲がわかりやすい。この技術は肝切除に限らず,血管の解剖の把握が重要な膵頭十二指腸切除術などにも有用である。
肝切除ナビゲーションは,手術室での重要な局面で外科医を助ける技術になるとともに,ゆくゆくは手術の安全性・効率性を高める技術になると考えている。
RVSを用いたナビゲーション
RVSは,観察中の超音波画像と,CTやMRIなどの画像の同一断面を並列表示して比較可能なシステムで,もともとはラジオ波焼灼療法(RFA)の支援技術として日立メディコ社(当時)が開発した。さらに,前出の三浦行矣先生が2011年,RVSを用いて系統的肝切除を可能にするためのナビゲーション技術の研究を開始し,私も参加させていただいた。このナビゲーション技術は,手術台の横に磁場発生装置を設置し,超音波プローブに取り付けた磁気センサによって三次元的な位置情報を取得した術前のCTやMRIの画像上にシミュレーションデータを重ねた画像と実際の術中エコー画像を並べて表示し,リアルタイムに同期させて動かすことができる。
1.症例提示
症例1は,臓側面から後下区門脈枝(P6)を穿刺染色して系統的切除を行った肝細胞がん症例である。臓側面からはP6のオリエンテーションをつけづらいことがあるが,RVSの画像を参照しながら穿刺染色を行ったところ,ほぼ術前のシミュレーションどおりの位置を染色することができた(図2)。
症例2は,大腸がん肝転移症例で,後上区(S7)に腫瘍があり,主要な血管をメルクマールにして超音波画像と造影MR画像の位置合わせを行った。RVSでは位置合わせに若干のコツが必要であるが,本症例ではS7の腫瘍が2つの画像で並列に同期表示できている(図3)。
症例3は,大腸がん肝転移の化学療法後の症例である。前上区(S8)に大きな腫瘍,S7に小さな腫瘍があるが,化学療法後に腫瘍が縮小したため,術中エコーにてS7の腫瘍が確認できず,RVSを施行した。しかし,化学療法によって腫瘍が著明に縮小していたため,造影MR画像との同期表示でも確認できず,造影超音波を施行しても腫瘍を見つけることができなかった。そこで,再度RVSに立ち返り,触診を行いながら造影MR画像と造影超音波画像を同期表示したところ,径6mmの腫瘍が確認できた(図4)。
2.RVSの利点と課題
RVSは,CT・MR画像と術中エコー画像との直接比較による病変の同定が可能で,特に近年増加している化学療法後に縮小した大腸がん肝転移などの同定に有用である。また,シミュレーション画像を重ね合わせることで,切離面のナビゲーションとしても使用できる。
一方,位置合わせに若干の慣れを要するため,誰でも簡単に位置合わせが可能な機能の搭載が期待されるほか,肝臓の授動・変形への対応が求められる。軟らかい肝臓全体を位置合わせすることは困難であるが,病変の周囲に限って位置合わせを行いナビゲーションすることは,現段階ですでに可能と考える。
まとめ
肝切除ナビゲーションの必要性は,「あると便利・安心」というレベルに近づきつつあると思われる。症例によっては肝切除ナビゲーションが必要とされる場面が必ずあり,さらなる技術の改良によって,必要性も向上していくものと考える。
佐藤 彰一(Sato Shoichi)
2000年 東京大学医学部医学科卒業。2009年 同大学医学部附属病院肝胆膵・人工臓器移植外科助教。2010年 埼玉医科大学総合医療センター肝胆膵外科助教。2014年よりNTT東日本関東病院外科医長。
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