セミナーレポート(富士フイルムメディカル)
第30回日本泌尿器内視鏡学会総会が2016年11月17日(木)〜19日(土)の3日間,ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター(大阪市)などを会場に開催された。18日に行われた株式会社日立製作所共催のイブニングセミナー5では,神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野教授の藤澤正人氏を座長に,大阪市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学病院講師の山﨑健史氏と神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野特命准教授の日向信之氏が,「ロボット支援腎部分切除術における術中エコーアプローチの有用性」をテーマに講演した。
2017年3月号
第30回日本泌尿器内視鏡学会総会イブニングセミナー5 ロボット支援腎部分切除術における術中エコーアプローチの有用性
ロボット支援下手術における術中超音波の新たな展開 ─小型化プローブの使用経験
日向 信之(神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野)
腎部分切除術は,根治的腎摘除術と同等の制がん性と良好な長期予後を有し,機能温存が可能である。また,ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術(RAPN)は,高解像度な3D視野や鉗子の自由度の高さにより,阻血時間の大幅な短縮や腹腔鏡下腎部分切除術(LPN)の欠点を克服しうることが多くの論文で報告されている。本邦では,2016年度の診療報酬改定にてRAPNが腎部分切除術の保険適用となり,さらなる普及が予想される。
腎腫瘍の画像診断はCTがゴールドスタンダードであり,特に3D画像は術前の治療計画にきわめて有用であるが,腎臓は剥離すると動くため,術中の参照画像としてはリアルタイム性などの点で不十分である。一方,開放手術での腎部分切除においては,以前から術中エコーがリアルタイムのモニタリングとして有用であることが報告されているが,RAPNにおける有用性の報告は見られない。術中エコーは,現在は腫瘍局在の同定,想定外の腫瘍局在の探索,切除断端陽性を避けうる切除深度(距離)の決定,水平方向の切除範囲の予測,内包型腫瘍の同定などに用いられるほか,最近では選択的動脈遮断後の阻血区域の確認における有用性が期待されている。
本講演では,RAPNにおける術中エコーの有用性,特に小型化された日立製作所製の術中エコープローブ「L51K」の使用経験を中心に述べる。
RAPN用エコープローブの特長
術中エコープローブは,腹腔鏡用として屈曲なしのリジッド型から前後左右4方向に屈曲するフレキシブル型へと進化し,2014年には日立製作所がドロップイン型プローブ「L43K」を発表した。L43Kには,(1) ロボットアームの鉗子で直接把持することで可動域を拡大し走査の自由度を高められる,(2) 接触面がフラットなリニアプローブのため凹凸のある臓器でも良好な画像が得られる,(3) プローブ背面に5mm間隔の目盛りがある,(4) ケーブルがしなやかで耐久性が高い,(5) 12mmのトラカールに挿入可能,(6) カラーフロー,eフロー,パワードプラ表示も可能,などの多くの特長がある。しかし,プローブ先端の長さが51mmと大きくケーブルがやや太いため,フレキシビリティの点で改善が望まれていた。
そこで,2016年に登場したのがL51Kである(図1)。L51Kは,L43Kの特長に加え,プローブ先端の長さが25mmと短く,幅も少し細くなり,ケーブルも細くなったため,10mmのトラカールへの挿入も可能である。
RAPNにおける術中エコーの使用の実際
腫瘍の切除法にはstandard partial nephrectomy(標準的切除)とenucleation(核出術)があり,腫瘍学的には同等とする報告がある一方で,enucleationを行うと切除断端陽性が増加するとの報告や,enucleationを行っても機能温存面で有利な差はないとする報告もあることから,当院では主にstandard partial nephrectomyを採用している。また,RAPNにおける術中エコーでのマーキングは,大きく分けて水平断面を用いた方法と前額断面を用いた方法で行っている。エコー走査の際には,腎被膜に対し走査面が垂直となるようプローブを動かすことが,腫瘍の境界や大きさを正しく理解するために重要である。
1.L51Kの使用経験
症例1は,36歳,男性,右腎細胞がんで,RENAL Nephrometry Score(RNS)は7aである(図2)。腫瘍はやや埋没しており,経腹膜アプローチにてRAPNを施行した。術中エコーを用いて全周のマーキングを丹念に行っていくが,L51Kはケーブルが柔らかく,腫瘍に押し当てながら走査しても把持鉗子から外れることがないため,把持したままストレスなく操作することができる。本症例は切除断端陰性で,出血は少量,阻血時間は19分であった。
症例2は,44歳,女性,左腎細胞がんで,RNSは9aである(図3)。腎下極の大半を置き換えるほど大きな腫瘍(T1b)で,経腹膜アプローチにてRAPNを施行した。ドプラ画像(図3右下)では,腎門からの血管が腫瘍に対してどのように走行しているか,あるいは動脈の位置などを確認可能である。本症例は腫瘍が大きいため,マーキングは水平方向と前額断の両方で行うが,プローブに目盛りがあるため,腫瘍の境界を理解しやすい。それを基に切除のイメージを膨らませつつ,時間をかけて全周のマーキングを丹念に行った。本症例は切除断端陰性で,出血は50g,阻血時間は25分であった。
症例3は,63歳,男性,左腎細胞がんで,RNSは7pである(図4)。完全埋没型の腫瘍であり,後腹膜アプローチにてRAPNを施行した。マーキングの方法は基本的には症例2とほぼ同じであるが,完全埋没型の腫瘍の場合はCTの3D画像があっても,術中エコーでマージンをしっかり確認しないと手術は困難である。本症例は切除断端陰性で,出血は少量,阻血時間は19分であった。
2.ケーブル細径化の思わぬメリット
L51Kではケーブルが細径化したことで,1本の助手用ポートから助手用鉗子とL51Kを同時に使用可能となった。ウージングがあった場合の吸引も可能であり,思わぬメリットと言える。
3.高難度症例への対応
低侵襲腎部分切除術の高難度症例として,『泌尿器腹腔鏡手術ガイドライン2014年版』(日本泌尿器内視鏡学会編)には, (1) 径4cm以上の腫瘍,(2) 腎門部腫瘍,(3) 埋没型腫瘍,(4) 切除により尿路が開放される症例,(5) 囊胞性症例が挙げられている。これらの症例に対しては,すぐに阻血や切除を行うのではなく,術前・術中シミュレーションを丹念に行う必要がある。
まとめ
RAPNの保険収載に伴い,本邦における症例数の増加が予測される。術中エコーがRAPNの治療成績を改善するかどうかについてのエビデンスは乏しいものの,術中のリアルタイム性により,現時点では必須の技術と考えられる。
また,小型化されたRAPN用エコープローブL51Kは,術中エコーの難易度を低下させうる。特に,高難度症例に対しては,切除断端陰性を達成するために,正確な術中エコー技術が要求される。
【ロボット支援根治的前立腺全摘除術の際のL51Kの前立腺尖部描出への応用】
前立腺尖部の形態は個体差が大きいが,それに応じた尖部処理を行い尿道長を最大限に温存することで,術後尿禁制の早期回復が得られることが報告されている。そこで,当院にて,L51Kをロボット支援下前立腺全摘除術(RARP)における前立腺尖部の描出に応用した。
L51Kでは,プローブのサイズが小さくなったことで尖部に当てることが可能となり,形態をきわめて明瞭に描出可能であった(図5)。尖部と括約筋部尿道の処理の際に,形態の個体差の情報をリアルタイムに得られる可能性があり,今後L51Kは,RARPの領域でも威力を発揮するものと期待している。
日向 信之(Hinata Nobuyuki)
1998年 神戸大学医学部卒業。2012年 神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野助教。2013年 同講師。2015年 Roswell Park Cancer Institute,research fellow。2016年 神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野特命准教授。
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