セミナーレポート(富士フイルムメディカル)
2016年8月号
Ultrasonic Week 2016ランチョンセミナー19
進化し続けるエラストグラフィ ─病理診断との対比より─
森田 孝子(名古屋医療センター乳腺外科)
病理像との対比の重要性とエラストグラフィ(Real-time Tissue Elastography:RTE)の進化
超音波診断装置の技術向上に伴い,Bモード画像はよりコントラストが向上し,繊細に表現されている。その画像を病理像と対比することで,表現されているものがどのような現象をとらえているかを理解し,診断に最大限生かすことが求められている。また,エラストグラフィにおいても病理的な観点から硬さの表現を見ることは重要である。例えば,組織構築においてはスピキュラや膜状構造,管状構造など,複雑な微細構造では細胞の配列や結合状態など,組織組成では水分含有量や脂肪成分,線維成分など,組織弾性に関与する要素は多様である。
日立製作所の超音波診断装置に搭載のエラストグラフィは,感度が向上し,No Manual Compression手技でも安定した撮像が可能となり,さらなる進化を遂げた。また,乳腺領域での脂肪組織と関心領域のひずみの比(Fat Lesion Ratio:FLR)の算出では,計測に最適なフレームを選択する“Auto Frame Selection機能”と,FLR算出がボタン1つで自動的に行われる“Assist Strain Ratio機能”も開発されている。
今回,この新しいエラストグラフィを使用してみたので,その初期経験を報告する。今回57症例に施行してみたが,Assist Strain RatioによるFLR値は,文献で示されている閾値に矛盾しない結果が得られた(図1)。計測位置により組織間でのFLR値がオーバーラップするケースも見られたが,FLRの計測が容易になったことは,客観的な指標を作る上において重要と考える。
本講演では6症例を供覧し病理像との対比の重要性を述べたが,本稿では誌幅の制限上,症例1と5について報告する。
症例提示
●症例1
症例1は,Bモード画像(図2 b,d)にて分葉形の低エコー腫瘤が認められ,後方エコーの高い部分と低い部分が混在し,前方境界線が断裂していることから浸潤性乳管癌,カテゴリー5と診断できる。しかし,腫瘤の内部エコーをよく見ると,非常にエコーレベルの低い部分と中間の部分が粒状に表現されていることがわかる。エラストグラフィ(図2 a,c)では,腫瘤は全体に硬いことを示す青で表示された。
エラストグラフィでは加圧の程度がStrain Graphで表示されるが,同時に表示フレームの時相もStrain Graph上で知ることができる。検者自身が最も適切と判断したところはピンク(図2 a↑),装置が適切と判断したフレームはブルーのバー(図2 c↑)でグラフ上に重畳表示される。本症例では,手動のものと自動のもので,ほぼ同じようなフレームが選択されていることがわかる。
また,FLRの計測に当たっては,ボタンを押すと病変部と脂肪の部分に自動でROIが設定され,数字が表示される。初めの自動的な設定ではFLRは1.97であったが,硬いところを目視しROIを設定し直すと,FLRは22.3と大きな値が得られた(図3)。
カラードプラで血流を見ると,腫瘤に1本の嵌入血管が複雑に入り組んでいることが認められた(図4)。
本症例は乳房温存術が施行された。Bモード画像(図2 b,d)を振り返ってみると,図3にてROIを置いた場所には硬い間質(図5 d)があり,その周囲にはバラバラと癌細胞が浸潤し,間質と同量に認められる(図5 c)。この間質は正常の間質ではなく,癌細胞と共存している間質であると思われる。このほか,細胞成分の非常に多い部分では,癌細胞が脂肪の層に染み出そうとしており,Bモードでhaloやエラストグラフィで青い部分の突出部位が示された。
本症例は,17mmのルミナールAタイプの浸潤癌で,間質が非常に硬く,癌胞巣を形成し,血流も豊富に供給されていることがわかる。
●症例5
症例5は,横長の楕円形の腫瘤で,左右で内部エコーが異なり,均質な部分と粒状の低エコーの部分がある(図6)。血流は右側の低エコーの部分にランダムに認められるが,左側の腫瘤では周囲から内部に流入する部分がある(図7)。エラストグラフィでは,緑の部分が線維腺腫,青い部分が浸潤癌であった(図8)。病理組織標本を見ると,エラストグラフィで青い部分は癌胞巣と間質が混じり,緑の部分は線維腺腫であった。また,エラストグラフィで緑色の中に青い部分があり(図8 ↓),線維腺腫内に一部癌が存在していることが判明した(図9 b↓)。エラストグラフィが病理像を推定するのに有益な症例であった。
まとめ
超音波診断装置を用いて日常の診療を行うに当たり,固定観念で診断を下すのではなく,一度丹念にBモードを観察した上で,常にBモードに立ち返りながらドプラやエラストグラフィなどの技術を活用して血管構築や硬さの情報を収集することで,より良い診断や検診が可能になると考えている。
森田 孝子(Morita Takako)
1987年大阪医科大学卒業。名古屋医療センター,癌研究会附属病院のレジデントを経て,2005年に中日病院乳腺外科部長。2011年2月より名古屋医療センター乳腺科。
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