セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

第27回日本内視鏡外科学会総会が2014年10月2日(木)〜4日(土)の3日間にわたり,盛岡地域交流センター・マリオス(盛岡市)など4会場で開催された。2日に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー6では,日本赤十字社医療センター院長の幕内雅敏氏を座長に,がん研有明病院消化器外科副医長の石沢武彰氏と岩手医科大学医学部外科学講座講師の新田浩幸氏が「内視鏡下手術における超音波技術の有用性」をテーマに講演した。

2014年12月号

第27回日本内視鏡外科学会総会 ランチョンセミナー6 内視鏡下手術における超音波技術の有用性

腹腔鏡下肝切除における造影超音波の有用性

新田 浩幸(岩手医科大学医学部外科学講座)

新田 浩幸(岩手医科大学医学部外科学講座)

腹腔鏡下肝切除は2010年に保険収載され,手術器具の進歩と相まって低侵襲な手技として普及してきた。本講演では,岩手医科大学外科における腹腔鏡下肝切除の現状と日立アロカメディカル社製の超音波診断装置「ARIETTA70」を用いた術中造影超音波の有用性を中心に報告する。

当科における腹腔鏡下肝切除の現状

当科では,1997年3月から2014年9月まで,完全腹腔鏡下266例,腹腔鏡補助下182例,計448例の腹腔鏡下肝切除術を行ってきた(図1)。1997年から完全内視鏡下の肝切除を導入し,当初は部分切除あるいは外側区域切除を年間数例行うという状況であった。2002年から小開腹創をおいた腹腔鏡補助下切除術(ハイブリッド手術)を導入し,葉切除など広範囲切除にも適応することで症例が増え, その後も症例数が徐々に増加している。

図1 岩手医科大学外科における腹腔鏡下肝切除術

図1 岩手医科大学外科における腹腔鏡下肝切除術

 

腹腔鏡下肝切除術に使用する機器と術式

腹腔鏡下肝切除術にはさまざまな機器を使用するが,当科では初期においては,マイクロ波凝固装置(Microtaze)やラジオ波焼灼装置(Cool-tip)を用いて前凝固を行い,超音波外科吸引装置(Cavitron Ultrasonic Surgical Aspirator:CUSA)あるいは超音波凝固切開装置(Harmonic)を使用してきた。2011年頃から,肝臓に流入する血流を遮断するプリングル法(Pringle method)を導入したことで出血が抑えられるようになり,モノポーラ(IO電極)とClamp-Crush法,バイポーラ系のVessel Sealing System(LigaSure or EnSeal)を使うことで,よりシンプルで安全な手技が可能になっている(図2)。小さな肝腫瘍に対する手術から始まった腹腔鏡下肝切除は,さまざまなデバイスの進化によって,現在は完全腹腔鏡下で解剖学的な切除まで可能になった。
腹腔鏡下肝切除の手術手技は,(1)ポート挿入,気腹,(2)腹腔内観察,超音波検査,(3)授動,(4)肝門部操作,(5)肝実質切離,(6)自動縫合機によるグリソン鞘および肝静脈の切離,(7)切除肝の回収,という手順で進められる。肝門部操作については,葉切除は血管の個別の処理,亜区域切除,前/後区域切除はグリソン一括にて行っている。

図2 腹腔鏡下肝切除における使用機器の変遷

図2 腹腔鏡下肝切除における使用機器の変遷

 

術中造影超音波の有用性

術中超音波は,視野の限られた腹腔鏡下切除術において,腫瘍とその周囲の関係を把握するため,腹腔鏡下手術を開始した当初から使用してきた。現在は,ARIETTA70と術中超音波探触子「UST-5418」を使用し,ソナゾイドを用いた術中造影超音波を行っている(図3)。腹腔鏡用の超音波探触子であるUST-5418は,先端部が上下左右4方向に90°の屈曲が可能で,可動性が高いプローブである。このUST-5418とARIETTA70による造影超音波は,病変の描出,surgical marginの確保,阻血部位の描出などに有用性が高い。

図3 ARIETTA70と術中超音波探触子UST-5418

図3 ARIETTA70と術中超音波探触子UST-5418

 

以下に,ARIETTA70を用いた腹腔鏡下肝切除術について,実際の術中映像を供覧する。

●症例1:大腸がん肝転移の腹腔鏡下肝S8部分切除
肝S8にある転移性肝がんに対して腹腔鏡下肝部分切除を行った。腫瘍は肝表面近くにあるが露出しておらず,腫瘍深部のマージン確保が重要となるため,ソナゾイドを用いて術中造影超音波を施行した(図4)。ARIETTA70は解像度が高く,ソナゾイドによる腫瘍の濃染もクリアに確認できる。手術時間は2時間前後だが,その間ソナゾイドは残留しており,切除中も繰り返し超音波による撮像を行い,切除部分の細かな脈管や血管の走行を確認することができた。手技では術中超音波画像によって十分なマージンを取って切除が行えたことが確認できたほか,切除する腫瘍以外の病変についても造影超音波で確認し安全に進めることができた。

図4 症例1:大腸がん肝転移に対する腹腔鏡下肝S8部分切除

図4 症例1:大腸がん肝転移に対する腹腔鏡下肝S8部分切除

 

●症例2:肝硬変合併肝細胞がん(Child-Pugh A,ICGR15 27%)の腹腔鏡下肝S3亜区域切除
肝予備能が不良なC型肝硬変の症例で,S3亜区域切除を選択した。事前に動脈塞栓術(TAE)が行われており,その影響による癒着が見られたが,S3のグリソン鞘を確認してクリップし,表面のデマルケーションラインと造影超音波で虚血域を確認してマーキングを行い,クラッシュ法にて離断を進めた(図5)。造影超音波では,虚血域がはっきりと確認でき,腫瘍と離断面の関係をリアルタイムに確認しながら手技を進めることが可能となる。本症例では肝硬変が進行しており,クラッシュしづらい部分もあったが,肝静脈に沿った切離が可能であり,S3の亜区域切除を終了することができた。切離後,残存するソナゾイドでS2の造影超音波を行い,腫瘍が切除されていることを確認した(図6)。

図5 症例2:肝硬変合併肝細胞がんに対する腹腔鏡下肝S3亜区域切除

図5 症例2:肝硬変合併肝細胞がんに対する腹腔鏡下肝S3亜区域切除

 

図6 症例2:肝硬変合併肝細胞がんに対する腹腔鏡下肝S3亜区域切除(S3グリソン鞘のクリップ後)

図6 症例2:肝硬変合併肝細胞がんに対する腹腔鏡下肝S3亜区域切除
(S3グリソン鞘のクリップ後)

 

肝細胞がんに対する手術成績

肝細胞がんに対する手術成績を,腹腔鏡下手術と開腹手術について2010年までの症例で比較した。肝細胞がんでは,開腹81例,腹腔鏡59例であり,手術成績は手術時間305分と249分,出血量1038mLと448mL,術後在院日数31.3日と14.6日などとなっているが,長期成績では変わりはない。また,転移性肝がんでは開腹69例,腹腔鏡101例で,開腹の方が腫瘍径の大きい症例が多く,術式も開腹が大きな肝切除が多かった。手術成績では,手術時間277分と224分,出血量608mLと111mL,術後在院日数16日と9日などとなっている。長期成績についてもHCCと同様に両者に差はないが,腹腔鏡下肝切除術の有用性については検討が続けられており,今後の成果を期待したい。

腹腔鏡下肝切除に求められること

腹腔鏡下肝切除はもはや特別な手技ではなく,社会的要因,術者要因,患者要因をトータルに判断して適正に行っていくことが求められる。デバイスの使用を含めたコストや手術時間の短縮などの安全性,それに伴う手術成績の向上を追究していくことが求められる。その中で,造影超音波と高解像度の超音波診断装置などが開発されて,それらが手技に取り入られることで精度が向上し,いっそうの普及につながることが期待される。

 

新田 浩幸(Nitta Hiroyuki)
1993年 岩手医科大学卒業。1997年 同大学院卒業。2002年 岩手医科大学医学部外科学講座助手。2007年〜同講師。

 

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