セミナーレポート(富士フイルムメディカル)
日本超音波医学会第87回学術集会など5つの超音波関連学会および研究会の同時開催による超音波Week 2014が,2014年5月9日(金)〜11日(日)の3日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。11日に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー24では,昭和大学病院ブレストセンター長の中村清吾氏を座長に,昭和大学横浜市北部病院副院長の福成信博氏と筑波メディカルセンター専門副院長/ブレストセンター長の植野 映氏が,「Real-time Tissue Elastographyの新しい展開」をテーマに講演した。
2014年9月号
超音波Week 2014 ランチョンセミナー24 Real-time Tissue Elastographyの新しい展開
ここが大事!! エラストグラフィを活用した甲状腺疾患へのアプローチ
福成 信博(昭和大学横浜市北部病院)
甲状腺腫瘍の治療に当たり,最近,特に議論されているのは,(1)微小乳頭癌に対する臨床的対応,(2)濾胞性腫瘍の診断,(3)再発・進行癌に対する集学的治療,(4)良性結節に対する治療方針,(5)T2症例に対する全摘出術の可否である。これらについて,画像診断,インターベンション,細胞診などを用いてどのように対応するかが問われているが,その際,非常に大きな役割を果たすデバイスの1つに超音波がある。本講演では,甲状腺腫瘍の診療における超音波を用いたわれわれのアプローチについて述べる。
加療方針を示唆できる超音波診断
現在の超音波診断装置は,2〜3mmの微小病変が検出でき,腫瘍径の計測のみならず浸潤評価や危険度の推察も可能なため,手術,非手術,インターベンションといった加療方針の決定に役立てることができる。また,充実性腫瘍の鑑別診断においては,超音波を用いて血流や組織弾性を評価することで濾胞癌の診断も可能である。
最近の超音波診断装置には,Bモードや造影も含む血流評価に加え,フュージョンイメージングや3D/4Dイメージングなど,多くのアプリケーションが搭載されている。なかでも日立アロカメディカル社はこの10年,エラストグラフィ(Real-time Tissue Elastography:RTE)による組織弾性評価に取り組んできた。RTEは,体表からの圧迫によりROI内の組織のひずみを赤(軟らかい)から青(硬い)のカラーで可視化し,Bモード画像に重ねてリアルタイムに表示する。近年では乳腺のみならず,甲状腺や前立腺,肝臓にも適応が広がっている。
甲状腺腫瘍の評価における超音波の役割
甲状腺超音波の役割として,(1)甲状腺結節の発見と鑑別診断,(2)バセドウ病,橋本病,無痛性甲状腺炎などのびまん性疾患における病態の把握,(3)甲状腺の穿刺吸引細胞診(以下,FNA)やインターベンションにおけるガイドおよび治療効果判定の3つが挙げられる。Bモードだけでも5mm程度の微小癌を発見し,鑑別診断まで行うことが可能であるが,濾胞癌の鑑別は困難なケースが多い。
これまで海外の多くの文献では,甲状腺腫瘍の鑑別について良性腫瘍と悪性腫瘍に大別して検討されていたため,悪性腫瘍の中に乳頭癌と濾胞癌の両方が含まれ,研究によって成績にブレが生じていた。しかし,最近になってMayo Clinicから,Bモードでは診断がきわめて困難な濾胞性腫瘍については,血流評価なども含めて判断することを推奨する論文が発表された1)。つまり,まずはBモードで乳頭癌を診断し,それ以外の充実性腫瘍については,血流評価や組織弾性評価を確実に行っていくべきと考えている。
加療方針の判断におけるエラストグラフィの役割
濾胞癌の術前診断はきわめて困難であり,現状では超音波検査,FNA,血中のサイクログロブリン(以下,Tg)が主な判断材料となる。一般的には,充実性腫瘍で腫瘍径が5cm以上,豊富な腫瘍内血流,拍動係数(PI)・抵抗係数(RI)高値,Tg高値(1000ng/mL以上)であれば手術適応となる。一方,この条件を満たさない場合の治療適応の判断も重要であり,ここにRTEがどの程度寄与できるかを十分に検証する必要がある。
例えば,4〜5cmの充実性腫瘍で,Tgは200〜300ng/mLとやや高値,カラードプラにて血流が認められるが,RTEにて全体がほぼ緑で表示される軟らかい腫瘤は基本的には良性と判断できるが,濾胞型乳頭癌の可能性も考えられるため,当院ではこのような症例にはFNAを勧めている。
濾胞癌は,FNAでは完全に否定できず,最終的には摘出標本にて診断が確定するため,通常,手術症例から濾胞癌の診断成績を検討するretrospective studyとなる。しかし,次のステップとして,今後は経過観察中(非手術)の症例について,画像診断からprospectiveに検討して診断・治療を行ってよいと考えている。それが可能になった理由として,カラードプラに加えてRTEを行うことで偽陽性を減らすことができたことが挙げられる。
図1は濾胞腺腫の典型例である。血流が非常に多いものの,RTEでは全体が均一な緑の軟らかい腫瘤として描出されている。図2は濾胞癌の典型例で,血流が多く,RTEにて腫瘤辺縁が青く硬いことがわかる。
このように,Bモード,ドプラ法,エラストグラフィを併用して治療戦略を組み立てることが重要であり,さまざまなアプリケーションを積極的に活用すれば,不必要な細胞診や手術が回避できると考えている。
症例提示
●症例1:橋本病+腺腫様甲状腺腫(AG)疑い(図3)
症例1では,橋本病の病変の中にRTEにて青く硬い領域が認められた。乳頭癌が疑われFNAが施行された結果,AG疑いにて経過観察となった。
●症例2:過形成結節(図4)
症例2では,良性の充実性部分に一部,嚢胞性の領域が認められる。カラードプラでは血流が少なく,RTEでも全体がほぼ均一に描出された。当院では最近,このような症例にはFNAを積極的には施行していない。
甲状腺インターベンションにおけるエラストグラフィの有用性
近年,インターベンションの手法としてRFAやレーザー治療(ILP),高密度焦点式超音波治療法(HIFU)など,さまざまな方法が登場しているが,当院では主に,経皮的エタノール注入療法(PEIT)とRFAを行っている。RFA施行時に最も問題となるのは,適切な焼灼範囲の確定であり,最適な治療効果を得るには術中の判断がきわめて重要となる。Bモードだけでは焼灼範囲の評価は困難だが,RTEでは焼灼直後の硬くなった腫瘍を明瞭に描出できる。
図5は,RTEの4Dエラスト画像である。RFA施行中の針先の断面を冠状断像にて描出可能なため,穿刺部位を明確に把握することができる。3Dエラスト画像(図6)でも,RFA前後の組織の硬さの変化が明瞭に描出され,治療効果判定に有用である。
なお,インターベンション後の組織変化は,RTEにて乳頭癌や低分化癌と誤認する可能性があるため,臨床情報の共有と画像情報の十分な理解が求められる。
まとめ
甲状腺腫瘍の診断において,RTEは乳頭癌の発見や教育的な役割が大きく,スクリーニングにも積極的に活用すべきと考えている。なかでも濾胞性腫瘍の鑑別診断は最も重要であり,十分に活用することが求められる。また,RTEにて良性と確認された場合は,不必要なFNAの削減にも貢献する。なお,現在,海外ではびまん性疾患の病態把握におけるRTEの役割についても報告されているが,これについては今後の検討課題と考えている。
●参考文献
1)Sillery, J.C., et al.:Thyroid Follicular Carcinoma;Sonographic Features of 50 Cases. Am. J. Roentgenol., 194, 44〜54, 2010.
福成 信博(Fukunari Nobuhiro)
1984年昭和大学医学部卒業。88年同大学院卒業。中央鉄道病院外科勤務などの後,94年からカリフォルニア大学サンフランシスコ校内分泌センター留学。99年伊藤病院外科医長,2005年昭和大学横浜市北部病院外科准教授,2009年同教授を経て,2014年同副院長,外科系診療センター長,外科教授。
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