技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2020年3月号

Cardiac Solution No.3[Angio]

最新血管撮影装置「Alphenix」の実力

キヤノンメディカルシステムズ株式会社 国内営業本部X線営業部VL営業技術担当 富田 奈々

■はじめに

2018年4月より販売開始となった最新血管撮影装置「Alphenix」は,国内外の多くのご施設にお使いいただきながら進化を遂げており,さらなる機能改善にも取り組んでいる。従来より求められてきた,高画質・低被ばくの両立はもちろんのこと,ワークフローを大幅に改善し,術者が治療に専念できる環境を実現した。
本稿では,キヤノンメディカルシステムズの生み出した最新の技術やアプリケーションを解説する。

■画像処理装置を一新,さらなる高画質化を実現

血管撮影装置における画像の描出は,X線を出力する部分(高電圧発生器やX線管)からモニタに表示するまでの,すべての過程が画質に関与する。Alphenixでは,この画像描出に関与するイメージングチェーンを一からすべて見直し,大幅な改善を行った。なかでも画像処理装置を一新し,画像として表現できる幅を表すダイナミックレンジは,従来と比較して16倍も拡大している。直接線の影響によって生じていたハレーション(白飛び)は,補償フィルタを入れずとも防ぐことができるようになった。これにより冠動脈造影の際に生じる肺野境界のハレーションを抑え,従来では描出しにくかった血管までもがしっかりと確認できるようになった(図1)。
さらに,X線を発生させる際の高電圧装置も改良を加え,1パルスあたりのX線の出力量を変えずに,照射時間を2/3まで短縮することを実現した。パルス幅が短縮されたことにより,動きの大きい部分でも残像を低減できるようになった。
こういったさまざまな技術を搭載することにより,ただ血管像の視認性を向上させただけでなく,石灰化などの病変,ワイヤの視認性も向上し,診断・治療に有用な画像の提供を可能としている。

図1 ダイナミックレンジ拡大による従来装置との画像比較

図1 ダイナミックレンジ拡大による従来装置との画像比較

 

■必要な情報を瞬時に提供するリアルタイム画像処理

前述の画像処理装置の一新により,最適な画像処理を高速にリアルタイムで施している。タイムラグがないため,目的に応じた画像を瞬時に提供でき,治療の安全性と時間の短縮につなげることができる。
経皮的冠動脈形成術(PCI)で必要とされるステント強調処理は2つのモードを持ち合わせ,状況に応じて使い分けが可能だ(図2)。1つは“Dynamic Device Stabilizer(DDS)”という,バルーンマーカーを自動検出し,その部分でマーカーを固定し,そこに存在するステントを加算平均処理することでステントのエッジを強調する機能だ。マーカー固定でステントを強調表示することが可能なため,ステントのエッジやオーバーラップ部分を確認できる。ただ,一般的にこの固定方式のステント強調処理は,動きの大きい部分や低フレームレート時では固定ができないこともある。加えて,2点のマーカーが必須であるという制限がある。そこで当社は,“Stent Mode”という,デバイス部分の信号成分を強調する画像処理のみでステントを強調させる撮影プログラムを開発した。特別な操作は必要なく,通常の撮影と同様の流れでステントを強調でき,マーカーが不要なため,ステント留置後のフォローアップでも使用可能となる。固定も必要ないため,ローテーションアンギオの際に使用できることも,このStent Modeの強みである。

図2 ステント強調モード比較

図2 ステント強調モード比較

 

■血管内治療をスムーズにサポートする自社製ワークステーションとタッチパネルコンソール

慢性完全閉塞病変(CTO)などコンプレックス病変の治療では,長い時間を要することも多い。そこで当社は,少しでも治療時間を短縮化し,患者や術者の負担を軽減するため,血管内治療に特化した自社製の3Dワークステーション「Alphenix Workstation」を開発し,血管撮影装置とワークステーションとの連携強化を図り,その結果,ワークフローの向上を実現した。
3D Viewerでは,治療前に撮影したCTなどの3D画像を用いて,バイプレーンでのワーキングアングルの検証を可能とする。ビューワ上の3D画像の回転に合わせ,Cアームのモデルが角度を再現し,実際にCアームを動かさずとも再現可能な角度であるか確認できる(図3)。検証した角度を保存することで,Auto Angleにてバイプレーンの両アームの角度を同時にセット可能だ。これにより,アングル確認の際の透視や造影を減らすことができ,治療時間の短縮だけでな
く,被ばくの低減と造影剤の低減にもつながる。
また,タッチパネルコンソール“Alphenix Tablet”では,直感的な操作を可能とし,術者の手元でほぼすべての機能を操作することができる。撮影プログラムや大画面モニタのレイアウトの切り替え,さらにはAlphenix Workstationの操作も行えるので,術者はベッドサイドから移動することなく治療を完結できる。

図3 バイプレーンでの角度検証(干渉する角度の場合)

図3 バイプレーンでの角度検証(干渉する角度の場合)

 

■患者だけでなく術者の被ばくも低減

冒頭に述べたイメージングチェーンの一新により,発生させたX線を無駄なく画像生成に使用でき,工場出荷時のデフォルト線量は従来装置と比較して45%ほど低減することができた。加えて,Alphenixではさまざまな被ばく低減技術も搭載されている。この技術の中から当社独自の機能をご紹介する。
機能の一つに,“SPOT ROI”がある。SPOT ROIは,インターベンション中に術者の関心領域外の線量を大幅に低減する画期的な機能だ。術者が必要とする関心領域には通常の透視を行うが,それ以外のカテーテルのサポート位置や動きを把握しておきたい箇所は通常透視の65〜85%ほど線量低減し,必要十分な線量での透視が可能となる。ROIの位置は術者の手元のコンソールで自由に変更でき,複雑な操作なく関心領域外の被ばくを低減できる(図4)。

図4 SPOT ROI

図4 SPOT ROI

 

さらに,当社には被ばくを低減するだけでなく,被ばくをコントロールすることができる“Dose Tracking System(DTS)”というアプリケーションがある。患者3Dモデル上に入射皮膚線量をリアルタイムにカラーマッピングする機能だ(図5)。このDTSを術中に確認することで,術者はリアルタイムに皮膚線量を把握でき,線量低減のコントロールにつながる。長時間の手技の中で入射線量が高くなってしまっている箇所では,ワーキングアングルの変更や,フレームレートを下げるなどして,術中の線量コントロールが可能となる。
このような機能を使用することにより,患者への被ばくを低減するだけでなく,昨今問題視されている術者被ばくの要因となる散乱線も低減でき,患者のみならず術者やスタッフの被ばく低減も可能とした。

図5 DTS

図5 DTS

 

■まとめ

Alphenixでは,イメージングチェーンの一新による高画質化はもちろんのこと,独自の機能により血管内治療にかかわるすべての方の被ばく低減を実現した。さらに,独自のワークステーションやタッチパネルコンソールによる自動化技術と直感的操作で,治療をスムーズにサポートできるようになっている。

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