技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年9月号

Step up MRI 2019

ハイエンド3T MRI「Vantage Centurian」の最新技術

松岡 洋平[キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部営業技術担当]

2019年7月より,新しい3T MRI装置「Vantage Centurian*1」(以下,Centurian)(図1)の国内販売を開始した。
Centurianは,MRIでは世界初となるディープラーニングを用いて設計したノイズ除去再構成技術を搭載し,傾斜磁場性能をより強化したハイエンド3T MRI装置である。本稿では,Centurianのハードウエアの特長と,新規搭載されたアプリケーションについて紹介する。

図1 Vantage Centurian

図1 Vantage Centurian

 

●高画質を実現する高い傾斜磁場性能

当社は,Centurianの前身に当たる3T MRI装置「Vantage Galan*1 3T/ZGO」(以下,ZGO)に,最先端の研究に対応するための高精度な新設計グラディエントコイルを搭載した。最大傾斜磁場強度(以下,Gmax)は,国内販売されている3T装置(2019年7月時点)の中で最高となる100mT/mを実現している。
Gmax100mT/mを実現するには高電流が必要となるが,高電流により渦電流の発生や発熱,振動の増加といった画質劣化につながる問題が起こる。
ZGOでは,グラディエントコイルにホローコンダクタを採用したことで,冷却性能を向上させ,発熱量を55%低減*2した。また,これによって高負荷時の温度上昇を抑えることができ,中心周波数シフトを60%低減*2した。さらに,グラディエントコイル自身の剛性を高めたことにより,振動を75%低減*2(100Hz以上の振幅での場合)し,渦電流も60%低減*2している。そのため,拡散強調画像(DWI)をdirect sagittalで撮像した場合(図2)でも,歪みがほとんどない画像が得られるなど,ZGOの画質は高い評価をいただいてきた。

図2 Direct sagittal DWI

図2 Direct sagittal DWI

 

Centurianは,ZGOの高精度グラディエントコイルを継承した新装置で,研究にも対応可能なGmax100mT/mに加え,新たに臨床使用施設向けのGmax 70mT/mをラインアップに追加した。
Gmaxが高いとさまざまな利点がある。最も恩恵を受けるのは拡散強調画像で,従来装置に比べて大幅にTE短縮ができるため,SNRの高い画像が得られる。Gmax70mT/mの場合,b値1000s/mm2,128×128マトリックスにおいては最短TE29msであり,b値10000s/mm2といったhigh b値の撮像でもSNRが担保できる(図3)。

図3 High b value DWI

図3 High b value DWI

 

次に,高分解能画像の撮像時の自由度が高くなる利点がある。従来装置でも1024マトリックス,1mmスライスといった設定は可能であるが,ほかの撮像パラメータ設定に制限が生じてしまう。Centurianは,この高いGmaxによって高分解能撮像時でも撮像パラメータ設定の自由度が高く,より最適な条件で撮像できる。
さらに,体動やフローによるアーチファクトを低減する効果もある。グラディエント印加時に動きが生じることでアーチファクトが発生するが,Gmaxが高いとグラディエント印加時間を短くできるため,体動の影響を受けにくくなりアーチファクトを低減できる。

●高精細を実現するノイズ除去再構成技術“AiCE”

人工知能(AI)の医療への適用が期待される中,当社はディープラーニングによるノイズ除去再構成の画質評価を,2018年3月から順次,国内外の複数の大学と進め,ノイズ除去再構成技術Advanced intelligent Clear-IQ Engine(以下,AiCE)として,Centurianに製品搭載した。
AiCEは,ディープラーニングによって,ノイズの多い画像とノイズの少ない画像との関係性をあらかじめ解析しモデル化させることで,新たに得られた画像からノイズ成分のみを選択的に除去できる技術である。SNRを向上させる一般的なスムージングフィルタは,ノイズ除去に伴う画像の劣化が大きく,画像がボケる傾向にあるため,オリジナル画像との差分においては実質信号の大きな変動が観察される。一方,AiCEでは,差分画像においてノイズ成分のみが観察される(図4)。高いノイズ除去能力を有しながら,画素値自体はほとんど変動していないことがわかる。

図4 AiCEのデノイズ特性

図4 AiCEのデノイズ特性

 

AiCEのデノイズ効果として,頭部高分解能撮像に適用した例を図5に示す。MRIでは撮像時間と分解能,SNRはトレードオフの関係にあり,分解能向上のために収集マトリックスを増加させるほど撮像時間は延長し,SNRは低下する。通常,1024×1024マトリックスの高分解能画像では,加算回数(以下,NAQ)10で17分程度の撮像時間をかけなければ観察可能な画像にならないが,AiCEを適用したNAQ1の画像は,NAQ10相当のSNRが確保できている。
AiCEはさまざまな撮像に対して適用可能な技術であり,通常検査や高分解能検査を短時間で実施できる。

図5 AiCEのデノイズ効果

図5 AiCEのデノイズ効果

 

●さらなる高速化を実現する新しい圧縮センシング技術“Compressed SPEEDER”

パラレルイメージング法に比べSNR低下が少ない高速化技術として,圧縮センシング法の臨床適応が広がる一方,高速化による画像ボケや淡い信号の消失といった画質劣化が課題となっている。ウェーブレット変換でのデノイズ過程では,信号値をある閾値でカットオフするため,ノイズと実質信号の間に信号差がなければ実質信号も消失してしまうのである。特に,信号収集量の少ない2D撮像においては画質劣化が顕著となり,圧縮センシング法のみでは高倍速撮像の実現が難しい。
今回,Centurianに新たに搭載したCompressed SPEEDERは,パラレルイメージング法と圧縮センシング法を組み合わせた高速撮像法である。コイル1チャンネルあたり複数の感度マップを取得することで,ノイズや誤差成分を補正した高精度な画像生成が可能となり,2D撮像においても画質劣化を抑えた高速化が可能となる。
圧縮センシング法には撮像時間の短縮に加え,短縮した時間を利用した高分解能化にも期待される。しかし,高分解能化によるノイズ増加を圧縮センシングのみでデノイズしようとすると,画像劣化が顕著になってしまう。そこで,AiCEを組み合わせることで,Compressed SPEEDERによるデノイズを必要最低限にとどめることができるため,高画質化と高速化を高い次元で両立することができる(図6)。

図6 Compressed SPEEDERによる高速化

図6 Compressed SPEEDERによる高速化

 

本稿では,Vantage Centurianの最新技術を提示した。当社は最新の技術を応用することで,より質が高く,効率の良い医療の提供の実現をめざしている。今後も進化するキヤノンMRI装置にぜひ期待いただきたい。

*1 Vantage Centurian,Vantage Galanはキヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。
*2 当社比 

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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