技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年8月号

Breast Solution No.4[MRI]

“確実な”乳房MRI検査を実現するためのアプローチ技術

キヤノンメディカルシステムズ株式会社国内営業本部MRI営業部 千葉 寿恵

はじめに

乳がんは生涯に罹患する割合が11人に1人と非常に高く,日本人女性が罹患するがんの第1位にある1)。乳がんの診断に対して非常に高い感度を有するのが乳房MRI(図1)で,2018年版の『乳癌診療ガイドライン』では,乳がんの術前の治療方針決定にMRI検査を行うことが推奨され2),広がり診断や多発乳がんの精査などに多く用いられている。また,平成28年度診療報酬改定では,「乳房MRI撮影加算」100点,平成30年度では,「乳腺腫瘍画像ガイド下吸引術 MRIによるもの」8210点が新設され,乳がんにおけるMRIの役割は高まりつつある。また欧米でも,乳がんのハイリスク女性に対するスクリーニングとしてのMRI検査数が増加している3)
このように近年,乳房MRIに対する関心が高まりつつある。しかし,乳房は特殊な形状のため患者さんによってはうまく撮れない場合があり,患者さんに依存しない確実な検査が求められている。本稿では,乳房MRIについて「確実な」検査を実現するための取り組みを検査の流れに沿って解説する。

図1 乳房MRI検査風景

図1 乳房MRI検査風景

 

確実なポジショニングを可能とする“ブレストSPEEDER”

MRIの原理上,対象物にコイルが近く,中心にあるほど,高いSNRを確保することが可能である。しかし,乳房形状は患者さんによって,形や大きさもさまざまであり,コイル穴に乳房を入れる従来タイプのコイルでは最適なポジショニングを得られにくい。
当社の乳房専用コイル“ブレストSPEEDER”は,コイル装着フレームを上下左右の任意の位置に可動できる。本機能により,乳房の形状や大きさに応じてコイルを密着させることが可能となる。例えば,乳房サイズの大小に応じて,コイルを上下動することができるため(図2),患者さんに応じた最適なポジショニングを実現(図3)し,結果的にSNRが従来に比べて大幅に向上する。
また,本コイルはMRIガイド下生検にも適応している。可動できるコイル装着フレームに加え,フレームからコイルの取り外しが可能なため,従来はアプローチが難しかった大胸筋に近い病変に対して,アプローチ可能となる。また,内側アプローチも可能とする。ブレストSPEEDERは,患者さんに依存することなく確実なポジショニングを可能としたコイルである。

図2 コイル装着フレームを上下左右に動かすことが可能な“ブレストSPEEDER”

図2 コイル装着フレームを上下左右に動かすことが
可能な“ブレストSPEEDER”

 

図3 ブレストSPEEDERの効果 右乳がん/左腋窩潰瘍。右コイルは乳房がコイル中心に,左コイルは腋窩付近にコイル位置をセッティング可能。 (画像ご提供:杏林大学医学部付属病院)

図3 ブレストSPEEDERの効果
右乳がん/左腋窩潰瘍。右コイルは乳房がコイル中心に,左コイルは腋窩付近にコイル位置をセッティング可能。
(画像ご提供:杏林大学医学部付属病院)

 

確実なプランニングを実現する“ForeSee View”

通常,プランニングは断面設定→撮像→撮像断面の確認を順次実施していく。言い換えれば,撮像が終わるまでは設定した断面が正しかったか確認する術はない状況にある。
“ForeSee View”は撮像ROIから位置/角度情報を取得し,その情報を基にMPR画像を作成/表示することで,撮像予定断面をプランニング中にリアルタイムで確認することができる。つまり,ForeSee Viewは撮像前に撮像後の取得断面を確認することで確実な設定を実現する。

確実なDynamic検査を提供する“Enhanced Fat Free”と“DRKS”

乳房は脂肪に富んだ組織である。そのため,撮像プロトコールの大半は脂肪信号を低信号化する脂肪抑制法が必須とされ,乳房MRI検査の要でもあるDynamic撮像においても脂肪抑制法が併用されている。しかし,乳房領域はその特殊な形状により脂肪抑制が難しい部位である。加えて,乳房Dynamicは高い空間分解能を保ちながら1時相あたり60〜90sの時間分解能が必要なため,撮像時間の延長なく脂肪抑制効果の高い手法が求められる。
脂肪抑制法“Enhanced Fat Free”は,2発の脂肪抑制パルスを組み合わせた手法である。従来法として代表的なCHESS法は,脂肪抑制パルスが1発であるため,部分的なRF強度の違いで脂肪の消え残りが発生した。本手法は2発の脂肪抑制パルスを組み合わせることで,RF強度のムラを低減し,消え残った脂肪を確実に抑制することができる(図4)。なお,通常では2発の脂肪抑制パルスを印加すると撮像時間の延長が気になるが,Enhanced Fat Free法は縦磁化の回復を待たないため,SPAIR法のような撮像時間の延長がないことが特長である。すなわち,時間分解能が求められるDynamic検査において,高い有用性を発揮する。
Dynamic検査において,もう一点課題となるのがbackground parenchymal enhancement(BPE)である。BI-RADS第5版では,背景乳腺の増強効果を反映する用語としてBPEが採用され,視覚的に4段階に分類する。BPEが強い(背景乳腺の染まりが強い)場合,病変が埋もれて検出できないことがしばしば問題となる。
そこで,DynamicのシーケンスFFE 3Dにkeyhole imaging技術“DRKS”を併用することで,空間分解能を維持しながら時間分解能向上を図った。BPEが強く,早期相60sで病変が検出しにくい場合,従来の早期相より早い超早期相30sを取得することで,背景乳腺の染まりが少ない状態で,病変の淡い染まりを確認することができる。
Enhanced Fat Freeにより確実な脂肪抑制画像を,DRKSにより患者さんに応じたDynamic検査を提供する。

図4 Enhanced Fat Freeの効果 Dynamic造影60s後(0.5mm×0.5mm×1mm)。脂肪信号の残りやすい乳頭直下やムラになりやすい片側切除後も安定した脂肪抑制画像が得られる。 (画像ご提供:済生会栗橋病院)

図4 Enhanced Fat Freeの効果
Dynamic造影60s後(0.5mm×0.5mm×1mm)。脂肪信号の残りやすい乳頭直下や
ムラになりやすい片側切除後も安定した脂肪抑制画像が得られる。
(画像ご提供:済生会栗橋病院)

 

確実な読影レポートを支援する「Vitrea」

読影レポート作成の支援ツールも豊富に用意している。当社ワークステーション「Vitrea」は,ワンクリックでDynamic画像からTICやカラーマップの表示が可能である。加えて,カーソルを当てたピクセルに対してTICをリアルタイムに表示することもできる。また,必要項目にチェックを入れるだけで,得られた解析結果から簡単にBI-RADSに基づいたレポートを作成でき,新たに定義されたBPEやデンスブレストの情報を追加することも可能である(図5)。
さらに,乳腺濃度タイプを定量的に評価するために,追加撮像することなくT1WIから乳腺および脂肪のボリューム測定ができる(図6)。
Vitreaは確実かつ簡単に読影レポートを作成可能とする。

図5 BI-RADS第5版に準拠したレポート 読影結果を項目別に選択するだけでレポートの作成が可能

図5 BI-RADS第5版に準拠したレポート
読影結果を項目別に選択するだけでレポートの作成が可能

 

図6 乳腺・脂肪のボリューム測定

図6 乳腺・脂肪のボリューム測定

 

おわりに

本稿では,いま注目を集める乳房MRIについて「確実な」検査を実現するための当社のアプローチ技術を紹介した。乳房MRIに対するニーズは今後ますます増加するものと予想される。当社技術が,MRI検査を受ける患者さん,装置を扱う医療関係者の負担軽減の一助となれば幸いである。

●参考文献
1)独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2015.
2)乳癌診療ガイドライン2疫学・診断編2018年版, 日本乳癌学会編, 東京, 金原出版, 2018.
3)Wernli, K.J., et al : Patterns of breast magnetic resonance imaging use in community practice. JAMA Intern. Med., 174・1, 125〜132, 2014.

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