技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2018年9月号

MRI技術開発の最前線

PREMIUM 1.5T MRI「Vantage Orian」における最新技術

甘利  裕[キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部]

当社は2018年4月より,新たな1.5T MRI装置「Vantage Orian(以下,Orian)」の国内販売を開始した。
Orianは,「PREMIUM 1.5T MRI System」をコンセプトに数多くの技術を搭載している。本稿では,Orianに搭載された,最新のハードウエアとアプリケーションを紹介する。

■3T装置で培った高画質化技術“Saturn Technology”“PURERF RX”

Orianでは新たに,当社のハイエンド3T装置で搭載している高画質化技術を搭載した。患者開口径60cmタイプのMRI装置と比較した場合,71cmオープンボアタイプのMRI装置で高画質を実現するには,より強いRF出力を得る大電流化が必要となる。そのため,ローレンツ力の増大による振動増加や,発熱の問題が顕著となる。
Orianに新搭載のSaturn Technologyでは,傾斜磁場コイルを従来の9倍の高圧生成を行い,振動を抑え,画質の劣化を抑制する。また,独自のヒートコーティング技術とクーリング技術により,傾斜磁場コイルの発熱量を38%低減した*1。高負荷時の温度上昇を抑え,中心周波数を一定に保つことにより,高画質化を可能とした。
また,RF受信についてもPURERF RXによりSNRの向上を実現している。
従来では,MR信号のA/D変換を行う場所をコイルに近づけることにより,混入するノイズを低減する議論がされていた。しかし,MR信号を受信する瞬間に混入されるノイズについては低減対象ではない。PURERF RXでは,MRI室内に浮遊する電子ノイズの発生源であるガントリ内で,大気中に放出される前にノイズを低減させることでコイルが受信する電子ノイズを低減,SNRを従来比で38%アップしている(図1,2)。

図1 PURERF RXによるSNRの向上 a:PURERF RXなし b:Orian SNRの向上により,細かな構造などが明瞭に描出されている。 *当社1.5T MRI装置との比較

図1 PURERF RXによるSNRの向上
a:PURERF RXなし
b:Orian SNRの向上により,細かな構造などが明瞭に描出されている。
*当社1.5T MRI装置との比較

 

図2 Orianによるdiffusion画像 a:directサジタルdiffusion  b:広範囲のbody diffusion撮像

図2 Orianによるdiffusion画像
a:directサジタルdiffusion
b:広範囲のbody diffusion撮像

 

■心臓シネ検査の高速撮像技術“k-t SPEEDER”

新たに搭載された高速撮像技術k-t SPEEDERは,心臓シネ検査の短時間化などを実現する,時系列を対象としたパラレルイメージング法である。
k空間上の同一位置で時系列のアンダーサンプリング収集を行った場合,フーリエ変換後の折り返し信号は,同一時間の空間上でずれた位置に現れる。
k空間上での位置を周期的に変化させることにより,フーリエ変換後の折り返し信号は時間と空間の両方でずれた位置に現れ,画素の重なりが少なくなり,画像の復元精度を向上させる。
従来の手法では,前述の撮像に時系列マップスキャン収集の適用により,時系列を対象としたパラレルイメージングを得ていた。
しかし,パラレルイメージングの倍速率を高くするほど,撮像時間内における時系列マップの割合が大きくなり,実質の撮像速度はあまり上がらないことがわかる(図3)。
Orianで搭載されたk-t SPEEDERでは,時間スペクトル方向での折り返し信号の強弱に注目した。折り返し信号が相対的に弱い低周波成分では,コイル感度を低周波成分データより推定する。また,高周波成分は低周波成分の情報よりコイル感度を推定し,追加のスキャンを行わずに時系列マップ相当の情報を得る。そのため,従来の時系列を対象としたパラレルイメージングでは難しかった,最大8倍の高い倍速性能を可能にした。息止め回数の減少,もしくは息止め時間の短縮など,さまざまな応用が見込まれる。また,k-t SPEEDERでは,高い倍速性能による自由呼吸下のシネ撮像にも対応している。当社でのボランティア例では,息止め8回の従来のシネ撮像でのEF値:50.16%に対して,25秒の自由呼吸下のk-t SPEEDERでのEF値:50.11%と,ほぼ同等の結果が出ている。

図3 データ撮像量と時系列マップスキャン量 出典:時系列画像診断のためのMRI高速撮像技術. 東芝レビュー, 70, 2015.

図3 データ撮像量と時系列マップスキャン量
出典:時系列画像診断のためのMRI高速撮像技術. 東芝レビュー, 70, 2015.

 

■確実な検査を実現する“ForeSee View”

ForeSee Viewは,撮像プランニングをアシストする新たな機能である。「未来を予測する」と名づけられた本機能では,あらかじめ撮像されたデータを元に,プランニング操作に応じたMPR断面をリアルタイムで表示することで,より確実な撮像断面設定が可能となる(図4)。部位,コイル,シーケンスを問わず,すべての撮像で利用でき,難易度の高い足関節などの特定の領域や内耳の正確な断面設定などが確実に行える。

図4 ForeSee Viewによるプランニング画面 ForeSee Viewでは,撮像断面設定中にリアルタイムにMPR断面を表示することができる。

図4 ForeSee Viewによるプランニング画面
ForeSee Viewでは,撮像断面設定中にリアルタイムにMPR断面を表示することができる。

 

■消費電力削減を実現する技術“ECO Mode Plus”

近年,環境問題への関心の高まり,電力料金の高騰などにより,MRI装置の消費電力低減の要求が高まっている。しかし,71cmオープンボアタイプのMRI装置で高画質を得るには,スキャン中の消費電力は高い出力が必要である。Orianでは,新たに搭載された省電力技術ECO Mode Plusにより,待機消費電力の大幅な低下を実現した。
MRI装置の消費電力は,傾斜磁場電源,傾斜磁場コイルから構成される傾斜磁場系が特に高い比率を占める。Orianでは,撮像終了後に自動で,特に,待機時の消費電力が高いトランジスタであるIGBT(insulated gate bipolar transistor)の動作クロックをはじめ,システムの大半を停止させることにより,電力削減を行っている。
さらに,Orianでは,夜間などシステムOFF中の電力の大半を占める冷凍機の間欠運転“ECO Coolingシステム”により,夜間の消費電力を大幅に削減した。
冷凍機の間欠運転を行う際に注意すべきことは,磁石内温度の上昇である。一定基準値以上に温度が上昇した場合,渦への影響から画質に影響を及ぼしてしまう。また,磁石内圧上昇により,ヘリウムの減少を招く恐れがある。
Orianでは,磁石内温度を最適な基準内でコントロールした冷凍機の間欠運転により,画質への影響を防いだ上で,高い省エネルギー性能を実現した。

本稿では,1.5T MRI Vantage Orianに搭載される最新技術を提示した。
キヤノンメディカルシステムズのMRI装置として初上市となるOrianは,ハードウエア,アプリケーション共に大きな進化を遂げている。さらなる「Made for Life」の実現をめざし,今後も進化するキヤノンメディカルシステムズのMRI装置にご期待いただきたい。

*1 当社1.5T装置との比較
*2 Vantage Orianはキヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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