技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2015年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
「Aquilion ONE/ViSION Edition」における循環器領域の最新臨床応用
加藤 亮平(CT営業部)
■進化を遂げたAquilion ONE/ViSION Edition
2007年に製品化したArea Detector CT(以下,ADCT)「Aquilion ONE」は,寝台移動を伴わない1回転160mmのボリュームスキャンにより,さまざまな臨床分野において多くの臨床的有用性や新たな知見を広めてきた。2012年には,第二世代のADCT「Aquilion ONE/ViSION Edition」として,0.275秒のスキャン速度のさらなる高速化,780mmの大開口径,X線出力向上など,各ハードウェアを一新した。2014年,冠動脈サブトラクション技術や金属アーチファクトを低減する“SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)”,生データベースのデュアルエネルギー解析などを搭載したVer.6.0 “Frontier Suite”をリリースした。さらに2015年,新開発の検出器“PUREViSION Detector”や,高速GPUを採用した新コンソールシステムなどを搭載した第三世代のADCTをリリースした。また,ソフトウェアではVer.7.0“Functional Suite”により,ADCTの特長的な機能,動態撮影法を生かすさまざまなアプリケーションを搭載した。
このように,第三世代のAquilion ONE/ViSION Editionでは,さまざまな新技術を搭載しているが,本稿ではAquilion ONE/ViSION Editionの循環器領域に有用な最新技術について紹介する。
■PUREViSION Detector
X線CT装置における列数の拡張は,画像への散乱線含有率の増加につながり,画質劣化を及ぼす一因となる。この課題に対し,東芝は“Quantum Vi Detector”を搭載し,従来に比べて散乱線含有率を20%低減することに成功している。
東芝GOSシンチレータでは,光ファイバーや高性能磁石などにも使用されるレアアースPr(プラセオジム)を活性添加剤として使用した最適な化合組成により,光出力を40%向上させ,シンチレータの短いアフターグローを達成し,超高速撮影と高解像度画像を実現させた。さらには,データ収集装置(以下,DAS)の回路の大きさを約半分にし,信号品質を低下させる電気(回路)ノイズの抑制と消費電力の低減を両立させた結果,DASの電気ノイズを最大28%低減,画像ノイズを最大10%低減している(当社装置比較)。循環器領域においては管電流を下げることで線量低減,小焦点撮影による空間分解能向上が期待される。
現在,このPUREViSION DetectorはAquilion ONE/ViSION Editionに搭載中であるが,今後Aquilionシリーズへ順次標準搭載を予定している。
■AMC(Adaptive Motion Correction)
Aquilion ONEシリーズの登場により,明らかに冠動脈CTAの適応範囲は広がったと考えられる。しかしながら,この検査が適合できない場合がある。そこで,東芝では冠動脈CTAの成功率をさらに向上させるため,モーションアーチファクト補正アルゴリズムである“AMC(Adaptive Motion Correction)”を開発した。
AMCの処理フローは,曝射された位相の範囲から,動き補正が適用されるターゲット位相のボリュームデータ,およびその前後のボリュームデータを作成。冠動脈サブトラクションで培った,冠動脈に最適化した位置合わせ技術を用い,各ボリューム間における動き量を推定する(図1)。動き量を考慮してターゲット位相の再構成に反映することで,冠動脈のモーションアーチファクトを低減させる技術(図2)。また,冠動脈周辺だけではなく心臓全体に対しても動き量を推定し,AMCが適用されているため,心筋や心臓弁にも効果が期待できる。今後,心筋Perfusionなどへの臨床応用も期待できる。
AMCは前後のボリュームデータを使用するが,追加曝射を必要としないため,被ばくを増加させることなく,効果的にモーションアーチファクトを低減することが期待できる画像再構成である。
■AIDR 3D Enhanced
2011年,東芝はCTのさらなる低線量化を可能とする独創的な画像再構成技術“AIDR 3D”をリリースした。AIDR 3Dは,線量低減の効果,画質向上の能力を有し,AIDR 3D全機種への標準搭載により,すでに国内で2300台以上(2014年9月末日現在)稼働している。日本の医療現場で最も多く活用されている被ばく低減技術の一つと言えるであろう。
このAIDR 3Dをさらに進化させた再構成法が,2015年に新たにリリースした“AIDR 3D Enhanced”である。AIDR 3D EnhancedはAIDR 3Dの技術をベースとしており,純生データ上で新たに周波数特性を考慮したNPSモデルを組み込むことで,粒状性の向上や空間分解能の維持に成功している(図3,4)。また,多くのユーザーの意見を基に各種パラメータを改善しており,さらなるストリークアーチファクト低減やダークバンドの抑制も実現している。循環器領域におけるデータにも適用可能であり,冠動脈に沈着した石灰化のブルーミングアーチファクト低減や,低コントラスト検出能の向上によるプラーク診断精度向上も期待される。
また,AIDR 3D Enhancedは撮影プロトコルに組み込むことができ,Volume ECや心電図同期撮影など各種撮影方式と併用できる。本撮影を行う前にAIDR 3D Enhancedが考慮された管電流で撮影できるため,撮影後に線量が足りなかったなどの不安要素を取り除くことができる。加えて,特殊なハードウェアの追加を必要とせず,通常検査においてもストレスを与えない画像再構成時間を担保しているのも特筆すべき点である。
■TAVR(transcatheter aortic valve replacement)
TAVRは,2013年10月の保険償還以降,全国で40を超える施設で実施されている。TAVRを施行するに当たり,CTによる術前支援画像の提供は必須であり,非侵襲的に有用性の高い画像を提供することが重要である。TAVR施行の術前CTは,腎機能の影響を考え,できるかぎり少ない造影剤量で撮影することが望ましい。東芝では,低造影剤量で撮影可能な“バリアブルピッチヘリカルスキャンシステム”を有している。また,解析をできるだけ簡便かつ再現性良く行えるように,TAVR計測アプリケーションをそろえている。
バリアブルピッチヘリカルスキャンシステムは,一度の撮影範囲の中でビームピッチ(寝台速度)を可変する制御機能を有しているスキャンシステムである。撮影中の寝台移動速度を部位によって変速し,さらには,心電図同期・非同期撮影を切り替えながら行うこともできる撮影方式である。TAVR術前検査の場合,心臓,大血管,下肢血管までの撮影が必要であるが,従来は心臓のみ心電図同期撮影を行い,あらためて大血管の非同期撮影を行っていたため,撮影は2回に分割せざるを得なかった。バリアブルピッチヘリカルスキャンシステムでは,まず鎖骨〜心臓に心電図同期撮影を行い,それ以降の部位は心電図非同期撮影を行う。心電図同期撮影から心電図非同期撮影への切り替えは自動的に撮影方式が変わる仕組みとなっている。そのため,1回の検査で全範囲を撮影することができ,撮影時間の短縮,造影剤量の低減,被ばく線量の低減を図ることができる。
東芝社製医用画像処理ワークステーション「Vitrea」には,TAVRサポートアプリケーションを搭載している(図5)。TAVR術前情報として必須となる弁輪面が容易に得られ,TAVR施行に近い角度の情報を得ることができる。また,デバイス選択のための大動脈弁輪の長径・短径,面積や周囲長,弁輪面から冠動脈起始部の距離,弁尖の長さ,経大腿動脈アプローチのための血管径,彎曲の程度などの一連の解析が可能である。TAVR専用の計測テンプレートも用意されているため,テンプレートに沿って計測を進めることで非常に簡便かつ速やかに解析が可能である。
◎
本稿では,東芝最新CT装置であるAquilion ONE/ViSION Editionの循環器領域における有用な技術について述べた。東芝は今後も医用機器メーカーとして,臨床的有用性の高い新技術の開発を進める所存である。
*1 Aquilion ONEは東芝メディカルシステムズ株式会社の商標です。
*2 Aquilionは東芝メディカルシステムズ株式会社の商標です。
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