技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2014年4月号
Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
東芝のSpin Labeling technique:ASL, CSF dynamics imagingについて
山本 貴雄(営業本部MRI営業部)
脳神経領域におけるMRI技術の進歩は目覚ましく,MRIの重要性はますます大きくなっている。本稿では,近年急速に臨床応用が広まっているSpin Labeling techniqueについて,東芝独自の技術と併せて説明する。
■Arterial Spin Labeling法の原理
Arterial Spin Labeling(以下,ASL)法は,血液そのものをRFパルスを用いてラベリング,すなわち磁気的に標識した血液を内因性トレーサとして利用することにより,血管やPerfusion Weighted Imageを得る方法として,現在広く臨床応用され始めている。
ASL法には,さまざまな手法が提案されているが,一般的に血液をラベリングするためにインバージョンパルスが用いられ,ラベリングされたフローの寄与のないcontrol画像とラベリングされたフローの寄与のあるtag画像の2組の画像を収集し,差分することにより静止した組織信号をキャンセルし,イメージングする撮像領域内に流入するラベリングされたフロー成分のみの寄与による画像が得られる。ASL imagingでは,control/tagの差分値が,いわゆるトレーサ濃度に相当すると考えることができる。
■ASTAR法の原理
ASL法は,大別するとイメージングスライスを含まずに片側のみをtagする STAR(Signal Targeting with Alternating Radio frequency)系と,イメージングスライスに対称にtagするFAIR(Flow-sensitive Alternating Inversion Recovery)系が提案されているが,control/tagの各成分は異なるにせよ,一方向からのフローしかないとすれば,差分では両者とも同等の効果が得られると言われている。
当社が現在,製品化している“ASTAR法(signal targeting alternating radio frequency with asymmetric inversion slabs)”は,STAR系に属する方法である。図1に示すように,control画像とtag画像をそれぞれ収集し,頭部領域においては静脈信号の寄与を小さく,かつ静止組織由来の差分残差の影響の少ないASL imagingが可能な手法である1)。
ASTAR法では,control画像において,オフレゾナンス位置の励起に起因するMT効果による静止組織の画像値への寄与をtag画像と同一にして,静止組織由来の差分残差の影響をより小さくすることができる。そのため,より鋭敏に撮像領域内に流入するラベリングされたフロー成分を反映した画像が得られる。
■ASL imagingのモデル化
ASL imagingをモデル化する場合は,トレーサ量の流入出だけでなく,組織のT1緩和の影響を考慮する必要がある。そのため,ボクセル内を血液と組織成分を含めて均一とみなしたsingle-compartmentモデルではなく,より実際に近い two-compartmentモデルが使用される場合もある。しかし,測定や仮定するパラメータが多いことや,組織ごとのT1値をボクセルごとに測定することは困難であり,臨床応用としては現実的ではない。そこで,Buxtonらは,組織ごとのT1値の代わりに近似的に血液のT1値を用いても誤差はほとんどないことを示しており2),現在多く用いられている。当社でも,Buxtonモデルを用いたASLのモデル化による定量化が可能であり,コンソール上で簡便に計算することができる(図2)。
■ASLの応用:CSF dynamics imaging
前述のASL法を応用し,血液ではなく脳脊髄液(以下,CSF)を内因性トレーサとすることで,自然な状態のCSF動態を可視化する手法として,東芝独自のTime-SLIP法を用いた“CSF dynamics imaging”がある3)〜5)(図3)。髄液動態は,脳室に挿入されたチューブ内の観察や術中の髄液面の動きなどから,心拍動と呼吸に影響を受けていると言われている。CSF dynamics imagingを用いることにより,心拍や呼吸の影響で拍動する様子をありのまま,リアルタイムな動態として観察することが可能である6)。
CSFに関しては,循環や生理についていまだ解明されていないことも多くあり,髄液生理の解明や,より詳細な病態把握が望まれている。CSF dynamics imagingは,脳脊髄液動態をありのまま観察することができることから,病態の理解に欠かせないと考えられる。今後さらに新たな知見や正常CSF動態の解明などが期待されている。
以上,本稿ではSpin Labeling techniqueについて,東芝独自のASLアプリケーションASTAR法,CSF dynamics imagingについて紹介した。Spin Labeling techniqueは,単に造影剤を使用しないというメリットだけでなく,観察対象そのものを内因性トレーサとすることにより,より自然な状態での病態などの観察が可能になる。今後さまざまなアプリケーションの中で,重要な技術のひとつになると考えられる。
●参考文献
1)木村徳典 : Modified STAR using asymmetric inversion slabs(ASTAR)法による非侵襲血流イメージング. 日本磁気共鳴医学会誌, 20・8, 374〜385, 2000.
2)Buxton, R.B. : Quantifying CBF With Arterial Spin Labeling. J. Magn. Reson. Imaging, 22, 723〜726,2005.
3)Yamada, S., et al. : Visualization of cerebrospinal fluid movement with spin labeling at MR imaging ; Preliminary results in normal and pathophysiologic conditions. Radiology. 249・2, 644〜652, 2008.
4)山田晋也 : MRIを使用した脳脊髄液hydrodynamicsの観察―CSF bulk fl ow imaging, 現状と今後の展望. 脳. 神経外科, 37・11, 1053〜1064, 2009.
5)山田晋也 : 脳脊髄液の生理 ; 脳脊髄液のダイナミクス. 医学物理, 32・3, 148〜154, 2013.
6)Yamada, S., et al. : Influence of respiration on cerebrospinal fluid movement using magnetic resonance spin labeling. Fluids Barriers CNS, 10・1, 36, 2013.
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キヤノンメディカルシステムズ(株)
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