技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

循環器領域における画像処理ワークステーションの技術動向

荒木田和正(臨床アプリ研究開発センター)

循環器領域におけるモダリティの活用は,64列マルチスライスCTでの冠動脈造影検査方法(冠動脈CTA)の有用性が示され,冠動脈病変の非侵襲的診断方法として広く用いられるようになって以来1),2),多様な方面で進歩を遂げてきた。特に,CT装置は大きな進歩を遂げ,320列エリアディテクタにより,160mmの範囲を寝台を動かさずきわめて短時間で撮影することができる「Aquilion ONE」の登場で,循環器領域への実用性が大きく向上した。
モダリティの進歩とともに情報量も増え,日々の業務の中でいかに効率良く解析をサポートできるかが,画像処理ワークステーションに求められている。本稿では,それらの解析をサポートするワークステーション「Vitrea」と,搭載される多くの臨床アプリケーションの中から,循環器領域における一例と技術動向について紹介する。
Vitreaは,世界中で5000台以上の出荷実績がある画像診断ワークステーションであり,主にCT装置で撮影された画像を扱い,基本的な画像処理や,臨床アプリケーションによる解析をサポートしている。特に,循環器領域に適したアプリケーションを複数用意している。冠動脈解析,石灰化スコア解析,心機能解析など,ルーチンで用いられているアプリケーションのほかに,今後の発展が期待されている心筋perfusion解析や,経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)をサポートするアプリケーションが搭載されている。

■心筋の血流状態を評価する

“CT Myocardial Perfusion”アプリケーションは,安静時および負荷時における同じ造影位相の心臓画像から,左心室心筋の血流状態について,虚血部位と周辺の健常部位とを比較評価することを目的としている。対象データが読み込まれると,2分程度でtransmural perfusion ratio3)等のperfusionに関するパラメータが計算される。perfusion解析には,高精度な左心室心筋の輪郭検出精度が求められるが,CT Myocardial Perfusionでは,全自動で必要な精度での心軸抽出と心筋輪郭検出が行われる。後述の冠動脈解析(CT Cardiac Coronary Analysis)と併用することで,形態と機能の両面から心臓を評価できる強力な機能である。
図1に解析例を示す。負荷時において,左心室心筋短軸像の前壁の広い領域に,安静時には見られなかった低CT値の領域が見られる。Polar Map表示においても同様に,負荷時に顕著な虚血を示す領域が存在する。冠動脈を確認すると,この領域の支配血管である左冠動脈に狭窄および高度な石灰化が認められ,虚血との対応を把握することができる。また,VR画像上にCT心筋perfusion結果をフュージョン表示することができ,より責任血管の同定がしやすくなっている。
最近の欧州心臓学会議 (ESC 2012)において,マルチセンタースタディ“CORE320”の報告が行われ,Aquilion ONEを用いた冠動脈CTAとCT心筋 perfusionの組み合わせ検査が,冠動脈アンギオグラフィとSPECTによる心筋perfusion検査の組み合わせ検査と同等の診断能を有し,心筋血流低下を示す冠動脈疾患の診断に有力な検査であることが示された。CT Myocardial Perfusionは,このCORE320の解析方法に準拠している。

 

図1 CT Myocardial Perfusion解析例:左冠動脈狭窄症例

図1 CT Myocardial Perfusion解析例:左冠動脈狭窄症例
(画像ご提供:相澤病院様)

 

■冠動脈を評価する

“CT Cardiac Coronary Analysis” アプリケーションは,冠動脈CTA画像から冠動脈走行状態とプラーク性状を評価することを目的としている。心臓のセグメンテーション,冠動脈の芯線トラッキング,ラベリングおよび冠動脈壁の輪郭抽出が,データ読み込み後に自動で行われる1)。1データあたり10秒程度で自動処理が完了し,心臓領域のみのVR画像,冠動脈のCurved MPR(CPR)画像等を表示することができる。ユーザーによる作業の手間を省き,診断上有益な画像を得るまでのスループットが高いのが特長である。
観察に関しては,CPR画像等の冠動脈解析特有の表示と,MPR 3断面表示も可能であり,虚血領域と責任血管の関係把握に効果的である(図2)。解析に関しては,自動で抽出された冠動脈の内壁および外壁の輪郭を用い,CT値情報を基にした冠動脈壁内のプラーク性状分析を行うことができる。また,芯線上で注目したい範囲を指定することで,冠動脈の内腔径,面積,体積および狭窄率などの幾何学的なパラメータも算出することができる。解析した結果は,冠動脈解析専用のレポートに自動的に引き継がれ,検査全体のスループット向上をサポートしている。
近年,プラークの性状分析に関して,血管内超音波と冠動脈CTAを比較し,有効性を示すエビデンス4)が報告されている。今後は,冠動脈CTAでいかに精度の高いプラーク性状分析を行うことができるかが,技術的なテーマである。

図2 CT Cardiac Coronary Analysis解析例(図1と同症例)

図2 CT Cardiac Coronary Analysis解析例(図1と同症例)
(画像ご提供:相澤病院様)

 

■心臓を機能的に評価する

“CT Cardiac Functional Analysis” アプリケーションでは,左心室・右心室の容積計測などの心機能解析が可能で,虚血性心疾患および中隔欠損症などの先天性疾患の診断に有効である。心位相間隔10%などで再構成された全心位相範囲の4D画像を読み込み,各心拍位相画像にて左心室,右心室,左心房を自動セグメンテーションし,1心拍における駆出率,心拍出量等のパラメータを算出することができる。左心室,右心室の拍出量の差などから,中隔欠損などによる異常流量を推測することができる。VR画像は位相方向への動画表示にて観察することも可能であり,容積変化の異常を視覚的に観察することも可能である(図3)。左心室に関しては,壁運動,壁厚変化率,局所駆出率等の心機能パラメータをPolar Map形式で表示でき,心機能面からの虚血性心疾患の診断にも活用できる。
心機能解析に必要な画像を得るためには,全心位相範囲での撮影が必要になるため,X線被ばく量が多くなってしまう。先天性疾患の診断は小児も対象になることから,被ばく量に対する配慮は重要であり,1回転で心臓全体をカバーでき,1,2心拍程度で全心拍位相範囲の撮影を完了できるAquilion ONEとの組み合わせが有効である。

図3 CT Cardiac Functional Analysis解析例

図3 CT Cardiac Functional Analysis解析例
(画像ご提供:藤田保健衛生大学病院様)

 

■TAVRのソリューション

“CT TAVR Analysis”アプリケーションは,近年,わが国においても保険適用の可能性が示され,今後大きく発展していくことが予想されるTAVRの術前検討のサポートを目的としている。大動脈弓周辺から腸骨動脈周辺まで造影されたCT画像を読み込むと,大動脈・腸骨動脈セグメンテーション,左右腸骨動脈別の芯線トラッキング,および壁輪郭抽出が自動で行われる。自動抽出された動脈の情報を基に,術前検討のために必要な大動脈弁輪径,ST-junction径,および左右の腸骨動脈径等,各種パラメータを簡便に計測することができ(図4),置換する人工弁の選択や,カテーテルのアクセスルートの確認などに活用することができる。解析した結果は,CT TAVR Analysis専用のレポートとして残すことができる。ほかのアプリケーションと同様に,各種統計情報は自動的にレポートに引き継がれる。

図4 CT TAVR Analysis解析例

図4 CT TAVR Analysis解析例
(画像ご提供:Stony Brook病院様)

 

Vitreaは,ルーチンでの活用を想定し,スループット向上に重点を置いて開発を進めてきた。情報量が増え続ける昨今の臨床現場に向けて,現在はCT画像だけでなく,マルチモダリティ画像を活用したスループットの高いシステムの開発を進めている。

●参考文献
1)Julie, M. Miller, et al. : N. Engl. J. Med., 359, 2324〜2336, 2008.
2)冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイド
ライン. 日本循環器学会, 日本医学放射線学会,
日本核医学会・他 編, Circ. J., 73(Suppl.Ⅲ), 2009.
3)Richard, T.G., et al. : Circ. Cardiovasc. Imaging, 2・3, 174〜182, 2009.
4)Voros, S., et al. : JACC Cardiovasc. Interv., 4・2, 198〜208, 2011.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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