技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心臓MRI普及の切り札“CardioLine”─‌冠動脈MRAはもはや単純ルーティンの時代へ
スマートCMR検査の実現

竹本 周平(MRI営業部 営業技術担当)

近年のMRIの進化は目覚ましく,非侵襲的に血管情報や心筋状態の画像情報が得られるなどの点から,心臓MRI(以下,CMR)検査に期待する声がさらに高まっている。しかし,いざCMRを始めるにあたり,検査時間が長く,また術者依存性により画質がばらつくなど,困ることがないだろうか。本稿では,CMR検査のワークフローを改善する新技術を紹介する。

■新技術CardioLineの登場と開発背景

弊社装置に搭載されているM-POWER(エム・パワー)セカンドバージョンで,世界初となる心臓撮像の基準6断面の位置決めをアシストする新機能“CardioLine”をリリースした。超音波で言えば,プローブを当てる作業に相当する位置決めの操作をCardioLineがサポートしてくれるという,いまだかつてないソフトウェアの登場である。
いざ,CMRを施行するにあたって,患者様に負担の少ない潤滑なCMRを提供するために,各ご施設においてトレーニングに膨大な時間を割いていただいている。これは,各モジュールと呼ばれる検査内容が多種にわたる点(画像コントラスト),さらには検査中に迷うことなく取得できるよう,連鎖的にプラン設定をする訓練が必要な点などが理由である。
図1に,CMR検査の画像取得フローを示す。従来法では,断面の決定や検査時間の延長が術者により左右されてしまうのが当たり前であったが,CardioLineはワークフローを簡素化できる。

図1 CardioLineによるCMR検査の画像取得フロー

図1 CardioLineによるCMR検査の画像取得フロー
従来法はいわば,エコー検査にあたるプローブ操作を,CMR検査では操作者が画像を取得しながら決定していく。CardioLineは操作に迷うことなく検査を進めることが可能。

 

■ワンボタンで心臓断面設定をアシスト

CardioLineの操作はきわめて簡単である。CardioLineを起動させる指定のマルチスライス条件と必要な各断面を,事前に登録しておけばよい。検査時には,自動的に6断面が計算されてからウィンドウが起動する仕組みである。断面が確認できれば,「OK」ボタンを押すだけで,登録している断面の位置決めが終了する(図2)。

図2 ワンボタンで心臓断面設定をアシスト

図2 ワンボタンで心臓断面設定をアシスト
三次元的に各断面がリンクしているために,迅速に断面決定や微調整が可能

 

なお,東芝独自の特徴的な3つのポイントを以下に示す。

(1) 左室機能の画像診断における基準的な6断面の位置決めを,1.5秒で簡便に支援する。
(2) 特徴部位認識技術により,心臓特有の弁や心尖部などのポジションを認識し,断面の軸を設定する。
(3) 学習機能を有し,一度覚えた類似形態症例や体格差などに依存しない安定性を維持し,算出エラーを軽減する。

断面の基準は,Society for Cardiovascular Magnetic Resonance(SCMR)によるCMR検査標準化プロトコールに従っており,世界共通で扱うことができる。学習機能は,地域における体格差のほか,性別や症例の違いなど,さまざまなバリデーションに対応するためのキーテクノロジーであり,日本および米国の臨床例を学習している1)

■CardioLineで激変するCMRワークフロー・検査時間の短縮

本法を用いると,素早く円滑に検査を進めることができる。単純撮像の場合,実測値で38%の検査時間短縮が可能2)であり,MRIを2012年10月に導入いただいた滋賀県の草津ハートセンター様(1.5T「Vantage Titan」)において,本機能を活用し,CMR検査を積極的に施行いただいている。CardioLineによって,検査ワークフローが改善されたことで,データ取得に時間を要するWhole Heart MRCA(冠動脈検査)を単純コースの一検査として実施している。さらに,疾患に応じて,薬剤負荷と造影剤を用いた心筋パーフュージョンにおける虚血評価や,造影剤投与後に行われる遅延造影の取得により,心筋バイアビリティの評価を含め,CMRフルコースの実施に至っている(図3,4)。

図3 CMR検査の一例

図3 CMR検査の一例
検査ワークフローの改善に伴い,単純検査の一部としてMRCAを実施
(画像ご提供:草津ハートセンター様)

 

図4 遅延造影(MRバイアビリティ)と心筋パーフュージョン

図4 遅延造影(MRバイアビリティ)と心筋パーフュージョン
(画像ご提供:草津ハートセンター様)

 

■次世代のCMR検査フローをめざして

現在,当社が取り組んでいるCMRの検査ワークフローを改善しうる技術を紹介する。“Automatic Planning Assist System”3)(W.I.P.)は,位置合わせ(レジストレーション)技術を採用し,検査の前半に行われるプレスキャン類に必要な操作をアシストする機能である。対象とするプレスキャンは,心臓がオフセンターに位置する場合の寝台移動後のスキャンや,磁場均一性を補償するシミングのほか,CardioLine機能のためのマルチスライスデータや,冠動脈描出の関心領域(Region Of Interest:ROI)と,それら撮像に付随する呼吸管理のための呼吸ナビゲーターのプローブ領域も含む。現在行われているのは,患者ごとに異なるROI設定位置を術者が検査ごとに確定する「当たり前操作」である。本技術の核であるレジストレーション演算処理は,平行移動や拡大・縮小のような単純な変形だけでなく,風船のように変化する複雑で柔軟な変形にも対応し,さまざまな心形状やセッティングの際の位置ズレにも精度高くアシストする(図5)。所要時間は,呼吸停止スキャン9秒と演算2秒である。こうした技術革新により,本撮像に先立つ操作を画一化できることから,冠動脈撮像の簡素化,さらにはCMRの検査時間を大幅に短縮できると考えている。今後も当社MRI装置に期待してほしい。

図5 Automatic Planning Assist System(W.I.P.)

図5 Automatic Planning Assist System(W.I.P.)
位置合わせ技術により,寝台のズレ量のフィードバックや心臓そのものを検出し,プレスキャンのROI設定をアシストできる。gは移動量を示し,g−1はその逆数を示す。高精細磁場均一補償のシミングや,CardioLineで用いるマルチスライス領域のほか,MRCAとそのナビゲーションに用いるプローブ領域の設定を迅速にアシストする。

 

M-POWER セカンドバージョンでは,CMR検査を簡素化できるため,より日常検査に有用なアプリケーションになった。MRIの能力を最大限に生かし,非侵襲的な画像診断を提供できる装置としてご活用いただきたい。

●参考文献
1)新田修平・他 : 心臓MRIにおけるKnowledge-Based Automatic Slice-Alignment Methodの開発. JSMRM2011.
2)http://www.medeo.jp
3)新田修平・他 : 胸部全体を撮像したボリューム像からのAutomatic Planning Assist Systemの開発. JSMRM2012.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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