技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

循環器領域における第2世代Area Detector CT「Aquilion ONE/ViSION Edition」の最新技術紹介

加藤 亮平(CT営業部 営業技術担当)

64列の壁を越え,体軸方向に320列の0.5mm スライス厚の検出器を配置したArea Detector CT「Aquilion ONE」が登場し,5年あまりが経過した。世界中の研究医療機関から高い評価を得ているAquilion ONEをさらに進化させ,さらなる高速化,高機能化,低線量撮影を実現した第2世代Area Detector CT「Aquilion ONE/ViSION Edition」(以下,ViSION Edition)を2012年10月にリリースした。ViSION Editionは,Aquilion ONEの技術を踏襲しながら0.275 s/rot のガントリ回転速度を中心とした新たな技術を搭載し,心臓CT 検査をはじめとしたさまざまな検査を,より高次元で実現している。
本稿では,ViSION Edition の循環器領域画像診断における技術的トピックスと,臨床的有用性について述べる。

■ 1Beat冠動脈CT撮影

ガントリ回転速度が従来の0.35 s/rotから0.275s/rotへと高速化したViSION Editionでは,心拍数75bpmまでを1 Beatでの撮影が期待できる(図1)。これにより,多くの患者さんを低被ばくでありながら高画質で撮影するということが可能となる。Chen1)らの報告によると,ViSION Editionにより,93.4%の患者さんに対して1 Beat撮影ができるようになり,また,被ばく線量の平均は0.93 mSvであったと記されている。
また,心臓CT検査を安定して施行するために避けられないのが,不整脈の患者さんへの対策である。ViSION Editionでは,スキャン時に不整脈を感知すると,その心拍の曝射を自動的にスキップし,次の心拍でデータ収集を追加する不整脈制御機能が搭載されている。この不整脈回避技術により,不整脈による検査不能例を限りなく減らすことができる。

図1 HR 73 bpm 1 Beat Cardiac CTA:慢性完全閉塞(CTO)石灰化症例

図1 HR 73 bpm 1 Beat Cardiac CTA:慢性完全閉塞(CTO)石灰化症例
BMI:29,HR:73bpm,120 kV,350 mA,0.275 s/rot,0.5 mm× 256 row
(画像ご提供:岩手医科大学病院附属循環器医療センター様)

 

■ 循環器領域における被ばく低減技術

逐次近似応用再構成法“AIDR 3D”は,収集された生データ上で統計学的ノイズモデル・スキャナモデルを用いて,ノイズのみならずストリークアーチファクトを低減する。さらに,アナトミカルモデルを用い,ノイズを抽出し,繰り返しノイズ除去を行う。肩部や骨盤部のストリークアーチファクトを,非常に効果的に除去することが可能であり,最大50%のノイズ低減と75%の被ばく低減効果が期待できる。
AIDR 3Dは,スキャンプランに組み込むことができ,VolumeEC(auto exposure control)との連動はもとより,心電同期スキャン・呼吸同期スキャンにも適応しており,ルーチン・精密検査ともにストレスなく使える被ばく低減技術となっている。
ViSION Editionの0.275s/rotによる時間分解能向上は,直接的に被ばく低減となる撮影心位相を狭めることができる。これにAIDR 3Dを併用することにより,さらなる被ばく低減が可能となった(図2)。
このAIDR 3D技術は,Area Detector CTだけでなく,現在販売しているすべての東芝CT装置に標準搭載されている。

図2 Low Dose 1 Beat Cardiac CTA(0 . 59 mSV)

図2 Low Dose 1 Beat Cardiac CTA(0 . 59 mSV)
BMI:24,HR:68 bpm,120 kV,190 mA,0.275 s/rot,0.5 mm× 200 row
(画像ご提供:岩手医科大学附属病院循環器医療センター様)

 

■ バリアブルピッチヘリカルスキャンシステム

循環器領域における被ばく低減技術では,“バリアブルピッチヘリカルスキャン”もその一端を担っている。従来,大動脈の撮影では,鎖骨下から骨盤部までの広範囲を心電図同期させながら撮影していた。このバリアブルピッチヘリカルスキャンシステムは,スキャン中に一時停止することなく,低ヘリカルピッチ(心電図同期下)から高ヘリカルピッチ(非心電図同期)へと変化させながら連続的にスキャンすることができる。心電図同期撮影が不要な領域には高ピッチで撮影できることで,トータルの被ばく線量を低減できる。臨床的な観点からも,トリプルルールアウト(肺塞栓・冠動脈疾患・大動脈疾患)などの検査ができるという利点がある。

■ 高度石灰化症例の冠動脈CTA

一般的に,X線アンギオグラフィで用いられているサブトラクション法は,CTにも応用可能である。東芝では,CT の各スキャンにおける曝射軌道と寝台位置を同期する,軌道同期ヘリカルスキャンによるイメージサブトラクションに関する高度な技術と経験が豊富にある。また,現在,そのノウハウを活用し,開発を行っているのが“冠動脈サブトラクション”(W.I.P.)機能(図3)である2),3)
サブトラクション機能は,体動の少ない頭部・下肢などに対して,すでに多くの臨床の場で用いられているが,心臓のように息止めをしても心拍動の影響を考慮しなければならない部位でのサブトラクションは非常に困難である。冠動脈石灰化へのサブトラクションの適用には,これらの動きの影響を最小限にでき,1心拍で心臓全体を撮影できるArea Detector CTが期待されている。
現在,この冠動脈サブトラクションに関しては,岩手医科大学附属病院循環器医療センター様と共同研究を行っており,実用化をめざしている。

図3  冠動脈サブトラクション(W.I.P.)

図3  冠動脈サブトラクション(W.I.P.)
Ca score,RCA:195 /LM:19,LAD:299 /LCX:222
Total:665
(画像ご提供:岩手医科大学附属病院循環器医療センター様)

 

■ 心筋のCT perfusion

従来,心筋虚血評価はSPECT,MRI,超音波などで診断されているが,320列CTの誕生により,CTを用いた心筋虚血評価が注目されている。
CT 心筋perfusion検査とは,安静時,負荷時にCT撮影を行い,それぞれ心筋の造影状態を比較観察する検査法であり(図4),2012年の欧州心臓学会議(ESC 2012)において,320列CTを用いたCT心筋perfusionの精度を評価する“CORE 320”4)〜7)の結果が報告された。
冠動脈CTA にCT 心筋perfusion を組み合わせて検査を行うことは,心筋虚血の検出に補助的な役割を果たすとの報告がなされた。

図4  myocardial CT perfusion解析例(左冠動脈狭窄症例)

図4  myocardial CT perfusion解析例(左冠動脈狭窄症例)
上段:負荷時,下段:安静時
(画像ご提供:相澤病院様)

 

東芝は,Area Detector CTというX線CTの新たなカテゴリを開拓し,循環器領域をはじめとした新たな撮影方法が登場した。今後もArea Detector CTを最大限に生かしたさまざまなアプリケーションの開発を進め,さらなる被ばく低減,臨床価値向上など,医療への貢献に努める所存である。

* CORE 320は,320列CTを用いた前向き国際多施設共同臨床研究です。
* Aquilion ONEは東芝メディカルシステムズ株式会社の商標です。

●参考文献
1)Marcus, Y.C., et al. : Submillisievert Median Radiation Dose for Coronary Angiography with a Second-Generation 320-Detector Row CT Scanner in 107 Consecutive Patients. Radiology , 3, 266, 2013.
2) Yoshioka, K., Tanaka, R.:Subtraction coronary CT angiography for the evaluation of severely calcified lesions using a 320-detector row scanner. Curr. Cardiovasc. Imaging Rep., 4, 437〜446, 2011.
3) Yoshioka, K., Tanaka, R., Muranaka, K.:Subtraction coronary CT angiography for calcified lesions. Cardiol. Clin., 30, 93〜102, 2012.
4) George, R. T., et al.: Diagnostic performance of combined noninvasive coronary angiography and myocardial perfusion imaging using 320-MDCT;The CT angiography and perfusion methods of the CORE320 multicenter multinational diagnostic study. AJR, 197, 829〜837, 2011.
5) Vavere, A. L., et al.:Diagnostic performance of combined noninvasive coronary angiography and myocardial perfusion imaging using 320 row detector computed tomography;Design and implementation of the CORE320 multicenter, multinational diagnostic study. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 5, 370〜381, 2011.
6) Cerci, R. J., et al:Aligning coronary anatomy and myocardial perfusion territories;An algorithm for the CORE320 multicenter study. Circ. Cardiovasc. Imaging, 5, 587〜595, 2012.
7) Vishal, C., et al.:A stepwise approach to the visual interpretation of CT-based myocardial perfusion. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 5, 357〜369, 2011.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

TOP