セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第52回日本磁気共鳴医学会大会が2024年9月20日(金)〜22日(日)の3日間,幕張メッセ国際会議場(千葉県千葉市)にて開催された。21日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ社共催のランチョンセミナー8「DLR-MRIの進歩と今後の可能性」では,順天堂大学医学部・大学院医学研究科放射線医学教室放射線診断学講座の青木茂樹氏が座長を務め,東北大学病院メディカルITセンター / 放射線診断科の大田英揮氏と東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻放射線医学講座放射線診断学分野の阿部 修氏が講演した。ここでは,阿部氏の講演内容を報告する。

2025年1月号

第52回日本磁気共鳴医学会大会ランチョンセミナー8 DLR-MRIの進歩と今後の可能性

Vantage Centurianが先導するMRIの新たな展開

阿部  修(東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻放射線医学講座放射線診断学分野) / 鈴木 雄一(東京大学医学部附属病院放射線部)

本講演では,キヤノンメディカルシステムズの3T MRI「Vantage Centurian」搭載の超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」,高速撮像技術「Conjugate Gradient method-based Reconstruction(CG Recon)」,拡散強調画像(DWI)の歪み低減技術「Reverse encoding Distortion Correction DWI(RDC DWI)」などのDWIの新たな取り組みについて,共同研究の成果の一部を報告する。

超解像画像再構成技術:PIQE

PIQEは,ディープラーニングを用いて低SNR・低分解能の画像から高SNR・高分解能の画像を再構成する技術である。マトリックス数を3倍まで引き上げられるため,解剖構造などのより明瞭な描出が可能となる。
また,PIQEは,さまざまなシーケンスとも併用可能である。PIQEとsingle-shotのfast spin echo法(fast advanced spin-echo:FASE)を組み合わせることで,高速なT2強調撮像が可能であり,全脳の画像であれば,わずか5秒で取得することができる。
PIQEとFASEの組み合わせは,動態撮像でも有用である。従来,下顎動態撮像では,閉口位と開口位の2つの画像で関節円板のズレなどを評価していたが,PIQEを適用することで空間分解能を保ちつつ動きを可視化できるため,閉口位から開口位に至る間の動きも評価可能となった(図1)。これにより,関節円板の機能的評価の進展が期待される。

図1 下顎動態撮像へのPIQEの適用

図1 下顎動態撮像へのPIQEの適用

 

高速撮像技術:CG Recon

CG Reconは,non-Cartesian samplingの高速化技術である。Radial座標系からCartesian座標系への変換時に共役勾配理論を用いた精度の高い信号推定を行うことで,解像度とSNRを改善しつつ撮像時間を短縮できるようになった。また,従来と同じ撮像時間であれば,さらなる高画質の取得も可能となる。
図2は実際の画像であるが,6分42秒で撮像したtrajectory 9800の従来法の画像(f)と比較し,trajectoryと撮像時間を約1/3にしたCG Reconの画像(a)は,ほぼ同等の画質を得られている。また,図2 fと同一条件のCG Reconの画像(c)では,血管がより末梢まで描出されており,有用性が高い。
さらに,CG Reconは,ultra short TEを用いた4D-MRA(UTE 4D-MRA)との組み合わせも有用である。内頸動脈瘤のサイフォン部にフローダイバーターステントを留置した症例について,TOF-MRAとUTE 4D-MRAを比較した。TOF-MRAでは血管が末梢まで描出されていたため,ステント留置部の血管が開存していると判断できたものの,血管内腔を視覚的に評価できなかった。一方,UTE 4D-MRAにCG Reconを併用することで,より短い撮像時間で動態画像が得られたほか,inversion time(TI)を200msから800msまで上げたところ,ステント留置部の血流が保たれていることを,より明瞭に確認することができた。

図2 CG Reconと従来法による画像の比較

図2 CG Reconと従来法による画像の比較

 

DWIの新たな取り組み

RDC DWIは,echo planar imaging(EPI)を用いたDWIにおける位相エンコード方向の画像の歪みを補正する技術である。forwardとreverseのb0画像からシフトマップを推定し,このb0シフトマップを初期値としてforwardとreverseの各MPG画像から同様にシフトマップを推定することで,b0不均一とMPGパルスによる渦電流から生じる歪みを,いずれも補正することができる。
図3は実際の画像であるが,元画像(a)では中頭蓋底の信号異常上昇や前頭洞の空気などによる歪みが見られるのに対し,RDC DWIを適用した画像(b)では信号の異常が軽減され,歪みも補正されている。頸椎レベルのDWIでも同様に,RDC DWI(図3 d)にて歪みが低減している。
また,EPIを用いず,読み出し部分に前述のFASEを用いることで,より歪みの少ないDWIを取得することも可能である。左中耳の真珠腫の症例において,RDC DWIで描出できない病変を,PIQEを併用したFASE DWIにて明瞭に描出でき,確定診断が可能であった例を経験している。
PIQEの定量性について,ディープラーニングを用いたSNR向上技術である「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」と比較して検討した。128×128マトリックスで撮像したEPI DWIの画像を,PIQEおよび2倍のzero-fill処理(ZIP)を行ったAiCEを用いて空間分解能を256×256マトリックスに向上し,256×256マトリックスの元画像と比較した。制約付き球面デコンボリューション(CSD)法による方向分布関数(ODF)の測定を行ったところ,元画像と比較しAiCE(ZIP)ではODFの描出が不十分であるが,PIQEのODFは元画像と近似していた(図4)。さらに,2つの確率分布の類似度の評価指標であるJensen-Shannon divergence(JSD)を用いて,PIQEとAiCE(ZIP)のODFの類似度を評価したところ,PIQEの方が元画像と近似しているという結果が得られた(図5)。

図3 RDC DWIによるDWIの歪みの低減

図3 RDC DWIによるDWIの歪みの低減

 

図4 PIQEとAiCEにおけるCSD法によるODFの測定結果の比較

図4 PIQEとAiCEにおけるCSD法によるODFの測定結果の比較

 

図5 PIQEとAiCEにおけるJSDを用いたODFの類似度の比較

図5 PIQEとAiCEにおけるJSDを用いたODFの類似度の比較

 

まとめ

PIQEとCG Reconは,いずれも空間分解能や時間分解能の向上にきわめて有用である。また,EPI DWIの歪み補正にはRDC DWIが有用であるが,FASE DWIではEPIを用いずに歪みの少ないDWIを撮像でき,さらに,PIQEを併用することで空間分解能を向上することも可能である。DWIにおいては,新たな技術の開発も進められており,今後ますます活用の幅が広がっていくことが期待される。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号:228ADBZX00066000
類型:Vantage Centurian

 

阿部  修

阿部  修(Abe Osamu)
1998年 東京大学大学院放射線医学修了〔博士(医学)〕。2000年 同大学医学部附属病院放射線科講師。2008年 同大学大学院医学系研究科准教授。2010年 日本大学医学部放射線医学系画像診断学分野主任教授。2016年〜 東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座教授。

 

 

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