セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2016年5月27日(金)〜29日(日)の3日間,日本超音波医学会第89回学術集会など超音波関連の4つの学会によるUltrasonic Week 2016が国立京都国際会館などを会場に開催された。29日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー16では,りんくう総合医療センター外科部長の位藤俊一氏を座長に,高松平和病院乳腺外科の何森亜由美氏が講演を行った。

2016年8月号

Ultrasonic Week 2016ランチョンセミナー16

進化し続ける超音波診断装置 〜乳腺超音波における現在の到達点〜

何森亜由美(高松平和病院乳腺外科)

東芝メディカルシステムズ社が超音波診断システム事業を始めて50周年の節目の年に,新しい「Aplio iシリーズ」が発表された。本講演では,Aplio iシリーズの特徴について臨床画像を供覧しながら紹介する。

Aplio iシリーズのハードウエアの特徴

Aplio iシリーズには,「Aplio i700」「Aplio i800」「Aplio i900」の3機種がラインナップされている。従来機(当院では「Aplio 500」を使用)と比べて本体がコンパクトになっていることに加え,モニタや操作パネルの上下可動域が広がり,検査時に視線の高さやパネル操作が負担にならない位置まで下げることができる。
操作パネルはシンプルなデザインとなり,トラックボールとその周囲のボタンだけでメインの操作を完結することができる。ボタンの機能はモードごとに任意に割り当てることができ,モニタ画面右下に割り当てられた機能が図で表示されることから,モードを切り替えても操作に迷うことはない。
また,本体とWi-Fiで接続されたタブレット型端末のセカンドコンソールが用意されている。本体から離れたところでも,検査中のモニタ画面をリアルタイムに表示することができ,かつセカンドコンソール側からも画面上に矢印を表示できるなど,双方向操作が可能である。

新しい超高周波プローブ

Aplio iシリーズで最も注目すべきは,新しい2種類の超高周波リニアプローブである。
超広帯域高周波リニアプローブ「PLI-1205BX」(5〜18MHz)は,1本で低周波から高周波まで幅広くカバーし,深部の描出と高分解能を併せ持つことが特長である。従来のプローブと比べ,乳房では体表に近いクーパー靭帯から深部の筋膜や大胸筋のラインまで,高い分解能を保って描出することができる(図1)。従来プローブでは辺縁がぼやけて脂肪と見分けが付きにくかった深部の粘液癌などの構造物が,より明瞭に描出できることが期待される。

図1 超広帯域高周波リニアプローブPLI-1205BX(左)と従来プローブ(右)の画像比較

図1 超広帯域高周波リニアプローブPLI-1205BX(左)と従来プローブ(右)の画像比較

 

もう一つのリニアプローブ「PLI-2004BX」(8〜24MHz)は,業界最高レベルの高周波を出力でき,かつ従来プローブと同等に深部の観察も可能である。非常に高い分解能が得られ,コメド型DCISでは上皮増生や間質構造,点状高エコーといった内部構造まで観察することができる(図2)。
高分解能と深部描出の両立は,シャープな送受信ビーム形状を実現する“iBeam技術”により可能になった。送信ビームは,方位方向とレンズ方向共に非常に細いビームを照射できるようになり,受信ビームも従来プローブより多くの細いビーム情報を得られるようになった。これによりスライスが薄くなり,高分解能化が可能になっている。

図2 リニアプローブPLI-2004BX(下)と従来プローブ(上)の画像比較

図2 リニアプローブPLI-2004BX(下)と従来プローブ(上)の画像比較

 

血流イメージ

Aplio iシリーズでは,血流イメージの分解能も向上している。カラードプラを従来機と比較すると,より細い血管まで描出することが可能になっている(図3)。

図3 カラードプラの画像比較

図3 カラードプラの画像比較

 

また,低速で微細な血管を描出する“Superb Micro-vascular Imaging(Advanced SMI)”もiBeam技術や基本性能の向上により進化しており,より微細な血管も連続性を持って,立体的走行を観察することができる(図4)。なお,非造影のSMIは,SMIモードのボタンを押すだけで表示することができる。

図4 非造影SMIの画像比較

図4 非造影SMIの画像比較

 

Bモード画像進歩の方向性

進歩したBモード画像を臨床応用する方向性は,「正常からの逸脱読影」や「立体構造重視の読影法」において,高い分解能を生かすことと考えている。
演者は超音波診断システムの画質設定に当たって,乳房を観察するために,内部構造のパターンがしっかりと見えることを重視してきた。コントラストを上げた画像は所見が目に付きやすいと言われているが,低エコーの領域がつながってしまい,正常構造でも悪性を疑ってしまうこともある。分解能を上げた粒状性の高い画像では,正常構造を保ったままのパターンを低エコー域内に観察することができる(図5)。

図5 乳房における画質の比較

図5 乳房における画質の比較
乳房観察には,高分解能で内部構造を観察できる上段の画質が適している。

 

良悪性の判断が付きにくい正常構造を正しく診断するには,内部構造のパターンがしっかりと見える高い分解能が必要となる。しかし,分解能が高いとメリハリのない画像になるため,高コントラストの視認性が高い画像の方が見やすいと感じる方もいるだろう。だが実際に病理と比較すると,組織が密から疎になる移行部などは,分解能が高い方が病理に近い画像となり,正常を正常と判断しやすいと考える。
従来,いわゆる視認性と分解能は相反するものであり,どちらを重視するか選択して画質を設定する必要があった。しかし,Aplio iシリーズの新プローブでは,コントラストを上げても,内部構造をつぶすことなく高い分解能を保つことができる。そのため,BI-RADS最新版からは削除されたが,浸潤癌を示唆するような微妙なハローサインも明瞭に描出され,硬癌などの病変が目に留まりやすくなっている(図6)。また,微小病変や石灰化の視認性が上がり,エコーによる精査や広がり診断もしやすくなると考える。

図6 浸潤癌症例の画像比較

図6 浸潤癌症例の画像比較
Aplio i800ではコントラストが高く,病変の存在,背景のハローサインが明瞭に描出される。

 

さらに,従来のリニアプローブは体表近くの観察が不得手であったが,新しいプローブでは皮膚直下の分解能も保っており,乳頭の中の構造まで観察することができる。広がり診断において,乳頭方向へ進展している病変を見つけやすいだろう。
そして,演者が最も感心したのが,「正常構造における」コントラストと分解能の高さである(図7)。豹紋構造で正常構造の等エコーを観察する際に,乳管小葉周囲の間質が不自然なラインを引くことなく,わずかに低エコーで,かつ内部構造も高分解能で描出される。従来より等エコーの構造を追いやすく,正常構造からの逸脱の読影が非常にしやすいと感じている。このように,新しい超高周波リニアプローブは,分解能と視認性を両立した,これまでにないプローブと言えるだろう。

図7 正常構造の画像比較

図7 正常構造の画像比較
Aplio i800では高コントラストと高分解能が両立し,正常構造からの逸脱読影をしやすい。

 

高分解能の日常診療への活用

正常乳腺は均一ではなく,また,病変の内部構造もさまざまである。正常構造からの逸脱が認められても経過観察でよい病変もあり,演者はこれまで,内部構造の立体読影により要精査と経過観察を見分ける方法を提唱してきた1)。Aplio iシリーズの高い分解能で,この判定がより容易に行えるようになると思われ,日常診療に生かせると考えている。
正常構造からの逸脱が認められる病変のうち,逸脱に規則性があり,一定のパターンを保っている病変は経過観察でよいが,逸脱が規則性を失い,無秩序に増生しようとしている病変は悪性の可能性があるため,精査が必要である。
当院では検査技師も含め,上記の判定法でスクリーニングを行っている。この判定法についての前向き試験では,合議判定にて経過観察でよいと判定した症例はほぼ良性であり,要精査と判定した症例には良性の増生病変も含まれるものの,悪性は見落とさずに拾い上げることができた2)

●腫瘤性病変

図8は,乳頭腺管癌の症例である。従来機では内部構造の判定に迷うが,Aplio i800では分解能が向上し,迷わずに要精査と判定できる。病変内のエコーレベルの違いもAplio i800の方が明瞭に描出され,内部構造が不規則であることが簡単に見分けられる。分解能が向上したことで,小さな分葉なども判断しやすい。

図8 乳頭腺管癌(要精査)

図8 乳頭腺管癌(要精査)

 

この症例では,同側乳房に良性の線維腺腫も認められた。Aplio i800では被膜構造が認められ,内部に混じる低エコーがくっきりと抜けて,囊胞構造であることがわかり,線維腺腫として経過観察でよいと自信を持って判断できる(図9)。分解能が向上したことで,われわれの判定基準がよりわかりやすくなる可能性がある。

図9 線維腺腫(経過観察)

図9 線維腺腫(経過観察)

 

●非腫瘤性病変

図10は,乳腺症の症例である。fibrocysticな部分にエコーレベルの低い間質が多く,中に多くの囊胞が認められる。規則性を保ち,高エコー間質が通り抜けていることから良性と判定できるが,従来機の画像では読影に慣れが必要である。一方,Aplio i800では,間質のエコーレベルは均等で,低エコーの抜けがはっきりとしていることから囊胞であると容易に判断できる。

図10 乳腺症(経過観察)

図10 乳腺症(経過観察)

 

図11は,コメド型の非浸潤性乳管癌の症例である。従来機の画像では癒合部分がつぶれてしまい内部構造がわからないが,Aplio i800では一部増生して癒合している乳管の等エコーパターンの乱れが認められ,要精査であると判定できる。針生検においても,ターゲットとすべき部位が一目瞭然である。従来機では分解能が十分ではないが,Aplio i800では内部構造の観察が明瞭となり,判定しやすくなる。
超音波スクリーニングでは,マンモグラフィで検出されない淡い浸潤癌(硬癌,浸潤性小葉癌,乳頭腺管癌など)を拾い上げることが期待されるが,新しいプローブで観察するとコントラストが向上しているため,淡い浸潤癌のエコーレベルが下がって目に付きやすくなると期待される。高分解能のため内部構造のパターンの描出能も向上することから,精査が必要な病変の拾い上げや広がり診断にも有用で,針生検でも確実なターゲティングができ,臨床応用に大きく貢献すると考える。陽性的中率の向上も期待でき,超音波検査を進歩させる可能性を持ったプローブであると言える。

図11 コメド型の非浸潤性乳管癌(要精査)

図11 コメド型の非浸潤性乳管癌(要精査)

 

新機能紹介

Aplio iシリーズには,新しい機能として,フリーハンドでスキャンした範囲の情報をつなげて立体的に画像を再構築する技術“Smart Sensor 3D”が搭載された。これまでも4Dプローブを用いて限られた範囲の3D画像を再構成することはできたが,24MHzのPLI-2004BXにより,高周波リニアプローブで3D画像を得ることができるようになった。Smart Sensor 3Dではスキャンデータをボクセルデータとして保存して,冠状断や頭尾方向の3D画像を再構成し,皮膚を透かして見るように,コントラストが異なる部分が浮き立ったShadow Glass画像を観察することができる(図12 右下)。再構成した画像は,光源の位置を変えたり回転したりするなど,任意に観察が可能である。検査をしながらその場で再構成画像を表示できるため,3D画像を回転して腫瘤の範囲を確認するなど,活用範囲が広がるかもしれない。
容易にボクセルデータを取得できるこの機能を応用することで,将来的に腫瘍ボリュームの自動計測が可能になれば,化学療法の効果判定にも使えるものと期待している。
また,過去画像とリアルタイム画像を並べて表示することができるため,比較読影や化学療法の効果判定に有用な機能となるかもしれない。

図12 Shadow Glass画像(右下)

図12 Shadow Glass画像(右下)

 

まとめ

Aplio iシリーズの新しい高周波プローブは,高コントラストと高分解能を両立し,視認性の良い画像を得ることができる。これにより正常からの逸脱読影もしやすいため,経験の浅い検査者でも精度の高い検査を簡単に行うことができるようになると期待される。そして,詳細な内部構造の立体的な観察と陽性的中率の高い検査が可能となり,Bモードの効果判定や広がり診断などへの応用が考えられている。
Aplio iシリーズは,新しい精査基準へと発展する可能性を秘めた,超音波検査に進歩をもたらす装置と言えるだろう。

●参考文献
1)何森亜由美:乳癌画像診断:高分解能エコーでみえてくるもの―それをどう診断するか. INNERVISION, 26・2, 88〜91, 2011.
2)何森亜由美・他:「画像的境界病変における乳腺超音波立体所見診断研究」終了報告. 第22回日本乳癌学会学術総会プログラム抄録集, 348, 2014.

 

何森亜由美(高松平和病院乳腺外科)

何森 亜由美(Izumori Ayumi)
1995年 香川大学医学部卒業後,高松平和病院外科(一般消化器外科)。2005年 たけべ乳腺クリニック。2010年 公益財団法人がん研究会有明病院乳腺センター外科。2011年〜高松平和病院乳腺外科部長。

 

 

 

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