セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第80回日本循環器学会学術集会が2016年3月18日(金)〜20日(日),仙台国際センター(宮城県仙台市)などを会場に開催された。19日(土)に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー32では,順天堂大学医学部・大学院医学研究科循環器内科学講座担当教授の代田浩之氏を座長に,順天堂大学医学部・大学院医学研究科循環器内科学講座准教授の藤本進一郎氏と岩手医科大学附属病院循環器放射線科教授の吉岡邦浩氏が,「循環器CT画像診断は新しい領域へ」をテーマに講演した。
2016年6月号
第80回日本循環器学会学術集会ランチョンセミナー32 循環器CT画像診断は新しい領域へ
冠動脈サブトラクションと超高精細CTの初期臨床経験
吉岡 邦浩(岩手医科大学附属病院循環器放射線科)
本講演では,高度石灰化病変に対する武器となる冠動脈サブトラクションCTについて,また,現在当院にて臨床評価を行っている0.25mmスライス,1024マトリックスの超高精細CTの初期使用経験について述べる。
冠動脈サブトラクションCTの有用性
本邦における冠動脈CTの実施件数は年間40万件にまで増加している。一方,エビデンスが蓄積されたことで課題も明らかとなってきた。
一つは,石灰化が強いと診断精度が低下あるいは評価不能となることであり,米国のガイドラインなどを見ても石灰化スコア400が目安と言える。このため,石灰化スコアが400を超える場合は,侵襲的な冠動脈造影(CAG)が推奨されている1)。しかし,実臨床では石灰化スコア400以上の症例はまれではなく,そのすべてに対してCAGを行うことには問題がある。
そこで,われわれは数年前より,冠動脈CTにおける高度石灰化の課題に対し,冠動脈サブトラクションの研究を行ってきた。造影CTの情報から単純CTの情報を差分し,石灰化を除去して血管内腔を描出することで,狭窄性病変の診断を行う。320列ADCTでは,1回転での心臓全体のボリュームスキャンが可能になり,ほぼ位置ズレのないデータが得られるようになったため,冠動脈サブトラクションCTが可能となった。
1.症例提示
症例1は,70歳代,女性。左前下行枝(LAD)近位部に非常に強い石灰化が認められ,短軸像でも半周以上が石灰化に覆われ内腔が評価困難であるが(図1 a),サブトラクション画像では内腔が描出され評価が可能である(図1 b)。
症例2は,80歳代,男性。右冠動脈(RCA)起始部に高度な石灰化があるが,冠動脈CTでは狭窄度の評価は困難である(図2 a)。一方,サブトラクション画像では強い狭窄が明瞭に描出されており(図2 b),CAGでも同様の所見が得られた(図2 c)。
症例3は,70歳代,男性。左回旋枝(LCX)近位部に強い石灰化があり,短軸像でも狭窄があるように見えるが(図3 a),サブトラクション画像ではほとんど狭窄は認められない(図3 b)。CAGでも狭窄度は約25%と有意狭窄は認めず(図3 c),サブトラクション画像を加えることで偽陽性を減らせる可能性が示唆された。
2.冠動脈サブトラクションCTの診断精度と課題
当院における冠動脈CTと冠動脈サブトラクションCTの診断精度を比較したところ,冠動脈CTの感度88.2%,特異度62.5%,陽性適中率62.5%,陰性適中率88.2%に対し,冠動脈サブトラクションCTではそれぞれ94.1%,85.4%,82.1%,95.3%と向上した3)。特に,特異度と陽性適中率が約20%高くなり,偽陽性を減らせることが明らかとなった。また,冠動脈サブトラクションCTはステントにも有用であり,診断精度が向上することが報告されている4)。石灰化+ステントについても,やはり診断精度の向上が海外から報告されており5),研究ベースではなく実臨床での検討結果である点で意義が大きい。
一方,課題として,(1) 適応は石灰化スコア1000程度まで,(2) 撮影時心拍数の制限(60bpm未満,βブロッカーが必要),(3) 20〜40秒程度の長い呼吸停止時間が必要,(4) 2回撮影による被ばく線量の増加(3〜5mSv),などが挙げられるが,(3) については撮影法を工夫することで解決策が見えてきた。
従来法に対し,Short breath-holding time method6)ではテストインジェクション法を用いて患者に合わせた呼吸停止法を行い,単純CTを造影CTに近づけることで撮影時間を約20秒に短縮できる。また,現在われわれが検討している変則サブトラクション法7)は,造影CTを撮影後に単純CTを撮影することで呼吸停止時間を13〜15秒に短縮する方法で,高齢者でも撮影が可能である。
超高精細CTの初期使用経験
マルチスライスCTは,“速く,広く”という方向で著しい進歩を見せたが,約20年間変化が見られなかった“細かく”についても,従来の0.5mmスライスから0.25mmスライスへと,ようやく進歩の兆しが見えてきた。東芝メディカルシステムズ社が現在開発中の超高精細CTは,0.25mmスライス×128列で,検出器幅は従来の64列CTとほぼ同じであるが,長さで2倍,面積で4倍,体積で8倍の分解能を持つ。当院では現在,同社と共同研究を行っており,以下に初期使用経験を示す。
1.超高精細CTの視覚評価
図4は,狭心症にて経過観察中の症例(60歳代,男性)のRCAの画像であるが,320列ADCT(a)と比較し,超高精細CT(b)ではよりシャープな画像が得られている。特に血管の辺縁が明瞭である。
超高精細CTでは被ばく線量の増加が懸念されたが,心拍数をβブロッカーなどで抑制し,心電同期フラッシュスキャンを適用して撮影したところ,約4mSvで末梢まで十分な画像が得られた。
また,石灰化スコアが計約3700の超高度石灰化病変では,LAD近位部に石灰化スコア約2000の高度石灰化が認められた。スライス厚0.5mmの画像と比較したところ,超高精細CTでは内腔がやや広く描出されており,ブルーミングアーチファクトが軽減されていると思われた。
図5は,経皮的冠動脈形成術(PCI)後症例(70歳代,男性)における3mmのCypherステントの比較である。3mmのステントは通常のCT(a)では描出できないこともあるが,超高精細CT(b)ではストラットがシャープに描出されている。
このように,超高精細CTは,視覚評価では明らかに描出能が向上している。
●参考文献
1)Nasir, K., Clouse, M. : Role of nonenhanced multidetector CT coronary artery calcium testing in asymptomatic and symptomatic individuals. Radiology, 264・3, 637〜649, 2012.
2)Yoshioka, K., et al. : Subtraction coronary CT angiography for calcified lesions. Cardio. Clin., 30・1, 93〜102, 2012.
3)Yoshioka, K., et al. : Subtraction coronary CT angiography using second-generation 320-detector row CT. Int. J. Cardiovasc. Imaging., 31(Suppl. 1), 51〜58, 2015.
4)Amanuma, M., et al. : Assessment of coronary in-stent restenosis ; Value of subtraction coronary computed tomography angiography. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 32・4, 661〜670, 2016.
5)Vilades Medel, D., et al. : Reliability of a new method for coronary artery calcium or metal subtraction by 320-row cardiac CT. Eur. Radiol., 2015(Epub ahead of print).
6)Kidoh, M., et al. : Optimized subtraction coronary CT angiography protocol for clinical use with short breath-holding time-initial experience. Acad. Radiol., 22・1, 117〜120, 2015.
7)Yoshioka, K., et al. : Modified subtraction coronary CT angiography method for patients unable to perform long breath-holds ; A preliminary study. Acad. Radiol.(In press).
吉岡 邦浩(Yoshioka Kunihiro)
1985年 岩手医科大学卒業。同附属病院,同医学部放射線医学講座を経て,97年に同附属循環器医療センター放射線科配置。2004年 同医学部放射線医学講座助教授,2007年 同准教授,2012年より同附属病院循環器放射線科教授。
- 【関連コンテンツ】