セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第35回医療情報学連合大会(第16回医療情報学会学術大会)が2015年11月1日(日)~4日(水)の4日間の日程で,沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市)で開催された。東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナーでは,沖縄県立南部医療センター・こども医療センター副院長である佐久本 薫氏が,「沖縄県の小児・周産期医療と医療情報ネットワーク」をテーマに,地域医療連携システム「なんこいネット」の運用状況などについて講演した。

ITvision No.33(2016年2月号別冊付録)

第35回医療情報学連合大会(第16回日本医療情報学会学術大会) ランチョンセミナー

沖縄県の小児・周産期医療と医療情報ネットワーク

佐久本 薫(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター副院長)

本講演では,まず沖縄県の周産期医療体制について述べた後に,「沖縄周産期情報ネットワーク(Okinawa Perinatal information Network:OPeN)」を紹介する。また,胎児の心エコー検査の診断支援を行う「沖縄県立病院胎児超音波遠隔支援システム」や東芝メディカルシステムズなどの協力を得て構築した地域医療連携システム「なんこいネット」についても取り上げる。さらに,国立成育医療研究センターが中心となって進めている「小児医療情報収集システム」におけるデータベース構築や問診システムに関して解説する。

沖縄県の周産期医療提供体制

わが国では,出生数が減少し少子高齢化が進んでいる。戦後間もない1949年には出生数が約270万人,合計特殊出生率が4.32であったが,2013年はそれぞれ約103万人,1.43へと減少した。
30年以上にわたり合計特殊出生率が全国で一番高い沖縄県にも,少子化の波が押し寄せている。2013年の出生数は約1万7200人で,合計特殊出生率は1.94であった。2014年はさらに数値が低下して1.86となっており,全国で最も減少幅が大きい-0.08ポイントという結果になった。
沖縄県には,北部,中部,南部,宮古,八重山の5つの保健医療圏があり,当センターのある南部保健医療圏における2013年の出生数は8750人であった。そのうち2500g未満の低出生体重児数は924人であった。また,2013年の沖縄県の周産期死亡率は4.5%(全国平均3.7%),新生児死亡率は1.3%(全国平均1.0%)となっている。
周産期死亡率,新生児死亡率を引き下げるためには周産期医療体制の充実が重要であるが,沖縄県の分娩取り扱い施設数は減少傾向にある。2015年9月の時点で33施設となっていて,10年前の2005年と比較し10施設減少した。産婦人科医師数も減少しており,女性医師の増加と男性医師の高齢化が進んでいる。
現在,周産期高次医療施設としては,当センターと沖縄県立中部病院が総合周産期母子医療センターとなっており,地域周産期母子医療センターは琉球大学医学部附属病院など4施設,そのほか沖縄県立北部病院と沖縄県立八重山病院も地域周産期母子医療センターの整備を進めている。これらの施設には,NICUが54床,GCUが48床ある。
このような状況の中で,効率的に周産期医療を提供するために,各施設が機能を分担する体制とした。当センターと沖縄県立中部病院がセンター機能を担い,患者を振り分ける。さらに,重症呼吸器疾患は琉球大学医学部附属病院,先天性心疾患や小児の透析,離島の患者の引き受けは当センターが担当するといったように,各施設が疾患に応じて対応する。この分担に基づき患者を搬送し,効率的で質の高い医療を提供できるようにした。

空床情報を共有できるOPeN

2014年4月からは,複数の医療施設間でリアルタイムに空床情報を共有できるOPeNを運用している(図1)。従来は,電話とFAXで空床情報をやりとりしていたが,本ネットワークでは沖縄県内の総合周産期母子医療センターと地域周産期母子医療センター,分娩取り扱い施設をインターネットで結び,空床情報や搬送患者の登録・閲覧を行う。周産期高次医療施設が登録した空床情報を基に,分娩取り扱い施設が患者の搬送先を選定し,速やかで無駄のない診療が可能となる。

図1 OPeNの運用概要図

図1 OPeNの運用概要図

 

精度の高い診断と速やかな治療につながる沖縄県立病院胎児超音波支援システム

当センターと沖縄県立中部病院,沖縄県立宮古病院,沖縄県立八重山病院,沖縄県立北部病院の5つの県立病院では,沖縄県立病院胎児超音波支援システムを構築している。本システムは,宮古,八重山,北部の各県立病院で施行された胎児心エコー検査のボリュームデータを当センターと沖縄県立中部病院に送信して,両施設のワークステーションでSTIC法による画像解析を行い,解析画像と所見を返送する(図2)。専門医不在の施設でも,診断の支援を受けることで,精度の高い診療が可能となる。また,この5病院ではテレビ会議システムも導入して,カンファレンスにも活用し始めている。

図2 沖縄県立病院胎児超音波支援システムの運用概要図

図2 沖縄県立病院胎児超音波支援システムの運用概要図

 

離島診療所8施設と構築したなんこいネット

当センターでは,東芝メディカルシステムズの電子カルテシステム「HAPPY ACTIS」を運用している。さらに,地域医療連携システム「HAPPY netty」を導入して,離島にある8診療所とインターネットで接続して,診療情報を共有するなんこいネットの構築を進めている。
なんこいネットは,当センター内に連携サーバを設置して,座間味,渡嘉敷,南大東,久高,渡名喜,阿嘉,粟国,北大東の各診療所間をSSL-VPNで接続する(図3)。各診療所からは,当センターへの紹介患者の診療内容や薬歴,PACSの画像などの診療情報を参照できる。これにより速やかな情報共有ができるほか,重複処方を防ぐといったメリットがある。まず,当センターと座間味診療所との間でテストを行い,順次接続する施設を増やしている。

図3 なんこいネットの運用概要図

図3 なんこいネットの運用概要図

 

薬剤の用法・用量などをデータベース化する小児医療情報収集システム

小児医療では,小児に対する薬剤の用法・用量が不明確で適用外使用が60~70%あり,錠剤やカプセル剤を散剤,水剤に加工するなどの変形処方も多いため,化学的な評価ができないという問題を抱えている。また,小児という特殊性から治験を行いにくいといった課題もある。これらの問題・課題を解決し,治験実施環境の整備と医薬品の適正使用を推進するために,日本小児総合医療施設協議会に加盟する33施設で小児治験ネットワークを構築し活動している。2012年度からは厚生労働省の事業として,「小児と薬情報ネットワーク整備事業」が始まり,国立成育医療研究センターが中心となって,小児に対する用法・用量,副作用の発現状況などの情報を収集してデータベース化し,2015年度から小児医療情報収集システムが稼働し始めた。
本システムでは,協力医療機関の電子カルテシステムから送信される処方・注射情報などが,レジストリーセンターとレポジトリセンターに蓄積される。また,患者の保護者がPCやタブレットから問診情報を入力する問診システムのデータも両センターで管理される(図4)。当センターでも,HAPPY ACTISにSS-MIX2のサーバを設け,データを提供していくこととしている。

図4 小児医療情報収集システムにおけるデータフロー

図4 小児医療情報収集システムにおけるデータフロー

 

まとめ

本講演では,沖縄県における周産期医療におけるITを活用した連携体制,国を挙げて取り組んでいる小児医療情報収集システムについて解説した。

 

佐久本 薫

佐久本 薫(Sakumoto  Kaoru)
1979年熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院産婦人科などを経て,1983年に琉球大学医学部附属病院助手となる。その後,1999年に同大学附属病院助教授(2007年に准教授),2010年に同大学附属病院周産母子センター部長。2014年から現職。

 

 

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