セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第74回日本医学放射線学会総会が4月16日(木)〜19日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。18日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー11では,埼玉医科大学国際医療センター画像診断科教授の木村文子氏を座長に,慶應義塾大学医学部放射線科学教室助教の山田祥岳氏,神戸大学大学院医学研究科先端生体医用画像研究センターセンター長/内科系講座放射線医学分野機能・画像診断学部門部門長・特命教授の大野良治氏,宮崎大学医学部病態解析医学講座放射線医学分野教授の平井俊範氏が,「次世代面検出器CTの最新臨床応用」をテーマに講演した。
2015年7月号
第74回日本医学放射線学会総会 ランチョンセミナー11 次世代面検出器CTの最新臨床応用
循環器・大動脈領域におけるAquilion ONE/ViSION Editionの有用性
山田 祥岳/山田 稔/陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室)
本講演では,当院で2013年1月より稼働する東芝メディカルシステムズ社製Area Detector CT「Aquilion ONE/ViSION Edition」の循環器・大動脈領域における有用性をテーマに,(1) Virtual Monochromatic Image,(2) Lung Subtraction technique,(3) Variable Helical Pitch scan for TAVI-CTの3点について述べる。
Virtual Monochromatic Image
Aquilion ONE/ViSION Editionは,Area Detectorによる2-rotate volume scanでのDual Energy CTが可能であり,電圧変調によるブレがないほか,寝台移動がないため移動に伴うブレのない体軸方向の等時相データ収集が可能である。また,スキャンFOVは50cmとなっている。
Dual Energy CTでは,135kVと80kVの2種類の電圧で撮影したデータからVirtual Monochromatic Image(VMI)を作成可能である。Single Energy CTでは,水などの1つの物質を用いてビームハードニング補正を行うが,VMIでは水とヨードの2つの物質を用いてそれぞれ補正を行うため,より正確なビームハードニング補正が可能である。
また,われわれは,水を満たした体幹部ファントムに模擬血管として5mgI/mL,10mgI/mL,15mgI/mLのヨード造影剤希釈液を満たしたシリンジを入れ,VMIと120kVp画像とのCNR比較を行った(図1)。その結果,VMIのCNRは最適keVで120kVp画像よりも高かった。また,10mgI/mL,5mgI/mLのシリンジも同様の結果となった。
Lung Subtraction technique
Lung Subtraction Iodine Mapping(Lung Subtraction)は,造影前後にそれぞれCT撮影を行い,非造影時,造影時の息止めの違いを考慮して非剛体位置合わせ処理後に,造影CTデータから非造影CTデータを差分処理することでIodine Mapを作成する手法である。一方,Dual Energy CTでは,Low kVpとHigh kVpにおけるヨードのCT値の差をIodine Mapとして画像化する。Lung Subtractionでは差分処理後の造影効果のCT値がIodine Mapに反映されるため,理論上はDual Energy CTと比較して2〜2.5倍の高コントラストが期待される。
1.症例提示:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
症例1は,74歳,女性。肺血流シンチグラフィ(図2 a)にて欠損像が認められる。Dual Energy CTのIodine Map(図2 b)では,左肺の欠損像は一致しているが,右肺は上大静脈内の造影剤によるアーチファクトにより血流評価は困難である。一方,Lung Subtraction(図2 d)では上記のアーチファクトの影響は軽減されており,肺血流シンチグラフィの欠損像とよく一致した像が得られた。なお,Lung Subtractionの作成に用いた造影CTデータから,肺動脈の形態画像(図2 c)も作成可能である。
2.バルーン肺動脈形成術(BPA)における有用性
CTEPHにおいては近年,外科的な肺動脈血栓内膜剥離術のほかに,BPAが施行されるようになっている。BPAは,肺動脈の狭窄・閉塞部位にカテーテルを挿入し,バルーンで拡張することで肺血流を回復させる手技で,その治療戦略を立てる際には肺動脈の形態情報はもとより,肺血流の情報が重要となる。
われわれは,CTEPHが既知,あるいは疑われ,十分な息止めが可能な50症例を対象にCTと肺血流シンチグラフィを施行し,肺血流シンチグラフィをゴールドスタンダードとした場合のセグメントベースでのLung Subtractionの診断能について検討した。その結果,正診率90%以上という良好な成績が得られた。
Variable Helical Pitch scan for TAVI-CT
近年,外科的な大動脈弁置換術が困難な重症の大動脈弁狭窄症患者に対して,経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が施行されるようになった。わが国でも2013年10月から保険適用となり,施行件数が増加している。TAVIの術前計画には,心臓(大動脈弁)のCT画像とアクセス経路を評価するための大血管のCT画像が必須となる。
一方,TAVIの適応患者の多くは高齢で,腎障害を有する割合が高い点に留意する必要がある。また,TAVI術前の慢性腎障害が重症であるほどTAVI術後の予後が悪いことが報告されている。このため,TAVI術前CTにおいては,造影剤使用量を極力少なくすることが望ましい。
われわれは,TAVI術前CTにVariable Helical Pitch scanを使用している。これは,胸部から腹部までを,1回のスキャン中に心電図同期ありとなしを切り替えながら,ヘリカルピッチを胸部は高ピッチ,横隔膜以下は低ピッチへと変化させて撮影する技術で,高ピッチから低ピッチへの切り替え時間は0秒である。この撮影法を用いることにより,TAVI術前CTの撮影時間は,胸部の心電図同期撮影が約12秒,横隔膜以下の心電図非同期撮影が約2〜3秒で,総撮影時間は13〜14秒となる。そのため,ほとんどの患者の造影剤使用量を50mL以下に抑制できる。
1.症例提示:腎機能障害
症例2(図3)は,80歳代,女性,身長158cm,体重50kgで,推算糸球体濾過量(eGFR)は25mL/min/1.73m2と高度低下している。Variable Helical Pitch scanを使用することで,造影剤使用量が30mLでもTAVI術前に必要な大動脈弁輪およびアクセス経路の情報を得ることができた。
2.TAVI術前CTプロトコールの検討
当院におけるTAVI術前CTプロトコールを図4に示す。本プロトコールでの撮影時間,造影剤使用量,CT値を,当院のTAVI術前CTを対象に測定したところ,撮影時間は平均13秒,造影剤使用量は平均40mL以下であり,上行大動脈から総大腿動脈までの大血管および冠動脈の平均CT値は400HU以上であった。また,胸部についてはヘリカル撮影により全心位相のデータが得られるため,4D CTによる大動脈弁の評価も可能である(図5)。
まとめ
VMIはファントム実験の結果,最適keVで120kVpよりCNRが高いという結果となった。
Lung Subtractionについては理論上,Dual Energy CTの2〜2.5倍のコントラストが期待されている。
腎機能障害は,大動脈弁狭窄症に対するTAVI術後の予後に関連するが,Variable Helical Pitch scanはTAVI術前CTの造影剤量低減に有効と思われる。
山田祥岳(Yamada Yoshitake)
2002年 慶應義塾大学医学部卒業。2006年 同放射線科学教室入局。2013年 同大学大学院医学研究科博士課程修了。2011年より同大学医学部放射線科学教室(診断)助教。
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