セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第42回日本放射線技術学会秋季学術大会が10月9日(木)〜11日(土)の3日間,札幌コンベンションセンター(北海道札幌市)にて開催された。9日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー1では,北海道大学病院診療支援部放射線部技師長の荒井博史氏を座長に,医療法人鉄蕉会亀田総合病院医療技術部画像診断室の加藤義明氏と広島大学病院診療支援部高次医用画像部門の藤岡知加子氏が,「Clinical Innovation─CT/MRの最先端臨床応用」をテーマに講演した。ここでは,加藤氏の講演内容を報告する。
2014年12月号
第42回日本放射線技術学会秋季学術大会 ランチョンセミナー1 Clinical Innovation─CT/MRの最先端臨床応用
乳房MRI検査の基礎と臨床
加藤 義明(医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 医療技術部画像診断室)
乳房MRIの基礎と臨床をテーマに,乳房MRI検査の重要性が高まっている理由,診断医が読影時に重視しているポイント,診療放射線技師(以下,技師)がめざすべき診断に適した画像・情報提供,という3点について述べる。
乳房MRI検査の重要性が高まっている理由
1.MRIガイド下生検の適応
当院では現在,乳房MRI検査に東芝メディカルシステムズ社製3T MRI「Vantage Titan 3T」を使用している。Vantage Titan 3Tはオープンボアで開口径71cm,“Multi-phase Transmission(2ch 4port)”,広領域・高画質コイルである“Atlas SPEEDER”などの特長を有している。なかでも乳房検査専用コイル「ブレストSPEEDER」は非常に優れた構成となっており,8ch,4ch,2chでの撮像が可能である。当院では通常の検査では8ch,MRIガイド下生検では2chを使用している(図1)。
MRIガイド下生検の適応に関しては,図2に概要を示す。左乳房に3種類の病変が認められた本症例では,所見のすべてに対して生検を施行するわけではなく,下記要領にて適否判断がなされる。診断医は,決められた用語に基づいてそれぞれの所見を記載し,カテゴリー分類を行う。本症例の場合は,図2 (2)の病変に対してMRガイド下生検を行った。MRIでのみ描出され,American College of Radiology(ACR)のガイドライン『BI-RADS-MRI』にてカテゴリー4もしくは5と診断された病変がMRIガイド下生検の適応であり,マンモグラフィや超音波で描出される病変は対象外となる。本症例は,超音波ガイド下生検にて非浸潤性乳管癌(DCIS),MRIガイド下生検にて浸潤性乳管癌(IDC)が検出され,全摘術が施行された。
当院は2007年,日本で初めてMRIガイド下生検を開始した。約7年間で300例に施行し,そのうちの38%で悪性腫瘍を検出して大きな成果を上げている。MRIガイド下生検は保険適用外であるため国内で実施している施設はまだ少なく,今後の普及が望まれる。
また,ルーチンMRIにて病理像をイメージできるような空間分解能を追究することが,われわれ技師に求められている。
2.MRI-only-detected-lesionの存在
乳腺腫瘍の組織学的分類1)を見ると,乳がんについては大きく浸潤癌と非浸潤癌に分けることができるが,そのうちの8〜9割がDCISとIDCである。なかでも,MRIにおいて特に重視されているのがDCISである。検診マンモグラフィや超音波の普及により,浸潤癌になる前のDCISの段階で病変が検出されることが増えているが,DCISの約40%がMRIでのみ検出可能なMRI-only-detected-lesionと報告されている2)。より早期に治療を行うためにも,MRIでは特にDCISの診断に適した画像の提供が望まれる。
IDCに至るまでの過程を見ると,通常型乳管過形成(UDH)から異型乳管過形成(ADH)への流れには直接の関係はないが,ADHはDCIS,IDCへと進行すると言われている3)。しかし,MRIでは感度は約40%と高いものの特異度はそれほど高くなく,それぞれがオーバーラップして描出されてしまい,明確に区別することはできない。そのため,われわれ技師は,できるだけオーバーラップが抑えられるような画像の描出を心がけ,また,診断医はわずかな違いを読影して,DCISがIDCに至る前,もしくはADHがDCISに至る前に治療を開始できる環境が求められている。
米国の女優が2013年,遺伝性乳がんの予防を目的に両側乳房の全摘出・再建術を受けたことが日本でも大きな話題となったが,BRCA1,BRCA2という遺伝子の病的変異が認められた場合,遺伝性の乳がんや卵巣がんを発症するリスクが大きいことがわかっている。しかし,BRCAが陽性でも切除を希望しない場合は経過観察が必要であり,通常はマンモグラフィや超音波での検査が行われるが,MRIでもMRI-only-detected-lesionの段階で確実に検出できる体制を整えておく必要がある。
MRI-only-detected-lesionが検出された場合について,BI-RADS-MRIには,MRIガイド下生検を行うか,生検が可能な施設を紹介できる体制であることが明記されている。一方,生検の実施には時間がかかるため,無駄な生検を避けるためにも,正診率を高めるためのルーチンMRI検査の画質向上が望まれる。
診断医が読影時に重視しているポイント
乳房MRI診断の潮流は,ACRの『乳房造影MRIの実施に関する診療ガイドライン』が示す高空間分解能画像による形態情報を重視する米国型と,European Society of Breast Imaging(EUSOBI)の『欧州乳房画像診断学会ガイドライン』が示す高時間分解能に基づく血流情報を重視する欧州型の2つがある。しかし近年,MRIの性能が急速に向上したことで,どちらの要望にも応えられる画像が撮像可能となった。
また最近,国内ではBI-RADS-MRIに基づいて読影する施設が徐々に増加している(2014年2月,BI-RADS-MRI2013年版発行)。
1.症例提示
図3に7症例8病変を提示し,診断医が読影時に重視しているポイントを具体的に述べる。まず,これらの病変が腫瘤性病変か非腫瘤性病変かを区別し,腫瘤性病変であれば,形態,辺縁,内部造影性状,血流の情報について,非腫瘤性病変であれば分布,内部造影性状,血流の情報について,それぞれ定義されている用語に沿って所見を記載し,カテゴリー分類を行う。BI-RADS-MRIのカテゴリー分類は,カテゴリー0:不完全(要他モダリティ画像追加),カテゴリー1:所見なし,カテゴリー2:良性,カテゴリー3:良性疑い,カテゴリー4:悪性疑い,カテゴリー5:悪性を強く示唆,カテゴリー6:既知の悪性となっている。
図4,5に,BI-RADS-MRI(2013年版)における所見の定義を示す4)。例外はあるが,腫瘤性,非腫瘤性共に,赤字で記載しているものが最も悪性度が高い5)。また,2013年版のBI-RADS-MRIでは,新たに“Clustered ring enhancement”という用語が採用された。これは小さなリング状の集蔟した濃染のことであり,ほぼ悪性と考えられる。
血流動態は,造影後2〜3分の早期相をSlow,Medium,Fast,造影後4〜8分の遅延相をPersistent,Plateau,Washoutで評価する6)(図6)。
上記のさまざまな情報を基にカテゴリー分類を行うが,図3の8病変について実際に病理像と照らし合わせたところ,正診率は100%であった。
なお,当院では乳房MRIの撮像方向として,冠状断で腫瘍の分布を確認し,矢状断で内部性状を確認している。乳房において非腫瘤性病変の造影分布を見るには,矢状断が最も適していると思われる。また,血流情報を評価するに当たり,比較的強い造影増強のある小結節やWashoutのある小腫瘤については,ROI設定の際に正常乳腺を含めないよう注意する必要がある6)(図6)。
技師がめざすべき診断に適した画像・情報提供
乳房MRIの撮像に欠かすことのできない重要な技術として,脂肪抑制法が挙げられる。東芝メディカルシステムズ独自の脂肪抑制技術“Enhanced Fat Free”は,初めに脂肪周波数選択的に90°以上RFパルスを励起し(SPIR),Null-pointを待たずにクラッシャーグラディエントで横磁化を分散化する。その状態で再度,脂肪周波数選択的にIRパルスを励起し(CHESS),最後にもう一度クラッシャーグラディエントで横磁化を分散化する。これにより,1st Fat Satパルス(SPIR)で脂肪成分を抑制できない場合でも,2nd Fat Satパルス(CHESS)により脂肪成分の均一かつ確実な抑制が可能となる(図7)。
また,もうひとつの重要な点として,空間分解能,時間分解能,コントラスト分解能がある。当院では2013年,TEおよびflip angleについて検討を行った7)。Near-1st-Opposed-phase(TE=4.0ms/1.4ms),1st-In-Phase(TE=5.5ms/2.5ms),Near-2nd-Opposed-phase(TE=6.2ms/3.2ms)という3種類のシーケンスを比較したところ,CNRはNear-1st-Opposed-phaseのTE=1.4msが最も低かったが,当院ではあえて本シーケンスを採用している。短いTR/TEによって得られる撮像時間短縮化や広い撮像範囲という恩恵は,高空間分解能・高時間分解能を必要とする乳腺撮像では非常に有効と考える(図8)。また,造影剤の後押しを考慮すると,脂肪抑制効果が適切に得られれば,正常乳腺とのコントラストは十分に得ることができる。本比較では,経時的な造影増強効果低下の影響を差し引いても,短いTEによる位相分散が少ない状況でのエコー信号取得は理にかなっていると判断した。
まとめ
乳腺MRIの撮像に当たっては,ガイドラインに則ったカテゴリー分類などをしっかり理解し,シーケンス評価をきちんと行って,診断医が求めるコントラストの画像をつくっていただきたい。
●参考文献
1)日本乳癌学会編:臨床・病理 乳癌取扱い規約(第17版). 東京,金原出版,2012.
2)Christiane, K. K., et al.:MRI for diagnosis of pure ductal carcinoma in situ;A prospective observation study. Lancet, 370・9586, 485〜492, 2007.
3)Boecker, W., et al:Usual ductal hyperplasia of the breast is a committed stem (progenitor) cell lesion distinct from atypical ductal hyperplasia and ductal carcinoma in situ. J. Pathol., 198・4, 458〜467, 2002.
4)http://www.acr.org/Quality-Safety/Resources/Breast-Imaging-Resources
5)Tozaki, M., Fukuda, K. : High-Spatial-Resolution MRI of non-masslike breast lesions;Interpretation model based on BI-RADS MRI descriptors. Am. J. Roentgenol., 187, 330〜337, 2006.
6)戸﨑光宏,福間英祐:乳腺MRI実践ガイド─撮像法,読影基準,治療. 東京,文光堂,2007.
7)伊東典子,加藤義明・他:3.0T装置を用いたMRガイド下乳房生検における撮像条件の検討. 第41回日本放射線技術学会秋季学術大会, 2013.
加藤 義明(Kato Yoshiaki)
1994年 東京電子専門学校臨床検査学科卒業。同年 医療法人鉄蕉会亀田総合病院医療技術部画像診断室入職,現在に至る。臨床検査技師・磁気共鳴専門技術者。
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