セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第50回日本医学放射線学会秋季臨床大会が9月26日(金)〜28日(日)の3日間,神戸ポートピアホテル,神戸国際会議場(兵庫県神戸市)にて開催された。26日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー13では,名古屋大学大学院医学系研究科分子総合医学専攻高次医用科学講座量子医学分野教授の長縄慎二氏を座長に,藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師の村山和宏氏と岩手医科大学医学部放射線医学講座准教授の吉岡邦浩氏が,「最先端CT/MRIによる臨床応用」をテーマに講演した。ここでは,村山氏の講演内容を報告する。

2014年12月号

第50回日本医学放射線学会秋季臨床大会 ランチョンセミナー13 最先端CT/MRIによる臨床応用

Vantage Titan 3Tを用いた脳神経画像診断の現状

村山 和宏(藤田保健衛生大学 放射線医学教室)

藤田保健衛生大学病院では2012年9月,低侵襲画像診断・治療センターの開設に伴い,東芝メディカルシステムズ社製3T MRI「Vantage Titan 3T」が稼働を開始した。本講演では,Vantage Titan 3T,特に32ch head coil(32chヘッドSPEEDER)の使用経験,急性期脳梗塞におけるcomputed DWI(cDWI)の臨床応用,Time-SLIP法を用いた水頭症の評価,T1WI-MPVによるプラークイメージングおよび脳転移評価について,臨床例を提示しながら報告する。

32ch head coilの使用経験

1.32chヘッドSPEEDERと16ch head coilの比較
32chヘッドSPEEDERのSNRは16ch head coilと比較して,コイル感度は中央部分ではほぼ同等だが,表面部分では約20%向上している。また,感度補正が行われるため信号ムラが低減された画像が得られるほか,頭部に密着する形状となっており,頭部全体が撮像範囲としてカバーされるよう設計されている。
図1は髄膜腫症例であるが,32chヘッドSPEEDERでは信号ムラのない画像が得られており,腫瘍と脳の境界や,灰白質と白質のコントラストも明瞭である。
図2は認知症スクリーニングのMRAであるが,32chヘッドSPEEDERでは高いSNRにより血管が末梢まで良好に描出されており,背景のノイズ信号も相対的に低減されている。

図1 髄膜腫症例における32chヘッドSPEEDERと16ch head coilの比較

図1 髄膜腫症例における32chヘッドSPEEDERと16ch head coilの比較

 

図2 認知症スクリーニングにおける32chヘッドSPEEDERと16ch head coilの比較

図2 認知症スクリーニングにおける32chヘッドSPEEDERと
16ch head coilの比較

 

2.FSBB法の有用性
東芝メディカルシステムズ独自の撮像法であるFSBB(Flow Sensitive Black Blood)法は,3D GREに弱いMPGを印加し,通常のGREコントラストに加えて,高流速から低流速までの血流をdephaseさせてBlack Bloodとして描出する撮像法である。これにより,太い血管から細い血管まですべて低信号に描出できるため,基底核部などの細い血管の描出や,血管閉塞性疾患の治療評価などに有効とされている。
図3は健常ボランティアのFSBB法によるレンズ核線状体動脈(LSA)の画像であるが,穿通枝が明瞭に描出されている。1.5T MRIにてFSBB-MRAを用いて脳梗塞症例のLSAを評価したOkuchiらの報告1)によると,梗塞側の穿通枝の描出数が少ないとされてることから,穿通枝の評価は脳梗塞やその他さまざまな患者背景の評価に有用と考えられる。また,3T MRIを用いたFSBB法の評価も報告されている2)

図3 FSBB法によるレンズ核線状体動脈(LSA)の描出

図3 FSBB法によるレンズ核線状体動脈(LSA)の描出

 

急性期脳梗塞におけるcDWIの臨床応用

1.cDWIの原理
cDWIは,2つ以上のb値を用いて任意のb値の画像をレトロスペクティブに作成する手法である。従来のようにhigh b値でDWIを撮像するとTEが延長し,SNRの低下やひずみなどが生じるが,cDWIは信号強度の対数表示グラフ上での傾きがADCに相当し,b値の信号強度を変えることで,TEの短い(SNRの高い)画像からhigh b値の画像を作成できる。なお,同社のMRI装置では,b=0とb=1000の2点法を用いてcDWIを作成している。

2.cDWIの臨床検討
当院では,2013年4月〜2014年3月まで,Vantage Titan 3Tを用いてDWIにて淡い高信号域を呈した急性期脳梗塞23症例を対象に,病変部と思われる場所にROIを置き,また,正常な白質にもROIを設定してb=0とb=1000のDWIおよびb=2000のcDWIを作成し,正常な白質とのcontrast ratio(CR)を算出した。その結果,DWIで淡い高信号と明瞭な高信号の症例のいずれにおいても,cDWIのCRは明らかに上昇した。特に,淡い変化で虚血がそれほど強くなくても,急性期脳梗塞を発症している症例ではCRが大きく上昇するため,cDWIは臨床的に有用であると思われる。
Case1は,b=1000のDWIにて右側頭後頭葉に淡い変化が認められるが,ADCでも変化はわずかで,診断は難しいと思われる。しかし,b=2000,4000のcDWIでは梗塞巣が明瞭に描出され,急性期脳梗塞と診断できる(図4)。後方循環系,特に脳幹や後頭葉,小脳などの梗塞巣でDWIのわずかな信号変化しか認められない病変にはcDWIが有用である。

図4 Case1:右側頭後頭葉のDWI,ADCとcDWI

図4 Case1:右側頭後頭葉のDWI,ADCとcDWI

 

3.cDWIの有用性
cDWIは新たに撮像する必要がないため,検査時間や撮像時間の延長もなく,また,TEの延長による変化や,SNRの低下やひずみによる影響がない点も有用と思われる。急性期脳梗塞の診断にはb=1000のDWIやADCが一般的であるが,cDWIを加えることで病変の検出能向上が期待でき,診断の補助ツールになると思われる。
なお,Vantage Titan 3Tの最新バージョンでは,DWIの撮像に連動してコンソール上で自動的に任意のb値のcDWIを作成する機能が搭載されている。

Time-SLIP法の水頭症の鑑別診断への応用

1.Time-SLIP法の原理と水頭症への応用
当院では脳脊髄液(CSF)の循環動態の評価に,東芝メディカルシステムズの非造影MRA技術であるTime-SLIP(Time-Spatial Labeling Inversion Pulse)法を使用している。Move outとMove inという2つの概念があり,タグの設定位置によってCSFの流入と流出の状況が確認できる。具体的には,まずnon-selective IR pulseによって背景信号を抑制し,次に任意の場所のCSFのみをもう一度反転させることでラベリングする。その上で,複数のTIを設定して撮像することで,CSFの循環動態の描出(CSF flow imaging)が可能となる。パルスの回復時間とコントラストの減弱を考えると,5〜6秒間の循環動態が観察可能である。タグの位置や角度,サイズは自由に変えられるため,臨床応用しやすい技術である。
Time-SLIP法にてCSFを評価するに当たっては,モンロー孔の辺りにタグを置くと,正常例では第三脳室から側脳室の方に向かうCSF reflux flowが確認できる。また,頭蓋内クモ膜囊胞の開窓術前後では,腫瘤内外のCSFの動きが画像化され,治療効果判定が容易となった。
われわれは,Time-SLIP法によるCSFの循環動態の評価を水頭症の鑑別診断に利用できると考えている。水頭症には交通性水頭症〔正常圧水頭症(NPH):特発性NPH(iNPH),非特発性NPHなど〕と非交通性水頭症(小児水頭症,その他の閉塞性水頭症)があり,iNPHの形態的特徴としては,クモ膜下腔の不均衡な拡大(DESH)が挙げられる。また,中脳水道のflow void現象やPC(phase contrast)法によるCSF flow計測なども,NPHの特徴として報告されている。

2.症例提示
Case2はiNPH疑いの症例であるが,図5 a,bのようにタグを置くと,第三脳室から側脳室内へのCSF reflux flowが消失していることが確認できる(図5 d,e)。逆に,中脳水道の辺りは動きが速くなっており(図5 f ←),iNPHと診断できる。
Case3は,閉塞性水頭症のため,ETV施行後に再度水頭症が増悪してきた症例である。第三脳室から側脳室への逆流が非常に強く,第四脳室の拡大も認められる(図6)。バイパスの機能が喪失しているほか,ルシュカ・マジャンディー孔から大後頭孔レベルにタグを置くとCSF flowが停滞しており,この辺りが閉塞部位と考えられる。このように,Time-SLIP法では機能的な診断も可能である。

図5 Case2:iNPH疑い症例のCSF flowイメージ

図5 Case2:iNPH疑い症例のCSF flowイメージ

 

図6 Case3:閉塞性水頭症にてETV施行後CSF flowイメージ

図6 Case3:閉塞性水頭症にてETV施行後CSF flowイメージ

 

3.Time-SLIP Multi-Tag(W.I.P.)
Time-SLIP法はSingle-Tagであるが,東芝メディカルシステムズでは現在,Multi-TagによるTime-SLIP法を開発中である。2か所にタグを置くと2か所にラベリングされるため,Single-Tagと比べて広い範囲のCSF flowが可視化できる(図7)。PC法と比較するとTime-SLIP法は1回で評価できる視野範囲が狭いが,Multi-Tagであればある程度解消できるものと期待される。

図7 Time-SLIP Multi-Tag(W.I.P.)

図7 Time-SLIP Multi-Tag(W.I.P.)

 

T1WI-MPVの臨床応用

1.プラークイメージング
T1WI-MPV(Multi Planar Voxel)は,Variable Flip Angleを利用したFASE 3D-MPV撮像技術であるが,通常のT1WIと比べてブラーリングとSARが抑制できることが特徴となる。実際にはエコーごとにFlip Angleを変化させ,最初は120°,その後は60°で撮像を行う。
図8は,T1WI-MPVによる頸動脈プラークイメージングである。MRAで狭く描出されている部位を脈波非同期のT1WIとT1WI-MPVで見ると,内頸動脈の両側に高信号が認められる。胸鎖乳突筋をプラーク信号輝度の判定基準としてCRを計測すると,右がlipid/necrosis plaque,左がhemorrhage plaqueであることがわかる。
こうした質的診断については論文でも報告されており,脈波非同期のT1WIにてfibrous plaque,lipid necrosis plaque,hemorrhage plaqueのCRを測定し,カットオフ値を1.17〜1.55に設定すると,fibrous plaqueは1.17以下,lipid necrosis plaqueは1.17〜1.55,hemorrhage plaqueは1.55以上というように,有意差を持って分離することができる3)

図8 T1WI-MPVによる頸動脈プラークイメージング

図8 T1WI-MPVによる頸動脈プラークイメージング

 

Case4は椎骨動脈解離症例であるが,左の小脳に急性期脳梗塞が散見され,入院時のMRAでは左の椎骨動脈に壁不整が認められた。T1WI-MPV(図9上段)でも左の椎骨動脈の壁に沿って高信号域が認められ,大動脈解離を起こした血栓化した壁そのものを見ていると思われる。本症例は,その後のフォローアップT1WI-MPVにて左右差がほぼなくなっていることから(図9下段),治療による改善が認められた。

図9 Case4:椎骨動脈解離症例のT1WI-MPV

図9 Case4:椎骨動脈解離症例のT1WI-MPV

 

2.脳転移評価
Case5は脳転移症例である。造影T1WI-MPV,造影T1WI-3D FFEにて転移巣が認められる(図10)。
脳転移検索におけるT1WI-MPVの意義として,まず腫瘍と脳実質のコントラストが高く,病変の検出能が高いことが報告されている4),5)。これは,MT効果によって脳実質の信号が抑制されることが一因と考えられる。また,GRE法と比較した利点として,(1)血管の信号が抑制され,小さな増強効果を同定しやすい,(2)磁化率効果に強く画像がひずみにくい,(3)血管拍動によるアーチファクトが出にくい,という点がある。さらに,脳転移は多発症例が多く前回画像との比較が困難だが,それが容易に行えることも大きな利点である。ただし,転移と偽病変(残った血管の信号)との鑑別には注意が必要である。

図10 Case5:脳転移症例の造影T1WI-MPVと造影T1WI-3D FFE

図10 Case5:脳転移症例の造影T1WI-MPVと造影T1WI-3D FFE

 

まとめ

急性期脳梗塞におけるcDWIでは,撮像時間が延長することなく,診断の補助ツールとして検出感度の向上が期待できるが,偽病変に注意を要する。
Time-SLIP法では,CSF flowを可視化できるため,水頭症の鑑別や閉塞機転の評価が可能である。
T1WI-MPVは,血管壁(プラーク)の評価や造影後の脳転移評価に応用可能と考えられる。

●参考文献
1)Okuchi, S., et al.:Visualization of lenticulostriate arteries by flow-sensitive black-blood MR angiography on a 1.5 T MRI system: a comparative study between subjects with and without stroke. AJNR, 34・4, 780〜784, 2013.
2)Okuchi, S., et al.:Visualization of lenticulostriate arteries at 3T;Optimization of slice-selective off-resonance sinc pulse-prepared TOF-MRA and its comparison with flow-sensitive black-blood MRA. Acad. Radiol., 21・6,812〜816, 2014.
3)Narumi,S. et al.:Predicting carotid plaque characteristics using quantitative color-coded T1-weighted MR plaque imaging: correlation with carotid endarterectomy specimens. AJNR, 35・4, 766〜771, 2014.
4)Komada, T., et al.:Contrast-enhanced MR imaging of metastatic brain tumor at 3 tesla: utility of T(1)-weighted SPACE compared with 2D spin echo and 3D gradient echo sequence. Magn. Reson. Med. Sci., 7・1, 13〜21, 2008.
5)Kato, Y., et al.:Usefulness of contrast-enhanced T1-weighted sampling perfection with application-optimized contrasts by using different flip angle evolutions in detection of small brain metastasis at 3T MR imaging;Comparison with magnetization-prepared rapid acquisition of gradient echo imaging. AJNR, 30・5, 923〜929, 2009.

 

村山 和宏(藤田保健衛生大学 放射線医学教室)

村山 和宏(Murayama Kazuhiro)
2003年 藤田保健衛生大学医学部医学科卒業。同年 藤田保健衛生大学病院研修医。2008年 藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室助教。2009年 藤田保健衛生大学大学院医学研究科終了。2010年より藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP