セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

超音波Week 2014が2014年5月9日(金)〜11日(日)の3日間にわたり,パシフィコ横浜で行われた。11日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー19「新血流イメージング“SMI”の有用性」では,川崎医科大学検査診断学の畠 二郎氏を座長に,東あおば整形外科の髙橋 周氏と,東邦大学医療センター大森病院消化器内科の住野泰清氏が講演を行った。

2014年11月号

超音波Week 2014 ランチョンセミナー19 新血流イメージング“SMI”の有用性

血流で診る肝疾患

住野 泰清(東邦大学医療センター大森病院消化器内科)

東芝メディカルシステムズ社が開発した血流イメージング“Superb Micro-vascular Imaging(SMI)”では,肝臓表面近傍(深さ1〜2cm)の血流を観察でき,肝疾患の診断に非常に有用である。本講演では,肝疾患における血管・血流診断の意義について解説し,SMIの有用性について述べる。

肝疾患における血管・血流診断の意義

肝疾患の診療には,肝組織所見や肝機能検査,逸脱酵素,ウイルスマーカーといったさまざまな情報が必要であり,なかでも形態情報は診断の基本となる。形態,つまり組織が変化すると,血管・血流にも影響を与えることから,超音波検査で血管・血流を観察することで,診断に役立つ情報を得られると考えられる。
疾患により肝組織が変化すると,それに伴い肝血管の走行や形態も変化する。健常肝では血管はきれいに分岐しているが(図1a),慢性肝炎や肝硬変になると,血管と血管の間の組織が壊死,瘢痕化して縮小することで分岐した血管が近づき(図1b),単位体積あたりの血管が増える。炎症により血管が増生したり(図1c),さらに病変が進展すると,組織が瘢痕化して萎縮することにより血管が縮むコークスクリューパターン(図1d)を呈する。
また,肝疾患の進展は,肝臓を栄養する血流のバランスにも影響を及ぼす1)。肝臓は門脈と動脈の2つの血管によって栄養されており,健常肝では門脈から7〜8割,動脈から2〜3割のバランスで血液が供給される。しかし,主要な栄養血管である門脈の血流は,消化管を通って肝臓に流入するため圧が低く,病変が進展して肝臓が硬くなると血液が流れにくくなり,代わって動脈が肝臓を栄養するようになる。肝硬変が進むにつれて動脈が担う比率が高くなり,重症化するとすべて動脈から栄養されるようになる。そのため,栄養血流のバランスを見ることで,肝硬変の進展を把握することができる。

図1 慢性肝疾患の病変進展に伴う肝血管の変化

図1 慢性肝疾患の病変進展に伴う肝血管の変化
a:健常肝の血管走行
b:単位体積あたりの血管が増加
c:炎症による血管の増生
d:コークスクリューパターン

 

超音波による肝臓表面近傍の血管の検討

多くの肝疾患は肝細胞に障害を来す。これらの変化を血管から読み取ろうとすると,当然末梢の血管を検討することになる。また,実際に機能している肝細胞に直接血液を供給しているのも末梢の血管であり,肝臓の栄養状態を理解するためには,これら末梢血管における動脈・門脈血流のバランスを検討する必要がある。腹腔鏡で観察すると,肝臓の表面を走行する血管がすべて末梢血管と言えるほど細くないことは一目瞭然であるが,少なくとも肝門部よりも肝臓表面近傍の血管の方が末梢血管に近いはずであり,そのため当院では肝臓表面近傍血管について超音波による検討を行ってきた。
パワードプラでは,健常肝よりも肝硬変の方が単位体積あたりの血管の密度が高いことが確認された。レボビストを用いた造影超音波の検討では,健常肝に比べて,慢性肝炎では血管分岐の角度が小さくなり,さらに肝硬変になると,再生結節により分岐がY字型ではなくU字型となるなど,血管の分岐様式により肝障害のステージを把握できることがわかった。一方,ソナゾイドを用いた造影超音波の検討では,持続的な造影効果が得られることから肝臓表面近傍の血管も観察しやすいと期待したが,実際にはごく短時間で肝実質に造影剤が充満してしまい,血管はあまり見えなかった。Micro Flow Imaging(MFI)を用いると細かい血管像を得ることはできたが,それが実像であるかどうかについては多少疑問が残った。

ADFによる肝臓表面近傍の血管の検討

東芝メディカルシステムズ社のAdvanced Dynamic Flow(ADF)は,高分解能,高フレームレート,低ブルーミングな血流イメージングを可能にする独自技術である。このADFで肝臓表面近傍の血管を観察したところ,健常肝では肝臓表面まで伸びる少数の血管を観察できた(図2a)。肝硬変では,分岐した血管が近づき,単位体積あたりの密度が高かった(図2b)。なかでもプロトロンビンタイム(以下,PT)70%以下の症例ではシャント様不整血管が認められ,spleen index(SI)が30以上の症例ではそれが顕著であった。また,急性肝炎は,急性期には肝臓表面直下まで微細で密な血管が描出され,末梢にはシャント様不整血管も見られた(図3a)。一方,回復期にはこれらの所見は見られなくなり,健常肝とほぼ同様の血管走行となった(図3b)。
このように,肝臓表面近傍の血管を検討することで,さまざまな病態を理解できる可能性が示唆された。しかし,ADFでは感度の関係で,末梢血管をきれいに描出することが難しく,観察には多大な労力と時間が必要であることが課題として残った。

図2 ADFを用いた肝表近傍血管の検討(造影なし):健常肝と肝硬変の比較

図2 ADFを用いた肝表近傍血管の検討(造影なし):健常肝と肝硬変の比較

 

図3 ADFによる急性肝炎の観察

図3 ADFによる急性肝炎の観察

 

肝臓の末梢血管の描出に優れるSMI

こうした状況の中,東芝メディカルシステムズ社が新たに開発したSMIはADFと比べ,低流速感度とフレームレートの大幅な向上,モーションアーチファクトの低減を可能にした。フレームレートが高くなったことで,循環末梢の非常に細かいミクロレベルの血管をリアルタイムに描出できるようになっている。具体的には,肝臓の血管は病理学的には第12分枝あたりまで認識できるが,血管撮影では第9分枝程度,ADFでは頑張れば第10〜11分枝程度が認識可能な末梢となる。しかし,SMIでは容易に第10〜11分枝程度まで観察できる。当院でSMIを適用した症例はまだ120例ほどだが,その有用性を実感している。

●症例1:61歳,女性,
C型慢性肝炎(F3/A2)(図4
ADFと比べ,SMIでは血管が明瞭に描出されており,特にモノクロモードが細かい血管の描出に優れている。モノクロモードでは,バックグラウンド(Bモード)のスペックルノイズが抑制されているためと思われる。

図4 症例1:61歳,女性,C型慢性肝炎(F3/A2)

図4 症例1:61歳,女性,C型慢性肝炎(F3/A2)

 

●症例2:81歳,女性,
自己免疫性肝炎肝硬変(図5
本症例は81歳と高齢であり,息止めが不良であった。しかし,SMIでは血管がきれいに描出されており,高フレームレートが有効であることがわかる。

図5 症例2:81歳,女性,自己免疫性肝炎肝硬変

図5 症例2:81歳,女性,自己免疫性肝炎肝硬変

 

●症例3:48歳,男性,
アルコール性肝硬変(図6
SMIでは,シャント様不整血管が多く認められる。ソナゾイド造影超音波(perfusion parametric imaging:PPI)では赤く描出される範囲が広く,門脈と動脈のバランスが動脈に傾いていることがわかる。

図6 症例3:48歳,男性,アルコール性肝硬変

図6 症例3:48歳,男性,アルコール性肝硬変

 

シャント様不整血管の観察の意義

慢性肝炎から肝硬変へと病変が進展すると,中心静脈と門脈域の間,また,門脈域と門脈域をつなぐ細胞に炎症・壊死が起こり,線維帯で結合する(P-C結合,P-P結合)。この部分に増生する血管により,門脈から中心静脈に直接血液が流れる短絡血管が内シャントである。生き残った細胞は再生結節を作るが,血液は内シャントを通って門脈から中心静脈に直接流れてしまうため,再生結節の血液が不足し,病変は進行してしまう。そのため,肝臓の診療において,内シャントの観察が切望されていた。
SMIの画像を検討していたところ,この内シャントと思われる所見が肝硬変8例に認められたため,同所見のない肝硬変8例と,肝機能〔PT,総ビリルビン(T-Bil)〕を比較検討した。その結果,PTは内シャントがある群の方が低い傾向を呈し,T-Bilは明らかな差はなし,という結果を得た(図7)。少数例であり,これで多くを語ることはできないが,解毒能よりもタンパク合成能の方が内シャントの影響を受けやすいことを示唆する所見と思われ,今後症例数を増やして検討したいと考えている。

図7 内シャントの描出の有無におけるPTおよびT-Bilの比較

図7 内シャントの描出の有無におけるPTおよびT-Bilの比較

 

SMIによる末梢血管のFFT解析

SMIは,末梢血管のFFT解析においても有用である。
以前,当院でカラードプラを用いて,肝臓表面から深さ1cmの血管についてFFT解析による検討を行った。末梢に向かう血流にカーソルを置いて解析すると,血流パターンが波形で表示され,Pパターン(門脈のみ),APパターン(門脈と動脈),Aパターン(動脈のみ)を判別することができる。肝硬変(18例),慢性肝炎(19例),正常例(9例)で血流パターンを比較したところ,肝硬変ではAパターンが多く,正常例ではPパターンが多い結果となった。
このように,FFT解析により,末梢に向かう血流の門脈と動脈のバランスの変化を知ることができるが,カラードプラでFFT解析をするには,ROIの設定で画像を安定させるために長時間の息止めが必要であるなど,実施は容易ではなかった。ところがSMIを用いると,非造影でも末梢血管が明瞭に描出されるためROIを設定しやすく,短時間の息止めですむなど,施行者,患者双方の負担を軽減しつつ,簡単にFFT解析を行うことができる(図8)。

図8 SMIを用いた肝臓表面近傍血管のFFT解析結果

図8 SMIを用いた肝臓表面近傍血管のFFT解析結果

 

SMIで動脈が見える症例と見えない症例の比較

SMIで動脈が見える症例と見えない症例で,動脈と門脈のバランスがどのように違うかを比較した。
急性肝炎では,SMIで細かい血管が観察される急性期(図9a)には,造影超音波(PPI)では赤が広範囲に広がり動脈化が認められた。一方,SMIで動脈がほとんど観察されない回復期(図9b)には,造影超音波(PPI)も青が主体となり,門脈由来の灌流に回復していることが確認できた。
また,慢性肝炎と肝硬変を比べると,SMIで動脈が多く確認される肝硬変(図10b)では,造影超音波(PPI)でも動脈化が確認できるのに対し,動脈がほとんど見られない慢性肝炎(図10a)では,血流バランスが門脈に傾いていることがわかる。

図9 動脈が見える症例と見えない症例の比較:急性肝炎

図9 動脈が見える症例と見えない症例の比較:急性肝炎

 

図10 動脈が見える症例と見えない症例の比較:慢性肝炎と肝硬変

図10 動脈が見える症例と見えない症例の比較:慢性肝炎と肝硬変

 

まとめ

SMIは高いフレームレートと高い低流速感度により,非造影で肝臓表面近傍の末梢血流を素早く簡便に,確実にとらえることができる。施行者や患者に負担をかけずに有用な情報を得られることから,臨床に取り入れる価値のある検査であると言える。

●参考文献
1)Reuter, S.R., Redman, H.C. : Gastrointestinal angiography. Philadelphia, W.B. Saunders, 309, 1977.

 

住野 泰清

住野 泰清(Sumino Yasukiyo)
1976年 東邦大学医学部卒業。
79年から腹部超音波を始め,肝腫瘍の超音波診断で学位を取得。以後びまん性肝疾患にはまり,Bモード画像による診断の重要性をかたくなに主張してきたが,最近10年は,造影超音波による病態把握の魅力にとりつかれ,悦楽の日々を送っている。

 

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