セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第73回日本医学放射線学会総会が2014年4月10〜13日の4日間にわたって,パシフィコ横浜(横浜市)で開催された。2日目の11日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー9では,熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学分野教授の山下康行氏を座長に,医療法人鉄蕉会 亀田京橋クリニック 診療部部長 画像センター長の戸﨑光宏氏と,川崎医科大学放射線医学(画像診断1)教授の伊東克能氏が,最先端MRIによる臨床最前線をテーマに講演を行った。
2014年6月号
第73回日本医学放射線学会総会 ランチョンセミナー9 最先端MRIによる臨床最前線
乳房MRIの最新トピック
戸﨑 光宏(医療法人鉄蕉会 亀田京橋クリニック診療部 画像センター)
乳房MRIの最新トピックとして本講演では,(1) 日本と海外のガイドラインにおけるMRIの位置づけ,(2) 遺伝性乳がんとMRI,(3) MRIガイド下生検の国内の現状について解説する。
■日本と海外のガイドライン:MRIの位置づけ
2014年2月,私も編集メンバーの一人であるACRガイドライン『BI-RADS-MRI』2013年版が刊行された。2003年に発刊された『BI-RADS』から実に10年かけて,集大成となる2013年版が完成したことになる。また,2013年6月には,日本乳癌学会が2年ごとに改定している『乳癌診療ガイドライン』の2013年版が刊行された。私は診療ガイドライン委員会の検診・診断委員長を拝命しているため,BI-RADS-MRIとリンクさせながら,CQやエビデンス,グレードなどの統一を図る方向で策定を進めてきた。
『乳癌診療ガイドライン2013年版』では,広がり診断,多発乳がんの検出,診療方針の決定においてMRIは「推奨グレードB」(科学的根拠があり,実践するよう推奨する)とされ,位置づけが向上した。ただし,拡散強調画像を含めた非造影MRIによる乳がん検診は「グレードC2」とされている。スクリーニングに関してはエビデンスのデータがそろっていないため,造影剤を用いずにがんを検出しようという試みは時期尚早と思われる。
『乳癌診療ガイドライン2013年版』では唯一,「BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性に対する乳房MRIスクリーニングは早期発見に有効か」というリサーチクエスチョンを新規に設けた。一般でも話題となっている遺伝性乳がんの項目であり,日本では疫学データがほとんどないため海外のガイドラインを参考にしているが,MRIはProbable(ほぼ確実)で最も有効という位置づけになっている。
■遺伝性乳がんとMRI
BRCA1/2の遺伝子変異を認めると,発症リスクが相対的に高くなる遺伝性乳がん・卵巣がんが注目されている。日本でも中村清吾氏(昭和大学)らが実施した調査研究により,乳がん全体の5〜10%くらいが遺伝性の可能性があることがわかってきた。遺伝子検査でリスクが高いとわかった場合,選択肢は「予防的に治療する」か「MRIによるサーベイランス」かの2つとなる。そのため今後,遺伝子の研究が進むとともに,乳房MRIの使用も広がっていくと思われる。
日本では乳がんのリスクを評価するモデルがないが,海外では「ゲイルモデル」をはじめ,乳がんにかかるリスクをパーセンテージで算出する統計モデルが重視されている。ACRは,平均的なリスクであれば従来通りマンモグラフィ検診を行い,ハイリスクであればマンモグラフィとMRIを同時に行うべきと推奨している。こうしたガイドラインが出る背景には,6か国のハイリスク女性に対するMRIスクリーニングの感度を調査した結果が存在する(American Cancer Society:ACS)。これを見ると,マンモグラフィも超音波も感度は30~40%程度だが,MRIはどの国のデータでも70%以上と非常に高いことがわかる。
さらに,ドイツBonn大学のKuhl氏らによる,マンモグラフィ,超音波,MRIの各単独とそれらの組み合わせを比較するProspective Multicenter Cohort Studyでは,がんの検出やフォローアップにはMRI単独で十分という結果が出ている(J. Clin. Oncol., 2010.)。
■MRIガイド下生検の国内の現状
前述のハイリスク女性に対するマンモグラフィ,超音波,MRIの検出感度の結果からもわかるとおり,MRIでしか見えない病変は少なくない。
図1に,触知で発見され,MRIガイド下生検を行った乳がんの術前MRIを示す。頭側方向の乳房の別の区域に5mm程度の不整形の腫瘍が認められ,MRIガイド下生検を行ったところ,同側乳房に2つの乳がんが検出されたため,乳房温存手術を断念して全摘手術を実施した。
アメリカ(ACR)の「乳房造影MRIの実施に関するACR診療ガイドライン」やヨーロッパ(EUSOBI)の「欧州乳房画像診断学会ガイドライン」では,MRIガイド下生検が実施可能な施設,または紹介が可能な施設でのみ乳房MRIを行うべきとしている。なぜなら,MRIでしか見えない病変を見つけるためにMRI検査を行っているため,その後にMRIガイド下生検が実施できなければ意味がないからである。
日本国内でのMRIガイド下生検の導入施設は,2007年に亀田総合病院で開始して以降,少しずつ増えて,2014年4月現在では17施設で行われている。亀田総合病院では7年経過した現在,MRIガイド下生検は300例に達した。がんの割合は38%であり,うち非浸潤癌が70~80%である。この結果からは,早期がんが見つかっているとも言えるが,一方で,浸潤癌であってもマンモグラフィや超音波では見えていなかったとも考えられる。
■乳房MRIイメージングとMRIガイド下生検の実際
最後に,亀田総合病院で使用している東芝メディカルシステムズ社製3.0T MRIによる乳房MRIについて紹介する。
乳房MRIは脂肪抑制がカギになる。脂肪抑制法としては“STIR”“CHESS”“SPAIR”など,さまざまな種類があるが,東芝が特許を有する“Enhanced Fat Free”は非常にユニークかつ精度の高い方法である(図2)。これは,SPIRとCHESSを組み合わせて,撮像前に2発の脂肪抑制パルスを使用する手法であり,撮像時間の延長なしに,鮮明な脂肪抑制画像が得られる。
また,乳房専用コイル“ブレストSPEEDER”は,乳房のボリュームや下垂の程度,厚みに合わせて,上下左右に自由に動かすことができるエレメントシフト機能が特長で,撮像時の位置決めが非常に容易であり,SNRが大幅に向上する(図3)。ブレストSPEEDERコイルは,通常の撮像時には8ch,生検時には2chとなる。
図4,5は,8chで撮像した乳房MRIの症例である。Enhanced Fat Free法により,非腫瘤性病変(図4)や左乳房内の病変(図5)が明瞭に描出されている。
図6は,MRIのみで検出された病変に対するMRIガイド下生検の症例である。乳房の上方の大胸筋付近に病変が認められる。生検前,生検後,また,生検前後の横断像のMPR像では,うつ伏せで撮像しているため,血液が乳頭側にたまっているような像が見えるが,組織は採取されている。ブレストSPEEDERコイルは,このように胸壁に近い難しい症例で威力を発揮する。
■まとめ
遺伝性乳がんは日本人にも多いという調査結果が出たことから,ハイリスク女性にはMRIによるサーベイランスを実施し,他の検査では見つからない早期の病変を発見して,MRIガイド下生検を行うことが望ましいと考える。
戸﨑 光宏
Tozaki Mitsuhiro
1993年東京慈恵会医科大学卒業。東京都立駒込病院,東京慈恵会医科大学,ドイツ・イエナ大学留学などを経て,2006年亀田メディカルセンター,2007年同センター乳腺科部長(診断担当),2013年より現職。
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