Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2023年1月号
Articial Intelligence Imaging No.5[MRI]
1.5TのDLR-MRIがもたらす画質の向上と撮像時間短縮により広がる選択肢 〜シーリングカメラによるポジショニングサポート機能などAIを活用した技術で検査ワークフローを支援
滋賀県立総合病院
滋賀県立総合病院(535床)は、1970年の開院以来、湖南医療圏の中核病院として、がん、心臓疾患、脳血管疾患などで高度・専門医療を担ってきた。同院に2022年6月、キヤノンメディカルシステムズの1.5T DLR(Deep Learning Reconstruction)-MRI「Vantage Fortian」が導入された。キヤノンメディカルシステムズのAIソリューションブランド「Altivity」の中から、ノイズ除去を目的としたDLR技術である「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」や、シーリングカメラを用いたワークフローアシスト機能などAIを活用した技術が採用されているVantage Fortian。日常臨床でのVantage Fortianの活用について放射線部・茶谷友輔技師に取材した。
MRI2台体制で頭頸部を中心に全身の検査に対応
同院は、2009年に都道府県がん診療連携拠点病院に指定され、2018年に旧名称の成人病センターから改称、生活習慣病関連疾患のみならず多様な疾患を扱う総合診療体制を整えている。同院の画像診断および検査は、放射線診断科の医師4名、診療放射線技師31名が担い、CTやPETなどモダリティごとに部門が分かれている。MRI 部門は、1.5TのVantage Fortianと他社製3T装置の2台、放射線科医1名、診療放射線技師3名、看護師1名の体制で1日32件前後の検査を行う。MRIの検査内容としては、脳神経疾患のフォローアップや脳転移検索を目的とした頭頸部検査が半分近くを占め、脊椎検査、MRCPが続くが、診療科や部位を問わず全身の検査を行っているのが特徴だ。
DLRの画質と運用の柔軟性を評価してVantage Fortianを導入
Vantage Fortianは、MRI検査における画質およびワークフロー向上を目的にAI活用技術を搭載した1.5T装置として、2022年2月、キヤノンメディカルシステムズから発売された。同時期に、老朽化に伴い他社製1.5T装置の更新検討が始まったが、機種選定ポイントを茶谷技師は、「装置更新では、画質向上を一番に意識しました。ちょうど各社からAI活用技術であるDLRが発表されたタイミングでもあり、従来よりも分解能向上や撮像時間短縮が期待できることから、DLR-MRIをターゲットに選定を行いました」と述べる。キヤノンメディカルシステムズを含めた3社に絞り、各社の実機見学を行った上で、Vantage Fortianに決定した。Vantage Fortianについて茶谷技師は、「DLR技術であるAiCEは、2D撮像や3D撮像などシーケンスを選ばずにフレキシブルに適用できます。また、撮像後の画像に対しても必要に応じて簡単に再構成できる点でも高く評価しました」と述べる。
AiCEは、ディープラーニング技術を用いて設計された再構成技術で、ノイズ成分のみを選択的に除去することができる。5段階あるノイズ除去強度は、撮像後でも任意に変更でき画質調整が可能である。AiCEの適用について茶谷技師は、「撮像後でも任意のノイズ除去強度に変更できるため、画質検討のために追加撮像の必要がなく、放射線科医と相談しながらスムーズに画質調整が行えました。今ではプロトコールが固まり、ほとんどの部位やシーケンスで適用しています」と説明する。
AiCEと高速撮像の併用で生まれる選択肢
AiCEによるノイズ除去の恩恵は、撮像時間延長を抑えた高分解能撮像あるいは画質を担保した撮像時間短縮の、両方向に生かすことができる。四肢(手指や手関節など)では、AiCEを 適用することで2Dで1mmスライス厚でのthin slice撮像が可能になった。茶谷技師は、「従来は、3mm厚でも撮像時間をかける必要がありましたが、AiCEによって撮像時間の延長なく3T装置に匹敵するthin slice・高分解能撮像が可能になりました」と言う。一方で、「脊椎では、従来と同等の分解能で撮像時間を短縮するプロトコールを組んでいます。T1/T2強調のサジタル、T2強調のアキシャルを撮像しても、AiCEを適用することで従来の装置よりも1検査あたり5分以上検査時間が短くなっています。それでも3T装置と遜色ない画像が得られており、検査の選択肢が広がりました」(茶谷技師)と述べる。
また、頭部MRAは、AiCEに加えて3D収集の撮像時間を短縮する「Fast 3Dモード」(以下、Fast 3D)を併用している。これにより、撮像時間の延長なく高分解能MRA画像が得られ、血管の描出能が向上している。茶谷技師は、「AiCEとFast 3Dによって、3Tと同程度の撮像時間で、高分解能MRA画像が得られています。従来、血管の微細な動脈瘤や狭窄のある症例では1.5Tと3Tで描出能に差があり、検査は3Tに集中していましたが、Vantage Fortianの導入でそれを少しでもカバーできそうです」と言う。放射線診断科の森畠裕策科長は、「Vantage Fortianでは全体的に画質が向上していますが、特に頭部MRAでは血管がシャープに描出され動脈瘤の形状が評価しやすくなっています」と述べる。さらに、脳神経外科からの頸部MRAの依頼では、頸部だけでなく大動脈のアーチ部上部を含めた検査オーダがあるが、「広範囲のカバーが必要ですが、Fast 3DとAiCEを使うことで2分程度で撮像が可能です」(茶谷技師)と評価する。
Vantage Fortianには、Fast 3Dだけでなく、「Compressed SPEEDER」などのさまざまな高速撮像技術が搭載されているが、AiCEはそれらとの併用が可能であり、茶谷技師は、「AiCEの恩恵は画質以外にもあります。さまざまな高速撮像技術とも併用でき、特に婦人科領域における短時間撮像はモーションアーチファクト低減につながっています。AiCEによって、コントラストに影響する体動補正シーケンスを使わずに、婦人科領域のルーチン検査が行えることは驚きでしたね」と述べる。
シーリングカメラで患者のポジショニングをアシスト
Vantage Fortianでは、ワークフローをアシストするさまざまな機能を搭載するが、その一つがシーリングカメラを使ったポジショニングのサポート機能だ。検査室天井に埋め込まれたキヤノン製カメラを使用したシーリングカメラ機能が、撮像部位を自動認識し、磁場中心へ寝台を移動させポジショニングをサポートする。ガントリ上部のインテリジェントモニタには寝台上の患者が映し出され、ガイドラインが引かれた撮像部位の認識位置を見ながらコイルセッティングが行える。特に、同院でシーリングカメラの有用性が発揮されるのが、前立腺検査のポジショニングだ。前立腺検査ではフレキシブルコイルである「16ch フレキシブル SPEEDER」を使用している。高密度エレメント配置により局所感度で高SNRの画像を取得できる一方でサイズが小さく、前立腺のような小さな撮像部位をターゲットにする場合、少しのズレでもコイル感度から外れるリスクがあり、ポジショニングとコイルセッティングは非常にシビアになる。茶谷技師は、「シーリングカメラ使用前は技師の経験や患者さんの体格によってポジショニングに多少のバラつきがありましたが、使用後は安定して正確なポジショニングが可能となり、インテリジェントモニタに映し出される認識位置に合わせてコイルを置くだけなのでセッティングが簡単です」と述べる。
また、昨今の情勢を踏まえると、“患者に触れずに”ポジショニングができる点は理にかなっており、茶谷技師は、「コロナ禍で接触は最小限にすることが求められますので、その意味でも有用性は高いですね」と別の視点にも触れる。シーリングカメラを用いたアシスト機能によってワークフローが洗練されたことで、「ポジショニングのやり直しがなくなり、時間的な余裕が生まれ、患者さんへの説明などにしっかりと時間を割くことができるようになりました」と茶谷技師は評価する。
■シーリングカメラを使ったポジショニング
■Vantage FortianにてAiCEを適用した臨床画像
アーチファクト低減技術で広がる検査適応の幅
Vantage Fortianでは、AiCEのようなノイズ除去だけでなくアーチファクト低減を目的としたユニークな画像再構成技術も搭載されており、モーションアーチファクト低減を目的としたIMC(Iterative Motion Correction)や、拡散強調画像(DWI)の歪み低減を目的とした再構成技術などが使用可能だ。特に、磁化率および渦電流の影響によるDWIの歪みを低減するRDC(Reverse encoding Distortion Correction)DWIは、主に頭部で使用しており、茶谷技師は、「DWIで問題になる空気が多い脳底部の歪みが低減できています。断面問わず適用可能で、ダイレクトにコロナルやサジタルの撮像も可能です。歪みやすい脳幹部の病変評価のためthin sliceのコロナル撮像の要望がありますが、RDC DWIにより安心して撮像に臨めます」と述べる。
また、コイル塞栓術後の血管のフォローアップでは、mUTE(minimized acoustic noise utilizing UTE)シーケンスを用いて、塞栓部の金属アーチファクトを低減しながらも、造影や被ばくなしで血行動態を観察できるDSAライクな4D-MRAを撮像している。
Vantage Fortianの導入でMRI検査の役割が拡大しており、さらなる活用への期待がふくらむ。茶谷技師は今後の取り組みについて、「3Tにはオプションが搭載されていなかった心臓検査のT1 mappingなども検討しています。AiCEは高分解能化・短時間化以外にT1 mappingのような定量解析にも応用できるので、今後もより質の高い検査を追究し、診療科の要望に応えていきたいと思います」と語る。
Vantage Fortianが実現する高分解能撮像、短時間撮像、ワークフローの支援が、高い確信性と効率性をもってMRI検査を支えていく。
(2022年11月15日取材)
*AI技術は設計段階で用いており、自己学習機能を有しません。
*本記事に掲載のシステムは、画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Orian MRT-1550
認証番号:230ADBZX00021000
類型:Vantage Fortian
一般的名称:MR装置用高周波コイル
販売名:16ch フレキシブル SPEEDER L MJAJ-227A
認証番号:224ACBZX00038000
販売名:16ch フレキシブル SPEEDER M MJAJ-217A
認証番号:224ACBZX00037000
滋賀県立総合病院
滋賀県守山市守山5-4-30
TEL 077-582-5031
https://www.pref.shiga.lg.jp/kensou/
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