Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2022年7月号
エリアディテクタとDual Energy撮影を可能にしたCTを循環器や小児検査に適用 〜超解像技術による再構成法で冠動脈の描出能の向上や解析精度向上への期待が高まる〜
横浜市立大学附属病院
横浜市立大学附属病院(後藤隆久病院長、病床数674床)では、3台のCTで年間3万7000件の検査を行っている。2021年3月に64列CTをリプレイスして、最新の320列CT「Aquilion ONE / PRISM Edition」が導入された。Deep Learning技術を応用した画像再構成技術(Deep Learning Reconstruction:DLR)である“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”と“Precise IQ Engine(PIQE)”の臨床での評価を中心に、放射線診断学教室(放射線診断科)の宇都宮大輔主任教授、山城恒雄准教授、加藤真吾講師、放射線部の石川栄二技師長、泉 敏治CT担当診療放射線技師に取材した。
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“市民が心から頼れる病院”として高度医療を提供
同院は、「市民が心から頼れる病院」として、“高度でかつ安全な医療”の提供と“質の高い医療人の育成”を使命とし、各診療領域での高度先進かつ総合的な診療機能を持った病院として診療を行っている。横浜市立大学には、同院のほか横浜市南区に横浜市立大学附属市民総合医療センター(センター病院)があり、2つの病院は連携しつつも独立した組織として運営されている。附属病院の放射線診断科には24名(非常勤含む)の医師が所属し、そのうち放射線診断専門医が14名、放射線科専門医が2名となっている。放射線部には診療放射線技師は47名が在籍する。
CTは、Aquilion ONE / PRISM Editionのほか、80列と他社製64列CTの3台が稼働する。CTの検査件数は多い日で約180件を超え、件数は右肩上がりで増え続けている。今回の更新時に、CT室の操作卓に机の高さが変えられる昇降式の机を採用し、検査が集中する時間帯には立ったままでも検査がしやすいように工夫した。宇都宮主任教授はCTを中心とする放射線部の運用について、「大学病院としては病床数はコンパクトですが、精密検査を含めて検査件数が多く現場はハードワークしているのが現状です」と言う。Aquilion ONE / PRISM Edition導入後の検査の振り分けについてCT担当の泉技師は、「心臓や頭部CTAなど造影検査、また、被ばくへの配慮が必要な小児や若年者の検査はAquilion ONE / PRISM Editionで行っています」と説明する。
心臓や小児の低被ばく検査をターゲットにADCTを導入
Aquilion ONE / PRISM Editionは、面検出器によるボリュームスキャンや4D撮影、DLRによるノイズ除去や低被ばく撮影のほか、Dual Energy撮影技術である“Spectral Imaging System”が搭載されている。選定について宇都宮主任教授は、「最先端の診療を行う大学病院としてハイスペックのCTが求められました。循環器系疾患の撮影に必要な広範囲をカバーできるエリアディテクタと、Dual Energy機能の両方を可能とする総合力を評価しました。また、当院でのハードな使用にも耐える装置の信頼性も評価しました」と述べる。同院では小児の複雑心奇形など先天性疾患の手術件数も多く、心臓血管外科からも低被ばくで小児の循環動態を把握できる高画質が求められていた。石川技師長も、「広い範囲をカバーできる160mmのディテクタを持ち、心電図同期でDual Energyが可能な装置は限られていました」と選定の理由を説明する。
心臓の冠動脈や虚血評価,動態撮影に4Dスキャンを活用
循環器領域でのAquilion ONE / PRISM Editionの有用性について加藤講師は、「微細血管やステント内腔の評価の精度も向上しており、心臓カテーテル検査をスキップできる症例が増えるのではと期待しています」と述べる。同院ではセンター病院に導入されている「Aquilion ONE / GENESIS Edition」でCT perfusion(CTP)を用いた心筋評価を行っている。CTPについて加藤講師は、「Aquilion ONE / PRISM Editionでは、画質の向上でより精度の高い虚血評価が可能になることが期待されますので、今後は準備が整い次第、附属病院においてもCTPの実施について検討を進めていきたいと考えています」と説明する。2022年3月に安定冠動脈疾患に対するガイドライン(2022年JCSガイドラインフォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療)が改定され、冠動脈疾患に対する心臓CTの対象が広がり“CTファースト”になることで、CT検査の増加が予想される。加藤講師は、「虚血の評価が求められる中で、Aquilion ONE / PRISM Editionによってより的確な心筋性状の評価が可能になることが期待されます」と述べる。
山城准教授はAquilion ONE / PRISM Editionについて、「これまで呼吸器の4D-CTなど胸部や関節の動態撮影に取り組んできました。4DスキャンはADCTの特長の一つですので、循環器以外の領域での動態撮影にも積極的に取り組んでいきたいと考えています」と述べる。
■Aquilion ONE / PRISM Editionの冠動脈CT
Deep Learning技術を応用した画像再構成法の評価
〈AiCE〉
AiCEについては、現在、頭部を除く全領域でプロトコールに組み込んで撮影している。宇都宮主任教授はAiCEについて、「ノイズの低減による画質の向上と同時に、被ばくを低減した検査も期待でき、機種選定の際にも大きな評価のポイントになりました」と述べる。AiCEの適用で、80列CTのAIDR 3Dと比べて、20〜30%の線量低減が可能になっている。泉技師はAiCEの適用について、「線量を落とした撮影にもかかわらず、従来の画像と変わらない画質を提供できていると思います」と話す。実際に読影する山城准教授は、「従来の再構成法で処理したほかの2台のCTの画像と混在した状態で読影していますが、まったく違和感はありません」と述べる。
また、AiCE適用時の検査スループットについて泉技師は、「AiCEの再構成時間は従来CTとほぼ変わりませんが、装置全体の処理スピードが向上しているため、全体ではスループットは向上しています。精密検査などがAquilion ONE / PRISM Editionに集中し、さらにDual Energy撮影などもあってかなりのボリュームデータを処理していますが、ストレスなく検査ができています」と述べる。特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)下の検査では消毒業務などが加わり、検査を行う診療放射線技師の負担が大きくなっている。宇都宮主任教授は、「CTによるCOVID-19肺炎の診断など画像診断のウェイトが高まり検査数を押し上げたことに加え、検査後の消毒作業が重なり現場の業務負荷は飛躍的に大きくなりました。その中で装置の機能向上によって、負担を吸収できているのは大きなメリットです」と述べる。
〈PIQE〉
PIQEは、高精細CT「Aquilion Precision」で取得した画像などを教師データとしてトレーニングしたニューラルネットワークを、ADCTで撮影した画像に適用することで高画質化を図る再構成技術だ。同院では2022年5月にバージョンアップで導入された。宇都宮主任教授は、「初期経験の印象では、PIQEで再構成した冠動脈の画像はFIRSTやAiCEよりもさらに細かい構造まで描出されており、今後の臨床での可能性に期待しています」と述べる。現在、同院ではバイパス手術を施行した患者以外で、すべての症例でPIQEを適用している。
PIQEでは、画質の向上で3Dワークステーション(WS)での冠動脈解析時間の短縮も期待できる。泉技師は、「PIQEの画質はAiCEより一段上がったインパクトがあったのですが、実際に3DWSでの冠動脈内腔の自動抽出の精度が向上して、トータルの解析時間が短縮されていることを実感しています。現在、従来との比較検討を進めているところです」と言う。また、心臓CT検査での被ばく線量や造影剤量の低減について泉技師は、「PIQEによってSDが向上し、CT値も高くなっていますので、今後、低減は可能だと考えています」と述べる。
PIQEへの期待について山城准教授は、「これまでの経緯でAquilion Precisionの高精細画像はさまざまな領域で従来とは異なる診断価値を提供することを実感しています。PIQEはそのAquilion Precisionの画像を教師データとしてトレーニングされており、心臓のみならず、さまざまな臓器や器官で良質な画像が提供されることを期待しています」と語る。
PIQEやDual Energyの臨床応用を推進
宇都宮主任教授は、Aquilion ONE / PRISM Editionを利用した今後の診療の方向性について、「まだその実力を本当に使い切っているとは言えないので、今後、CTPやDual Energy、PIQEについて積極的に取り組んでいきたいと考えています。Dual Energyでは、大学病院として腫瘍関連の患者さんが多いので腫瘍病変に対する応用をさらに検討していきます」と述べる。
山城准教授はキヤノンメディカルシステムズへの期待として、「Aquilion PrecisionのようなF1マシンを作り続けてほしいです。それが、CTなど画像診断をさらに発展させることにつながると期待しています」と言う。
DLRの臨床応用がCTの可能性をさらに広げることが期待される。
(2022年6月2日取材)
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000
※AiCE、PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
横浜市立大学附属病院
神奈川県横浜市金沢区福浦3-9
TEL 045-787-2800
https://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/
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