Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2022年5月号

最新の80列を設置した“プレハブCT”を導入しCOVID-19の診療に活用 〜建屋外での運用による感染対策と80列CTでCOVID-19を早期に診断して治療方針を決定〜

三田尻病院

医療法人神徳会 三田尻病院

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が続く中、山口県防府市の三田尻病院では、キヤノンメディカルシステムズの「Aquilion Lightning / Helios i Edition」を採用した“プレハブCT”を導入し、2022年1月から運用を開始した。CTを病院の外に設置することで外来患者との導線を分けた運用が可能になり、0.5mm×80列の検出器と上位機種にも搭載されているX線光学系技術“PUREViSION Optics”などによる高速、高画質の撮影でCOVID-19の診断を行っている。同院でのプレハブCTの運用と評価を豊田秀二院長と濵渦恒俊技師長に取材した。

豊田秀二 院長

豊田秀二 院長

濵渦恒俊 技師長

濵渦恒俊 技師長

 

12床のコロナ病棟で第1波からCOVID-19診療を展開

三田尻病院は、1883(明治16)年に開業、1898年に現在地に移転したという長い歴史を持つ民間病院だ。現在は病床数128床(一般78、地域包括ケア50)、内科、小児科、外科、アレルギー科、皮膚科、泌尿器科、眼科、歯科など22診療科で地域医療を支えている。豊田院長は、「長い歴史がある病院ですが、一貫して地域に根差した医療を行ってきました。現在は、医療機関のみならず介護・福祉との連携が不可欠であり、地域包括ケアシステムの“ハブ”となるべく診療を展開しています」と述べる。
山口県ではCOVID-19の医療提供体制として、重点医療機関7施設(177床)、入院協力医療機関31施設(418床)の38機関595床を確保病床としている。同院は、入院協力医療機関として12床を確保して診療に当たっているが、その背景には防府市の医療提供体制の特殊な状況があると豊田院長は次のように話す。
「防府市には、重点医療機関である県立総合医療センターのほかに公的医療機関がありません。当院を含めて150床以下の中小の民間の医療法人が地域の医療を支えています。当院は病床規模や診療科目からいって地域で2番目の規模になります。COVID-19の診療は、公的病院と大病院から行うのが国の方針だったのですが、そのような背景から2020年の第1波の時に市の要請もあってコロナ病棟を開設しました」

COVID-19肺炎の早期診断のためプレハブCTを導入

同院では、COVID-19の感染疑い患者に対しては積極的にCT撮影を行ってきた。豊田院長は、「当院では、感染疑いや発熱などの症状が続く患者さんに対して、できるだけCT検査を行う方針で診療を行っています。それは、デルタ株の流行時に、ごく小さな肺の陰影が急速に悪化していく症例を数多く経験したからです。COVID-19の診療では、とにかく肺炎の徴候を早く見つけて診断することが重要であり、そのためには胸部X線画像ではなくCTによる診断が必要でした」と述べる。
当初、CT撮影は院内の80列「Aquilion Prime SP」で行っていた。コロナ病棟は5階にあるため、1階のCT室までの導線の確保や院内感染対策が必須となった。そのため、COVID-19関連の撮影は診療が終わった時間外に行われることになりスタッフの負担が大きく、撮影後には換気のため2時間CTが使用できないなど運用上の問題が発生していた。濵渦技師長は、「放射線科では2名をCOVID-19撮影担当として、感染対策のプロトコールを作成して対応しました。夜間や休日など時間外の対応が多く、また、救急当番日にはCOVID-19患者の撮影ができないなどの弊害が出ていました」と説明する。
山口県では、2020年11月から県立総合医療センターで仮設の建屋にCOVID-19専用のCTを設置して検査を行っていた。デルタ株が流行する中で県からの要請もあり、同院でもCT増設を検討することになった。豊田院長は、「建屋の外に設置するプレハブCTならば、導線や院内感染の問題をクリアできます。県内にはCOVID-19患者のCT撮影を行う施設が少なく、県立総合医療センターに集中している負担を軽減するためにも導入を決定しました」と説明する。

プレハブに80列CTを採用してCOVID-19肺炎を迅速に診断

プレハブCTは病院北側の駐車場6台分のスペースに設置され、CTには80列のAquilion Lightning / Helios i Editionを採用し、換気のための陰圧機構やHEPAフィルタなどを備えた。CT装置を含めて設計・施工をキヤノンメディカルシステムズが担当した。濵渦技師長はキヤノンメディカルシステムズを選定した理由について、「他社も含めて検討しましたが、16列ではなく80列の高性能のCTが設置できること、プレハブといっても外装や入り口の雨よけ、室内の空調などしっかりとした設計を提案いただいたことが選定のポイントになりました。また、短い準備期間で運用する必要があったことから、院内の既設CTで使い慣れた操作性も評価しました」と述べる。
プレハブCTの設置は、通常ならば病院の敷地内に新たな建築物を作ることになるため、基礎工事や建物との間を6m空ける必要が生じるなど建築基準法の制約が問題となる。これに関しては新型インフルエンザ等対策特別措置法によってクリアし、2022年1月から使用開始となった。

病院建屋の北側に駐車場6台分のスペースを使って設置

病院建屋の北側に駐車場6台分のスペースを使って設置

 

搬送の連絡を受けプレハブCT建屋前で患者を待ち受け

搬送の連絡を受けプレハブCT建屋前で患者を待ち受け

 

80列のAquilion Lightning /Helios i Editionを導入

80列のAquilion Lightning /Helios i Editionを導入

 

感染対策を施して技師1名で検査を実施

感染対策を施して技師1名で検査を実施

 

プレハブCTに直接搬送し撮影から画像診断まで実施

プレハブCTでの撮影は、コロナ病棟への入院前や保健所からの依頼で入院やホテル療養に移行する前、ホテル療養からの搬送、休日の急患でCOVID-19が強く疑われる場合などに行っている。検査のフローは、保健所からの依頼では、コロナ病棟の看護部長に連絡が入ると、コロナ対応担当者(医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師、医事課)を登録した“LINE Works”に書き込み、関係者が来院状況を把握し受け入れの準備を行う。撮影担当者はプレハブCT前で待機して、来院した患者の問診や基本情報を登録して検査を行う。担当技師は一次読影を行った上で、担当医(院長)に連絡する。同院では、プレハブCTの開設と同時にPACSの画像をリモートで参照できる“画像参照システム”を構築しており、院長が院内に不在の場合でもオンラインで画像を参照して指示を行える体制を整えている。
プレハブCT稼働後、月間のCT検査数は460件(院内含む)で、COVID-19患者撮影以前と比べて20%以上増加している。撮影体制については、当初の2名から現在は全員(5名)がCOVID-19患者の撮影ができるようにしている。濵渦技師長は、「プレハブCTの運用では、院内の通常の画像検査を止めないことをめざしました。スタッフの協力もあってなんとかクリアしています。プレハブCTの稼働は、院内の多職種連携を加速させたと感じています。手探りでのスタートでしたが、さまざまなツールを活用しながら、スタッフが各自の役割を把握して動く体制が自然とできあがっていきました」と述べる。
80列でのCOVID-19の撮影について濵渦技師長は、「高速撮影と高画質によって、体動を抑えることが難しい患者さんでも撮影でき、肺炎の淡い陰影もとらえることが可能です。COVID-19撮影の場合は、患者さんに容易に触れることができないので、体動があっても撮影できるスピードや78cmの広い開口径でポジショニングの自由度が高いことは大きなメリットでした。また、COVID-19の撮影は技師1名で担当することがほとんどですので、画像再構成が速いことも助かっています。複数の患者さんの撮影が重なっても待たせることはないですし、撮影後もすぐに画像が確認できスループットが上がっています」と述べる。
豊田院長は、オミクロン株流行後のCT撮影について、「肺炎になる患者が減ったからCTは必要ないという意見もありますが、実際にCTを撮影してみると若年層での肺炎が早期に見つかります。早期に肺炎がわかることで治療方針が決まるので根拠となる情報が得られるCTは必要です。これは撮ってみないとわからないことで、やはり必要な患者さんに適切なタイミングでCT検査ができる体制があってこそだと思います」と述べる。
Deep Learning技術を応用した画像再構成技術“Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)”については、「施設内のCTには非搭載のため、スペックの異なる装置間の画質調整がまだできておらずルーチン使用には至っていませんが、AiCE-iを用いることで肺野のノイズが非常に低減されるので、今後適用を拡大してさらなる被ばく低減を進めていく予定です」(濵渦技師長)とのことだ。

■Aquilion Lightning / Helios i EditionによるCOVID-19肺炎画像

Aquilion Lightning / Helios i EditionによるCOVID-19肺炎画像

AiCE-iを用いることで肺野内のノイズを大幅に低減。COVID-19初期の画像所見である淡い陰影()が明瞭に確認できる。

 

アフターコロナの“ハブ”となるプレハブCT

豊田院長は、「プレハブCTは、今後、COVID-19の診療を行う医療機関には必須の設備になるでしょう。それは、感染初期の段階でCTで肺炎の徴候を見つけることが治療の近道だと考えるからです。まして、今後COVID-19が日常的な診療になっていくとすると、通常の診療を継続するためにも、病院の外にCTを設置して検査が可能な体制を構築することが最適解につながると言えるでしょう」と言う。濵渦技師長も、「COVID-19のみならず、新興感染症は今後も発生することが予想されますので、院内の通常業務に支障を来さないように運用できるプレハブCTは必要だと思います」と述べる。
これからについて豊田院長は、「今回、プレハブCTの運用ができたことで、医療機関だけでなく県庁や保健所、地域の介護施設などいろいろな人がつながりました。アフターコロナに何が残せるかと考えた時に、時限的で建屋がなくなってしまったとしても、プレハブCTが“ハブ”となってつないだ人の“和”が残っていれば成功だったと思っています」と述べる。
コロナ禍でのプレハブCTの運用の成果が、今後のCOVID-19の診療に生かされるに違いない。

(2022年3月16日取材)

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Lightning TSX-036A
認証番号:228ABBZX00118000

※AiCE-iは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

 

医療法人神徳会 三田尻病院

医療法人神徳会 三田尻病院
山口県防府市お茶屋町3-27
TEL 0835-22-1110
http://mitajiri.net/

 

  モダリティEXPO

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP