Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2021年1月号
胸部集検用X線撮影装置SREX
CXDIと高出力X線発生装置で県民の健康保持に貢献 〜検診車のデジタル化で再撮影減少と業務効率化を実現〜
公益財団法人栃木県保健衛生事業団
栃木県内の健診・検査事業を担う公益財団法人栃木県保健衛生事業団は,撮影装置のデジタル化に着手した2006年以降,保有する胸部検診車に順次,デジタルラジオグラフィ「CXDIシリーズ」(キヤノン社製)を導入,2017年にすべてのデジタル化を完了した。検診車のうち4台には,胸部集検用X線撮影装置「SREX-A32B」(キヤノンメディカルシステムズ社製)を搭載し,地域健診や職域健診,学校健診などに活用している。健診業務のデジタル化に伴うメリットや今後の期待について,同事業団放射線課の増田英夫課長と堀江 聡係長,善谷昌弘係長に取材した。
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約30台の検診車で県内の健診業務を担う
宇都宮市に位置する栃木県保健衛生事業団は,1976年に財団法人結核予防会,財団法人栃木県予防医学協会,財団法人栃木県対がん協会の3団体が解散,統合して設立された。以来,結核予防法や老人保健法,労働安全衛生法に基づく各種の集団健診や検査を実施し,1986年からは日帰り人間ドックも行っている。また,食品検査や水質検査などの環境検査事業も手がけており,栃木県民の健康保持増進への貢献を目的に活動している。
放射線課には診療放射線技師が28人在籍し,正職員や嘱託の医師とともに,健診業務を行っている。マンモグラフィは基本的に女性技師が担当するが,それ以外はローテーションを組み,すべての技師が全撮影項目を担当する。
同事業団では,10台の胸部検診車のほか,胃部検診車10台,胃胸部検診車1台,マンモグラフィ検診車5台,子宮がん検診車3台を保有。施設内には,人間ドック用の胃部X線撮影装置や胸部X線撮影装置,CTやマンモグラフィなどを備えている。
通常,胸部や胃部検診車は,予備車を1,2台残してすべて稼働し,特に学校健診が行われる4〜6月は,予備車も含め全車両が稼働する。年間の胸部画像撮影数は,職域健診が約7万枚(うち,結核検診が約6万6000枚),地域健診が約8万枚,学校健診が約1万7000枚に上る。結核検診などでは2週間以内,総合健診では通常1か月以内に結果を送付するという。
CXDI導入により再撮影が大幅に減少
同事業団では,時代の変遷をいち早くとらえ,2006年に胃胸部検診車をデジタル化したのを皮切りに,積極的にデジタル化を推進。2017年に完全にデジタルに移行している。すべての胸部検診車および胃胸部検診車には,デジタル化開始当時,唯一の車載対応FPDであったデジタルラジオグラフィCXDIシリーズを搭載。初期に導入した2台はスタンダードタイプの「CXDI-401G COMPACT」,残りの9台には高感度・低線量タイプの「CXDI-401C COMPACT」を導入している。
CXDIシリーズは駆動部分がないため,振動下でも安定した性能を保持する。また,耐環境性に優れ,導入後のCXDI本体は一度だけ故障があったのみで,健診業務に必要な高い信頼性を実現していると評価も高い。
CXDIによるデジタル化によるメリットとして,増田課長はまず再撮影の激減を挙げる。「アナログ撮影では,Tシャツのプリントや下着の写り込み,現像時のトラブルなどで年間10件ほどの再撮影が生じていました。中には,自動現像機のトラブルでロールフィルムが絡まってしまい,一度に数十件もの再撮影が必要になるケースもありました。しかし,デジタルは撮影直後に画像を確認できるため,現在は再撮影は年間に1件あるかないかまで減らすことができ,顧客サービスの向上に貢献しています」と話す。
業務効率の大幅な改善と低被ばく化にも貢献
また,業務効率の向上に与えた影響も大きいという。「学校健診では,1台の胸部検診車で1日に約700人,1人あたり30~40秒と短時間での撮影となりますが,スループットにまったく問題はありません。また,施設に戻った後のデータ処理などにかかる時間が大幅に短縮され,業務効率が向上し,勤務超過時間が大幅に減少しました」と,増田課長はデジタル化のメリットを運用面でも評価している。
さらに,X線を用いた健診で受診者が特に懸念するのが被ばくによる影響だが,同事業団は,全国労働衛生団体連合会が実施する精度管理調査の審査で総合評価Aを得ており,ガラスバッジ法による測定値は0.071mGyと,被ばく線量は抑えられている。特に,シンチレータにヨウ化セシウムを使用する401Cは,より低線量で撮影できる。「健診は健常者が対象で,特に結核検診などは高校生も被ばくリスクがあります。ですから,できるだけ低線量で精度の高い撮影ができるよう,環境を整えていきたいと考えています」と増田課長は語る。
シンプルで健診にも使いやすいコントロールソフトウエア
また,CXDIのコントロールソフトウエア“CXDI Control Software NE”はシンプルなユーザーインターフェイスで,操作性が高いと評価している。わかりやすい日本語表示のタッチパネルで,さまざまな機能を搭載。切り出し機能では,あらかじめ切り出しサイズを設定し,プロトコールにプリセットできるほか,プレビュー画面でトリミングサイズの位置を調整する機能もある。
「実は以前,CXDIのコンソール開発に当たり,当事業団からも意見を寄せたことがあります。それらも考慮していただいた結果,健診でも使いやすい仕様になっていると思います」(堀江係長)
さらに,じん肺健康診断の画像処理条件をあらかじめ設定しておき,通常条件と同時に処理することも可能だ。善谷係長は,「人間ドックなどは施設内で行うため,後から処理を行っても特に問題はありません。しかし,健診の場合は検診車内で画像処理を行った後,USBメモリで施設内にデータを移動させるため,処理を忘れてしまうと,再度検診車に戻り処理を行う必要があります。その点,通常条件とじん肺条件を同時に処理できるのは非常に効率的です」と,健診ならではのメリットとして挙げる。
高出力による短時間撮影で高齢者でも安定した画像を取得
X線発生装置は,11台中4台がキヤノンメディカルシステムズのSREX-A32Bを採用している。SREXのメリットについて,増田課長はこう話す。
「当事業団は公益財団法人であり,購入する装置は入札で決定します。ですが,現場で使用した感想として,管電流が高く設定でき,短時間撮影が可能なSREXは大変有用だと感じています。特に,老人保健施設や養護施設などでは,体動を止めるのが難しい方もいらっしゃいます。そのような場合も,短時間で撮影ができれば,安定した画像を得ることができます」
また,検診車はスペースの制約上,装置の小型化が求められるが,現在は無理なく配置できているという。さらに,CXDIとの同搭載車では,メーカーの窓口が一本化され,対応がスムーズになるという利点もある。
■CXDIによる臨床画像
より正確な健診の実現をめざしAI開発にも期待
デジタル化により,再撮影が減少し検査効率も向上したが,より正確な健診を求める思いは尽きない。善谷係長は,「まれに,貼り付けタイプのホッカイロなどが縦隔部に重なり,プレビュー画像では判別しづらいことがあります。車載モニタという制約はありますが,より高画質なモニタが開発されればいいと思います」と話す。
さらに,人工知能(AI)の実用化にも期待が寄せられる。堀江係長は,次のように述べる。「現状も撮影前の確認はしていますが,Tシャツのわずかなプリントやビーズなどを検出可能な,AIを用いたソフトウエアがあればいいですね。読影には支障がない場合が多いですが,比較読影なども行うため,より正確性を求めていきたいと考えています」
機器メーカーと協力しつつ,より安心・安全かつ確実な健診を通じて,今後も県民の健康保持に貢献していく。
(2020年11月16日取材)
公益財団法人
栃木県保健衛生事業団
栃木県宇都宮市駒生町3337-1
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