Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2020年12月号

地域の最前線で質の高い医療を支える高精細CT 〜四肢、血管系からがんの広がり診断まで幅広い疾患に高精細画像を活用〜

埼玉県済生会川口総合病院

Aquilion Precision × 埼玉県済生会川口総合病院

 

埼玉県済生会川口総合病院(佐藤雅彦病院長、病床数424床)は、埼玉県南部の川口市および隣接する戸田市、蕨市を含めた人口80万人の予防から高度医療までを担う急性期型の中核病院である。25診療科を標榜し、年間の手術件数4800件、救急車搬送台数は5000台を超える。同院に、2019年12月、キヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」が、3台目の診断用CTとして導入された。総合病院として幅広い診療をカバーする同院での高精細CTの運用の現況について、放射線科の西村竜子主任部長、放射線技術科の富田博信科長と鈴木友理CT担当技師に取材した。

放射線科・西村竜子 主任部長

放射線科・
西村竜子 主任部長

放射線技術科・富田博信 科長

放射線技術科・
富田博信 科長

鈴木友理 技師

鈴木友理 技師

 

予防から救急医療まで急性期病院として質の高い医療

同院は、災害拠点病院、地域医療支援病院などの認定を受け、また、健診センターを併設し各種健康診断や人間ドックも提供するなど幅広い診療を提供している。放射線診療については、CT、MRIのほかPET/CTやRI装置、放射線治療装置などが稼働し、常勤4名の放射線診断専門医と放射線技術科の診療放射線技師33名のスタッフなどで、画像診断管理加算2に対応する体制を敷いている。西村主任部長は診療の現況について、「総合病院として、がん診療から最近の新型コロナウイルス感染症まで、臨床の最前線のさまざまな疾患に対応しています。放射線科では、診断の質を落とさないことを基本方針として、忙しくても質の高い検査や読影レポートを提供できるように心掛けています」と述べる。

高いレベルで幅広い疾患に対応できる高精細CTを選定

Aquilion Precisionは、世界初の高精細CTとして2017年4月に発売された。0.25mmスライス厚の超高精細検出器を搭載し、極小焦点のX線管や高精度な撮影寝台を組み合わせて高精細な画像の取得を可能にした。
同院では、診断用のCTとして2管球CT、2層検出器型CTが稼働しており、今回のAquilion Precisionは増設として導入されたが、その経緯を富田科長は次のように述べる。
「CTの検査件数が、多い時には1日120件を超えるようになり、CT2台でもフル稼働の状況で業務負荷が大きくなっていました。放射線科では、高スペックの装置を導入して質の高い画像診断を提供する方針であり、既設のCTは各メーカーのフラッグシップ機が導入されていました。総合病院として、全身のあらゆる疾患に対応できることが望ましいことから、既設の装置にはない特徴としてAquilion Precisionの高分解能とAI技術を用いた画像再構成技術“AiCE”の搭載を評価して選定に至りました」
西村主任部長はAquilion Precisionについて、「高精細画像による画質の向上に期待しました。現在は、がんの手術や化学療法でも画像診断の役割が大きくなっています。浸潤の程度や範囲によって治療方針が変わることもありますので、臨床科からの要求レベルも高くなっています。また、当院には、脊椎と手の外科の専門医が多数在籍することから、整形外科領域での高精細画像にも期待しました」と述べる。

高精細画像によるがんの評価で治療方針が変化

同院のCT検査は、新型コロナウイルス感染症の影響で減少していたが、少しずつ回復しつつあり、2020年11月現在、CT検査は3台で1日約100件、Aquilion Precisionでは約30件の検査を行っている。CT検査を担当する鈴木技師は、「Aquilion Precisionの高精細画像を生かせる撮影として、整形外科領域の四肢や側頭骨、3D-CTAなどが挙げられます」と述べる。富田科長は、「基本的にルーチン検査は、3台で均等に割り振っていますが、がんの初診のスクリーニングは、浸潤の範囲や造影効果がクリアな画像で確認できることからAquilion Precisionで撮影するようにしています」と述べる。
西村主任部長は、腹部領域の画像について、「Aquilion Precisionでは、解像度が向上したことで、腫瘍の浸潤範囲やリンパ節転移が従来に比べ正確に診断できるようになりました。膵臓がんでは、周辺臓器への腫瘍の浸潤度で治療方法が変わりますが、Aquilion Precisionで得られた画像により、手術適応の判断が変わることを経験しています。また、直腸がんでは、側方リンパ節への転移の有無によって術式が変わることから、術前に転移や浸潤の度合いが判断できれば、手術時間の短縮など患者さんの負担軽減にもつながります」と評価する。また、整形領域や血管系の画像については、「四肢の骨領域では、高精細画像で骨折線などの細かい部分まで確認できます。また、血管系の3D再構成画像は術前診断などで依頼が増えていますが、末梢の細い血管まで描出できるようになっており、診断のみの血管撮影(DSA)が必要ない質の高い画像が得られています」(西村主任部長)と話す。

AiCEを適用して低被ばくかつ高画質の撮影プロトコールを作成

Aquilion Precisionでは、スキャンモードとして、通常(NR、0.5mm×896ch)、高精細(HR、0.5mm×1792ch)、超高精細(SHR、0.25mm×1792ch)が選択できる。同院では、頭部、脊椎はNRモードで、それ以外のルーチン検査の体幹部などはHRモードで撮影し、四肢系、側頭骨、3D-CTA、心臓CTではSHRモードを使用している。また、AiCEは、HRモード、SHRモードでの撮影には全例で適用している。鈴木技師は撮影プロトコールについて、「物理特性の測定結果をもとに画質とのバランスを考えつつ、できるだけ被ばく線量を低減できるように作成しました。AiCEでは、ある程度体格のよい患者さんでも、ノイズが低減された画像が得られています。従来のFIRSTに比べて再構成時間も短く、再構成から画像転送までを通常の検査業務の中で滞りなく使用できます」と説明する。富田科長は、「造影検査では100kVpで撮影してAiCEを適用することで、ノイズ低減と脂肪織とのコントラストの向上で、浸潤などの評価がしやすくなっていると思います」と述べる。
Aquilion Precisionでは、寝台が左右85mmの横移動が可能になっている(オプション機能として提供)。鈴木技師は、「四肢の撮影では、寝台のスライドだけで撮影部位をセンターに合わせられるので、患者さんの負担も少なく画質も向上させることができます」と評価する。
また、Aquilion Precisionの高精細画像によって、頭頸部や腰椎の血管撮影の際に、単純画像とのサブトラクション処理を行わずに、造影画像のみで骨抜きが可能になっている。富田科長は、「高精細CTでは、分解能の向上によって骨と血管が分離したデータが得られるため、サブトラクション処理をせずに精度の良い骨除去が可能です。WSへの転送やサブトラクションのための単純撮影をスキップできるので、検査のワークフローが向上しています。特に救急などスピードが求められる場面では時間短縮のメリットは大きいですね」と話す。
画像については、512マトリックスを基本として必要に応じて1024マトリックスで再構成している。読影環境については、高精細画像用のPACSやワークステーション(WS)ではなく既存のシステムを使用している。富田科長は、「高精細対応ではない通常のビューワとWSで問題なく1024マトリックス画像も運用できています。画質についても、同じ512マトリックスの画像でも元のデータの精度が高いのでより細かく観察できます」と説明する。

■Aquilion Precisionによる臨床画像

図1 頭頸部の3D-CTA(50歳代、男性、体重100kg)

図1 頭頸部の3D-CTA(50歳代、男性、体重100kg)
超高精細(SHR)モードで撮影することで、骨と血管が分離され、サブトラクション処理を行わなくても精度良く骨を除去した3D画像が得られる(A上段左)。MIP画像では石灰化は残存し(A下段左)、元画像を見ても石灰化が明瞭に描出されている(B)。頭蓋骨と内頸動脈の分離が明瞭に確認できる()。

 

図2 膵体尾部がん(60歳代、男性、体重60kg)

図2 膵体尾部がん(60歳代、男性、体重60kg)
HRモードを使用することで高分解能画像が得られている。また、AiCEによってConventional CTに比べノイズ低減と脂肪織とのコントラストが向上している(左)。これによって脂肪織がクリアになり、浸潤評価がしやすくなった。

 

図3 脛骨近位端骨折(40歳代、男性)

図3 脛骨近位端骨折(40歳代、男性)
SHRモードで撮影することで、脛骨の細かい骨折線が3D画像においても明瞭に確認できた()。

 

高精細CTでの検査・診断のこれから

高精細画像によって、読影や検査に新たな知見が蓄積されることが期待される。西村主任部長は、「画質の向上が診断や治療方針にどのような変化をもたらすのか、診療科からのフィードバックを受けながら検討を進めていきたいと思います」と述べる。
また、AiCEについて富田科長は、「鈴木技師を中心にAiCEの物理特性の評価を進めているところです。線量の低減と画質の関係については、まだまだ検討が必要ですが、AiCEは逐次近似画像再構成よりもノイズ低減効果が高い印象で、まだ線量を下げる余地があると感じています」と言う。
日常診療の中で、さらに高精細画像が生かされることが期待される。

(2020年11月4日取材)

社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会川口総合病院

社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会川口総合病院
埼玉県川口市西川口5-11-5
TEL 048-253-1551

 

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