Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2018年10月号
気仙医療圏の回復期医療を担う新病院で高性能・コンパクトな16列CTが稼働 〜ワイド・ボアやSEMARなどで復興中の被災地で住民の健康増進に貢献〜
岩手県立高田病院
岩手県陸前高田市の岩手県立高田病院は、同市の唯一の一般病院として地域医療を展開してきた。しかし、2011年3月11日の東日本大震災で発生した津波によって壊滅的な被害を受け、病院機能が停止。その後、仮設病院で診療を続けてきたが、2018年3月に新病院が完成し新たなスタートを切った。新病院は、岩手県の地域医療構想の中で気仙医療圏(大船渡市、陸前高田市、住田町)での回復期医療を提供する役割も担う。同院に導入されたキヤノンメディカルシステムズの16列CT「Aquilion Lightning」の運用を含めて、新病院の役割を田畑 潔院長と放射線科の後藤達哉技師長、千葉虹希技師に取材した。
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震災被害から仮設病院を経て新病院がオープン
海岸線から1.5kmにあった旧高田病院は、2011年3月11日の東日本大震災で津波の被害を受け、病院機能が停止した。同院は、避難先の米崎コミュニティセンターで翌々日から医療救護活動を開始。同年7月には仮設施設で外来診療をスタート、2012年2月には仮設病棟での入院が再開され、日本で唯一の“仮設病院”として運営されてきた。新病院は、陸前高田市が新たに造成した高台地区に建設され、2018年3月に開院した。地上2階建て、耐震性に優れた鉄筋コンクリート造で、震災の経験を生かし3日間稼働可能な自家発電装置や7日分の給水タンク、太陽光発電装置などを装備している。
田畑院長は、“仮設”から“本設”となった高田病院について、「仮設での診療が長く続きましたが、病院の再建は住民にとっても、われわれにとっても悲願でした。この地域の唯一の一般病院として、地域の方々が安心して暮らせるように医療を提供することが当院の役割です」と述べる。
同時に、同院は気仙医療圏の回復期病院としての役割も担っている。同医療圏は、震災前の8万人から6万2000人まで人口が減少。広域を限られた医療資源でカバーするため、医療圏の中で病院の機能分化を図り、岩手県立大船渡病院(大船渡市、489床)が急性期医療を、高田病院は地域の施設や在宅復帰のための医療を提供する回復期病院と位置づけられた。田畑院長は気仙医療圏での病院の役割について、「今後、ますます少子高齢化が進むことが予測される中で、地域の医療を効率良く支えるためには病院ごとの機能を分け役割を分担することが必要です。当院は医療圏の中では回復期がメインとなりますが、市の中では唯一の一般病院でもあり、急性期にも対応できる体制を整えて診療を行っています」と説明する。
地域と同時に気仙医療圏の回復期医療を担う
診療科は8科だが、診療体制としては“総合診療内科”と“総合診療外科”を設けて、広くさまざまな疾患に対応している。そのほか、小児科と整形外科は常勤医師による診療を行っており、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科は非常勤医師が対応する。常勤医師は
6名で、東北大学などからの研修医を受け入れている。外来は1日平均150人。田畑院長は、「震災で地域の医療体制はほぼ壊滅状態になりました。開業医の先生方も多くが被災され、市内では2施設しか残りませんでした。高田病院がほとんど唯一の医療機関となったことから、一時は1日約250人の外来患者数がありました。今は診療所の数も戻りつつあり、連携を取りながら診療できる体制になっています」と説明する。
病床数は60床で、入院は、通常の入院と、急性期病院や介護施設などからの転院や開業医からの紹介が半々となっている。田畑院長は入院の状況について、「震災前の病院は70床でした。県の被災病院の再建計画では被災前と同規模で再建するという方針があり、60床となりました。もともと地域の介護施設や福祉施設とは良好な関係にあり、当院の社会福祉士など退院支援にかかわるスタッフの努力もあって、スムーズな病床運用ができています」と述べる。
回復期の画像診断を担うAquilion Lightning
仮設病院では他社製16列CTが稼働していたが、新病院の建設に当たって新たに選定を行い、Aquilion Lightningにリプレイスされた。後藤技師長はAquilion Lightningの導入について、「回復期の病院であり、高齢者が中心で移動が不自由だったり、身体の自由がきかない患者さんの撮影が多くなります。それだけに、スピードや画質に加え、検査環境を含めてトータルに評価して導入しました」と述べる。
同院での画像診断について田畑院長は、「回復期中心の診療の中で、CTに求めることは撮影や処理が速く、わかりやすい画像が得られることです。地域の高齢化が進んでおり、心身の活動能力が低下したフレイル状態の住民が多くなっています。いわば前病状態のフレイルでは、病気になりやすく、また同じような疾患で繰り返し受診される患者さんがほとんどです。例えば、誤嚥性肺炎の診断や腎盂腎炎の感染巣の検索などがそうですが、単純写真ではわからなくてもCTならば一目で診断が可能です。3Dなどのわかりやすい画像が重要で、専門医でなくとも診断できる画像が求められます」と述べる。
同院では、ボリュームデータもPACSに転送しており、依頼医がMPRで直接診断できるようになっている。
■Aquilion Lightningによる臨床画像
ワイド・ボアやSEMAR、APMCで高齢者に優しい検査を提供
Aquilion Lightningは、小型化と高画質を追究した16列CTで、コンパクトなガントリで78cmのワイド・ボアを実現し、最新検出器“PUREViSION Detector”など上位機種の技術を搭載し高性能化を図っているのが特長だ。後藤技師長はAquilion Lightningについて、「高齢者の撮影が多い当院では、撮影時に挙上が難しく肘がガントリに当たってしまうことがありました。Aquilion Lightningでは、開口径が広くなり余裕を持って検査が可能です。また、寝台を床から31cmまで下げることができ、幅も広くなったことから患者さんにも安心して検査を受けていただけます」と評価する。
Aquilion Lightningでは、被ばく低減技術の“AIDR 3D Enhanced”や金属アーチファクト除去技術である“SEMAR”も標準で搭載されている。後藤技師長は、「AIDR 3D Enhancedで、被ばくを抑えた検査が可能です。慢性疾患で検査を繰り返す患者さんも多いので、患者さんに優しい検査が可能です」と述べる。千葉技師はAquilion Lightningでの検査について、「日本語表示で、基本的に使いやすい操作環境でストレスなく検査が行えます。SEMARについては、大船渡病院でインプラントの手術を行って、当院にリハビリで転院される患者さんもいますので、金属アーチファクトを除いた撮影ができるメリットは大きいですね」と評価する。また、Aquilion Lightningでは頭部などの体動補正技術である“Advanced Patient Motion Correction(APMC)”も使用できる。千葉技師は、「高齢の患者さんで意識がなかったり、麻痺があって静止が難しいケースもあり、APMCの効果を実感しています」と述べる。
また、Aquilion Lightningではガントリのチルトによって、水晶体の被ばくを避けたヘリカルスキャンや義歯のアーチファクトを抑えたスキャンが可能になっている。後藤技師長は、「仮設の時のCTはチルトができなかったので、より高度な検査が可能になりました」と評価する。
介護、福祉と連携して新たな地域づくりを展開
気仙医療圏では、医療・介護・保健福祉の施設を結ぶ地域医療ネットワーク「未来かなえネット」(運営:未来かなえ機構)が2016年から運用され、2018年8月現在で登録者数が1万人を超えた。未来かなえネットでは画像情報も共有されており、田畑院長は「CTなどの画像情報を参照しながら診療できる体制が整っており、画像情報は地域連携の中でも重要な役割を担っています」と述べる。
復興が進む陸前高田市では、同院に隣接して市の総合福祉センターなども建設中だ。田畑院長は病院のこれからについて、「陸前高田市の復興はまだまだ道半ばです。新病院がスタートするに当たって、病院の基本理念を見直し、『安心して暮らせる地域づくりのために信頼される医療を提供する』としました。復興というよりは、新たな町をつくるのだという思いを強く意識しています。その時にこの病院が“地域づくり”に少しでも貢献できるように体制を整えていきたいですね」と述べた。
■震災後の岩手県立高田病院の歩み
2011年3月11日 東日本大震災発生
3月13日 避難先の米崎コミュニティセンターで医療救護活動を開始
7月25日 仮設診療施設での外来診療を開始
2012年2月 仮設診療施設で入院が再開
2018年3月 新病院開設
(2018年9月4日取材)
岩手県立高田病院
岩手県陸前高田市高田町字太田56
TEL 0192-54-3221
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