Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2018年9月号
診断から超音波ガイド下治療へ、次世代の整形外科診療を高画質・高機能でサポートするAplio i-series 〜超音波ガイド下の“ハイドロリリース”による疼痛治療など運動器領域での超音波診療の先進的な取り組み
単純X線画像が中心だった整形外科領域で、超音波診断装置を活用した診療が広がりを見せている。超音波診断装置でベッドサイドでの診断や超音波ガイド下での手技を行うもので、なかでも超音波ガイド下で患部に生理食塩水を注射し痛みを軽減する「ハイドロリリース」と呼ばれる治療法が注目を集めている。超音波診断装置の高画質化が可能にした新たな手技に積極的に取り組む、横浜市立大学大学院医学研究科運動器病態学教室の宮武和馬医師に、整形外科領域での超音波診断装置の活用とキヤノンメディカルシステムズの「Aplio i-series」の可能性を取材した。
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超音波ガイド下の手技をベースに難治性疼痛に挑む
宮武医師は、現在、横浜市立大学附属病院での週1回の難治性疼痛・スポーツ外来のほか、相模原協同病院(神奈川県相模原市)など外勤先で、超音波診断装置を積極的に活用した診療を行っている。
難治性疼痛・スポーツ外来(2017年4月開設)は、通常の手術や処置では痛みが取れない疾患を対象にする。宮武医師は、「診断がつかなかったり、原因は明らかだが治療法がない痛み、あるいは手術しても取れない痛みなどの患者さんを中心に診ています」と説明する。外来では、超音波診断装置を用いてその場で検査を行うと同時に、神経ブロックやハイドロリリースといった超音波ガイド下での注射による手技が全体の6〜7割を占める。宮武医師は、「外来ではほぼ100%超音波診断装置を使って診療を行っています。超音波では、外来ですぐに診断でき、患者さんの痛みに対応できるのが大きなメリットです」と説明する。
超音波によって診断から治療へ迅速で的確な対応が可能
整形外科領域の画像診断は単純X線画像が中心だったが、特に運動器領域で超音波診断装置を使った診療が広がっている理由について宮武医師は、「単純X線画像でわかるのは、骨や関節の変形など一部の疾患に限られます。X線だけでは診断がつかないため、いわゆる“五十肩”のように、適切な治療がされず患者さんの痛みが放置されQOLが低下しているのはよくあるケースです。超音波診断装置では、骨や筋肉、靭帯や神経、血管など全体を観察できます。もちろんMRIでは軟部組織の診断が可能ですが、予約待ちや検査時間の長さ、医療費の高さなどがネックです。超音波診断装置の利点は、その場ですぐに画像が得られることです。プローブを当てれば腱板が切れているのか、炎症か、石灰沈着かなどすぐにわかります。五十肩というあいまいな診断をすることがほとんどなくなりました」と述べる。
さらに、宮武医師は超音波は治療に活用できることが大きな利点だと言う。
「外来でプローブを当てて画像で問題がわかれば、その場ですぐに治療を行えます。目の前の患者さんが訴えている痛みに対して、病態を把握した的確なアプローチが可能です。その意味で、超音波“診断”装置は、注射や手術といった治療のためのツールとなっており、超音波“診療”装置という次のステージに来ていると言えます」
超音波ガイド下注射で痛みを治療するハイドロリリース
超音波をガイドに使うことで、体内の状態を確認しながら手技ができる。ブラインド(触診)注射と超音波ガイド下注射を比較したスタディでは、超音波を使った研修医の方が熟練医師より成功率が高かったという結果が出ているという。宮武医師は、「超音波ガイドであれば、例えば腱板と滑液包などを画像で確認しながら針先を進められます。さらに、石灰沈着がある症例では生理食塩水のパンピングでバックフローによって石灰を摘出することも可能で、病態によってその場で治療が可能です」と述べる。
この超音波ガイド下の手技を応用し、痛みに対して神経周囲の結合組織という微細な領域をターゲットに治療を行うのがハイドロリリースである。城東整形外科(秋田県)の皆川洋至氏が定義した治療法であり、超音波ガイド下に生理食塩水を注射し結合組織を液性剝離すること(リリース)で痛みを軽減する。対象となる疾患は、肩こりや尺骨神経痛、腰痛、大後頭神経を原因とする頭痛など多岐にわたる。宮武医師はこのハイドロリリースに積極的に取り組んできたトップランナーの1人でもある。「超音波を活用することで診断から治療、フォローアップまで可能で、目の前の患者さんの痛みに対してその場で対応できる画期的な手法です」(宮武医師)。
高い空間分解能と時間分解能で表層やガイド下手術に貢献
キヤノンメディカルシステムズのAplio i-seriesは、“iBeam Forming”などの技術によって基本画像から高画質化を図り、超高周波プローブや豊富なアプリケーションなどと併せて、整形外科領域の診療をサポートするプレミアムハイエンドの超音波装置である。宮武医師はAplio i-seriesについて、「基本的な部分で高画質になっていますが、特に表層から2cm程度の浅い領域の空間分解能が高く、肩や手足関節など浅層の組織の描出が必要とされる運動器の診療では威力を発揮します(図1)。ハイドロリリースの際にも細かい末梢神経を見極めて手技が可能です」と述べる。さらに、Aplio i-seriesでは時間分解能が高く、宮武医師は「動的な診断や超音波ガイド下の手技が中心となる運動器の診療において、より正確な手技が可能になります」と評価する。
また、キヤノンメディカルシステムズの独自技術である“SMI(Superb Micro-vascular Imaging)”は、モーションアーチファクトを血流信号と区別することで除去し、血流信号のみを描出することができる。これによって低流速で微細な血流の描出が可能になった(図2)。運動器領域でのSMIについて宮武医師は、「これまで見えなかった細かくて遅い血流が描出できるようになりました。従来はブルーミングによって全体が不鮮明で、細かい血流は観察できなかったのですが、SMIでは細かい血管の流れや分岐の方向なども確認できます。現状では、血流が何を表しているか、不明な部分が多いのですが、血流があるとわかることが重要です。病態が把握できれば、今後の治療に生かすことができます」と期待する。
MR画像をリファレンスにしたSmart Fusionの活用(図3)
Aplio i-seriesのSmart Fusionは、CT/MRIとのフュージョンを可能にする機能である。MRIの画像を装置本体に取り込み、位置合わせすることで、MRIの断面と超音波画像をリアルタイムで連動して表示できる。Smart Fusionのメリットを宮武医師は、「1つはMR画像をリファレンスとすることで、整形外科医が超音波検査に取り組むきっかけになります。普段から見慣れたMR画像を参照できれば、超音波の断層像が理解しやすくなることが期待されます」と述べる。また、MR画像では患部を含めた全体が把握できるため、より安全な手技が可能になると言う。「超音波では、どうしても深部は見えないことがあります。例えば、坐骨神経痛での梨状筋への注射の際に、エコーでは坐骨神経までしか見えにくいのですが、MRIで見ると坐骨神経の直下に腸管があることが簡単にわかります。最初から全体が把握できれば、あらかじめ危険を回避して手技が可能です」(宮武医師)。
Smart Fusionでは、MR画像と超音波の2画面表示のほか、MR画像上に超音波画像を重ねて表示する“ブレンド表示”が可能になっている。「Smart Fusionは、高い精度で位置合わせが可能ですが、ブレンド表示では骨輪郭や腱板などの位置を同期して重ねて観察できます。同一画面上なので、誰でも正確な手技が可能になることが期待されます」と宮武医師は評価する。
■Aplio i-seriesによる臨床画像
AI、POCUS時代の新しい超音波診療へのチャレンジ
キヤノンメディカルシステムズではpoint of care ultrasound(POCUS)向けの製品として、タブレット型で本体1.2kgと小型軽量かつ高画質を備えた「Viamo sv7」をラインアップしている。宮武医師は「その場で診断が可能な超音波は、スポーツや在宅などの現場に持ち運べる装置へのニーズが高まっています。Viamo sv7は、小型軽量なことはもちろんですが、画質もハイエンド装置に匹敵する描出能があります。2020年に向けて運動器領域でのPOCUSの可能性に期待しています」と言う。
これからの整形外科での超音波診断装置の活用について宮武医師は、「超音波ガイド下の治療が第2世代とすれば、手術などへの適用が第3世代と言えます。第3世代の超音波診療装置には、1本のプローブであらゆる領域をカバーできること、AIを使って瞬時に部位を判断して画像をフュージョンできることまで期待しています。Aplio i-seriesはその先駆けになるかもしれません」と期待した。
(2018年7月26、27日取材)
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