Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2016年2月号
伝統ある地域中核病院の高度・急性期医療に貢献する320列ADCT〜新しい撮影法にも意欲的に取り組みRSNA 2015でMagna Cum Laude受賞
地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館
1834年に設立された佐賀藩の医学館・医学寮がルーツとなる佐賀県医療センター好生館は、県立病院、地方独立行政法人へと変遷しながら、中核病院として県民のための医療を提供してきた。2013年5月の新築移転を機に臓器・疾患別のセンター化も進め、垣根のないチーム医療の実現と患者・家族の利便性を図っている。新病院に東芝メディカルシステムズのArea Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE」を導入し、日常の診断・治療支援で活用するとともに、新しい撮影法などの検討にも意欲的に取り組む同館を取材した。
県民に望まれる医療の実現のため積極的に高度医療機器を整備
佐賀県医療センター好生館は、病床数450床、35の診療科を有し、救命救急センター、脳卒中センター、外傷センター、ハートセンター、周産期母子センターなど9つのセンターを設置して、専門的かつシームレスな診療を提供している。佐賀大学医学部附属病院と並ぶ中核病院として、外来患者数は1日あたり700〜800人、県下全域からのドクターヘリ搬送も含めた救急搬送を年間2900件ほど受け入れている。
同館の特徴について樗木(おおてき) 等館長は、「当館は全国的に見ても長い歴史を持つ地域医療施設です。一県一医大政策により現在の佐賀大学医学部附属病院が設置されてからも地域に支えられて中核病院として存続し、県中部医療圏を中心に高度・急性期医療を提供しています。公立病院としては全国で2番目に設置した緩和ケア病棟や、佐賀県唯一の小児外科も特徴で、県民に望まれる医療の提供に努めています」と述べる。
同館では“県民に望まれる医療”のために高度医療機器が必要となれば、積極的に導入してきた。旧病院が手狭になったことから、2013年に新築移転した際にも、各部署からの要望に応じて設備の更新・新規導入が図られた。24時間365日断らない脳卒中診療のための最新MRI装置、胸部・腹部大動脈ステントグラフト内挿術などにも対応できるハイブリッド手術室などに加え、医師の強い希望で導入されたのがAquilion ONEだった。高い時間分解能を必要とする心臓領域や、頭部領域における精度の高いパーフュージョンなど、1回転0.35秒で160mmをカバーするAquilion ONEならではの短時間・高画質検査に、高い期待が寄せられた。
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ADCTと64列CTの2台体制で診断・治療を支援する画像を提供
放射線科には現在、放射線診断医8名(うちレジデント4名)、放射線治療医1名の計9名が在籍している。CT、MRI、核医学、マンモグラフィのほぼ全例と一部の一般撮影について、検査翌日までに8割以上のレポートを作成して画像診断管理加算2の算定を行っているほか、消化管造影検査やオンコールの遠隔読影にも対応している。また、放射線科の4名のIVR医により年間約200件のIVRを実施。心臓血管外科と協力して取り組む大動脈ステントグラフトなどの血管系の治療以外にも、肝細胞がんへの動脈化学塞栓療法やCVポートの埋め込み、外傷の骨盤骨折や消化管出血など体幹・四肢領域の止血術なども行っている。
CTは、Aquilion ONEと旧病院から移設したマルチスライスCT「Aquilion 64」の2台が稼働している。23名の診療放射線技師が在籍する放射線部は、一般撮影、CT・MRI、アンギオ、核医学、治療の5部門に分かれ、CTとMRIの検査については5名のスタッフが画像処理も含めて対応している。CT検査枠は1日につき30件で、当日の飛び込み検査を加えて、2台で計60件ほどの撮影を行っている。Aquilion ONEは、頭部や冠動脈の検査、肺がん手術や心筋焼灼術の術前検査、大腸CT検査などで使用する。CT・MRI部門の岸川 誠主任は、「当日検査については、3D撮影などAquilion ONEでしか対応できない検査以外は空いている装置に振り分けますが、小児検査は可能なかぎり低線量撮影技術“AIDR 3D”が実装されたAquilion ONEで撮影しています」と説明する。
画像処理は、ネットワーク型ワークステーションの端末をCT操作室に1台、MRI操作室に2台設置し、冠動脈解析や頭部術前の脳血管解析などを中心に1日あたり10〜15件ほど行っている。
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3D/4D撮影を最大限活用し高精度診断と低侵襲治療を実現
同館では、ワークステーション端末を検査室・読影室に加えて診療科の外来や医局にも設置し、Aquilion ONEで得られるデータを画像診断だけでなく治療にも活用している。IVR専門医でもある放射線科の相部仁部長は、診断・治療におけるAquilion ONEの有用性を次のように話す。
「1mmのthin slice dataを用いて、MPR画像でいろいろな断面を見ることで立体構造を理解し、診断に役立てています。thin slice画像は連続性良く観察できるので、脈管解剖の理解や病変の広がり診断に非常に有効です。加えて、VR画像などを作ることで全体像の理解や、手術のプランニングやシミュレーションに活用できます。血管の分岐や腫瘍の位置などを術前に把握することで、手技の短縮、造影剤や被ばくの低減につながります」
さらに、相部部長は、ADCTが最も威力を発揮するのは4D撮影であると指摘する。
「アダムキュービッツ動脈や副腎静脈サンプリングにおける血管描出は、症例によって検出のタイミングが異なりますが、4D撮影により検出率を上げることができます。CTの3D化、4D化は、現代医療へのインパクトが非常に大きいと感じています」
Aquilion ONEのポテンシャルを引き出し診療に活用するため、撮影でもさまざまな工夫を行っている。岸川主任は、「撮影に関しては、診療放射線技師がリードしていかなければならないところもあります。臨床医から他施設で行っている撮影をできないかといった相談を受けることもありますし、勉強会などに参加して情報を集め、新しいことにも積極的に取り組んでいます」と話す。
■症例1 破裂頭蓋頸椎移行部硬膜動静脈瘻
■症例2 心筋焼灼術前検査
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ADCTによる脳動静脈分離撮影でRSNA 2015にて最高賞を受賞
2015年12月、米国から大きなニュースが飛び込んできた。第101回北米放射線学会(RSNA 2015)のEducation Exhibitにおいて、同館から投稿された演題が最高賞であるMagna Cum Laudeを受賞したのだ。受賞した演題「Cerebral Disease: Optimal Imaging Method for Preoperative 3DCT - Arteriovenous Separation Scanning Method」(First Author:三井宏太技師)では、脳腫瘍の術前検査において、TBT法を応用し、少量の造影剤で脳動静脈を分離する撮影テクニックを提示した。岸川主任は、この研究の経緯について次のように説明する。
「動静脈分離撮影の検討は、肺動静脈からスタートしました。当初は、テストインジェクション法を用いて検討していましたが、なかなか成功率が上がりませんでした。新病院にAquilion ONEが導入されたことから試行錯誤を重ね、また、九州CT研究会でTBT法を開発したJCHO北海道病院の山口隆義氏の講演を聴く機会を得たことで、TBT法を応用する方法を見いだすことができました。脳動静脈への応用においては、特にAquilion ONEの4D解析がカギとなり、動脈と静脈のピークタイムに共通点を見つけられたことが突破口となりました」
RSNA 2015への演題投稿のきっかけの一つには、同じ症例を使用した演題が、東芝メディカルシステムズ主催の医用画像コンテスト「画論The Best Image 2014」で最優秀賞を受賞したこともあった。岸川主任は、「当館からのRSNAへの投稿は今回が初めてでしたが、画論で認めてもらったことで、自分たちの取り組みを他の施設へもフィードバックするべきだろうと考えました」と話す。ADCTやインジェクタなどの機器はもとより、三井技師をはじめとしたスタッフが努力を積み重ね、英文指導に当たった相部部長、他施設の技師やメーカー担当者との出会いと応援があったおかげで受賞に至ったと、感慨深く振り返った。
設立から受け継がれるDNAが医療の質の向上を追究
同館の設立理念に「学問なくして名医になるは覚束なきことなり」という、医学教育の重要性、医学者の日々の研鑽の必要性を述べたものがある。樗木館長は、「この理念の示すとおり、当館では臨床だけでなく研究学問を行うことも重要と考え、人材育成に取り組んでいます。学会活動や専門医・専門技師認定の取得を支援し、励行しています」と話す。
設立から受け継がれるDNAは、放射線部において、日常業務のなかで生じる疑問や課題の解決に意欲的に取り組む土壌を醸成してきた。岸川主任は、臨床をしていることが研究における最大の強みであると述べ、「今回の研究を進化させ、対象領域を広げて検討していきたい」と展望を語った。
Aquilion ONEを活用した新たな取り組みは、医療の質をさらに向上させ、これからも地域へと還元されていくだろう。
(2016年1月7日取材)
地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館
佐賀市嘉瀬町大字中原400
TEL 0952-24-2171
http://www.koseikan.jp/
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