Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2015年4月号
320列CTの導入で高度医療の提供や教育、研究の拠点として地域医療に貢献 〜ドクターヘリでの救急医療からがん診療までADCTの特性を生かした画像診断を展開〜
独立行政法人国立病院機構長崎医療センター
国立病院機構長崎医療センターは、病床数643床、36診療科を標榜し、救命救急センター、総合周産期母子医療センターを設置。長崎県の県央地域唯一の地域がん診療連携拠点病院として、高度医療を提供する。同センターでは、東芝メディカルシステムズのArea Detector CT(ADCT)の「Aquilion ONE/Global Standard Edition」が2013年12月から稼働している。高度な診療の提供と同時に、教育、研究の充実にも力を入れ、高レベルの診療の提供、人材育成を通じて、離島も含めた長崎県の医療を支える同センターの診療の現況と、320列ADCTの運用を取材した。
高度医療の提供と教育、臨床研究で地域に貢献
長崎医療センターの診療の特徴について江﨑宏典院長は、「地域から信頼され選ばれる病院であるためには、質が高く安全な医療を提供することが必要です。ドクターヘリを含めた救急医療や、がん診療への体制などを強化してきましたが、それに限らず地域を支える最後の砦であるという気概を持って診療を提供しています」と説明する。同センターは、長崎県の地域医療連携ネットワークである“あじさいネット”の創設時の中核医療機関の一つとして、地域医療連携に取り組んできた。江﨑院長は地域でのセンターの役割について、「地域連携は、医療機関や介護施設だけでなく、行政との連携が不可欠です。特に長崎県は島嶼(とうしょ)地域を多く抱えており、そういった離島の医療環境の向上については行政と連携して展開していきます」と述べる。
同センターは、臨床研修・修練指定病院として研修医の教育に力を入れているが、2015年3月に“人材育成センター”を新たに開設。地域に対して質の高い医療の提供をめざして、カンファレンス室や研修室などのほか、離島からのスタッフの受け入れもできるように宿泊施設を完備し、医療スタッフの育成が可能な体制を整えた。
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320列ADCTをはじめとする高度な検査体制を構築
同センターには、2013年12月にAquilion ONE/Global Standard Editionが導入され、CTは、Dual Source CT(DSCT)と合わせて2台体制となった。そのほか主な画像診断機器としては、1.5T MRIが2台、血管撮影装置がIVR-CTを含め2台、マンモグラフィ、PET/CTなどがそろう。松岡陽治郎統括診療部長は画像診断機器の整備について、「ADCTの導入に合わせて、IVR-CTや血管撮影装置の更新、PET-CTの導入など、一気に画像診断機器の充実を図りました。CTについては、DSCTに加えて320列のADCTを導入することで、短時間で高画質の検査が可能になり、冠動脈CTなど心臓領域や救急対応、さらに今後の4Dイメージングへの期待などを含めて、臨床の第一線病院としての体制を整えることができました」と、そのねらいを説明する。
放射線科では、放射線診断医7名(非常勤含む)、放射線治療医1名、診療放射線技師は松永 博技師長以下25名の体制で診療を行っている。放射線科の特徴の一つが、CT、MRIの操作室に読影端末を設置して、その場で放射線科医が読影しながら検査を行っていることだ。検査の現場に常に放射線科医がいることで、主治医や技師と意見交換しながら、必要に応じた追加撮影など臨機応変な対応が可能になる。松岡部長は、「放射線科医が現場でリアルタイムに検査にかかわることで、的確で無駄のない画像診断を提供することがねらいです」と述べる。松永技師長は、「造影剤の副作用への対応や救急の撮影の際に指示を仰げる安心感がある一方で、技師にとっては検査目的に合った撮影内容を判断することが必要で、高いレベルの知識と準備が求められます」と説明する。
ADCTの導入で救急、心臓検査の精度が向上
CT検査は、2台を技師2名で担当し3D画像作成まで行う。検査件数は1日約80〜100件。CT担当の赤澤史生主任は、「検査件数が多く、心臓検査や頭部の3D作成などもありますので、看護師や受付のスタッフと協力して進めています」と言う。Aquilion ONE/Global Standard Editionについては、「1回転のボリュームスキャンで高速撮影が行えることから、冠動脈CTや頭部のCT angiography(CTA)、救急などを中心にADCTで検査しています。ワンスキャンによる正確なサブトラクションをはじめ、金属アーチファクト低減技術の“SEMAR”などが可能になり、高画質で効率的な検査が行えるようになりました」と述べる。
面検出器のADCTと2管球のDSCTの使い分けについて赤澤主任は、「高速撮影が求められる救急や、頭部、胸腹部など広範囲の撮影が必要な部位では、Aquilion ONE/Global Standard Editionを選択しています。呼吸器外科の肺の動静脈分離撮影についても、1呼吸下で2相撮影することで画質が向上しています」と説明する。
冠動脈CTについて、赤澤主任は、「冠動脈CT検査の多くがβブロッカーを使用してHR75以下になるため、1心拍のボリュームスキャンが可能になります。寝台移動のないボリュームスキャンは心室性期外収縮(VPC)時でも、その位相をはずして再構成ができるため、検査の成功率が上がりました。冠動脈CTについては、7〜8割をAquilion ONE/Global Standard Editionで撮影しています」と説明する。松岡部長は冠動脈撮影について、「冠動脈の診断では、石灰化とアーチファクトが問題になりますが、Aquilion ONE/Global Standard Editionでは画質が向上し、診断が可能な割合が向上しました」と述べる。
■症例1 頭部 CT perfusion検査
■症例2 心室性期外収縮(VPC)時の冠動脈CT検査
ドクターヘリを含めた三次救急に救命救急センターで対応
救命救急センターは28床(うちHCU4床)で、院内外からの年間1700〜1800人の救急患者を受け入れている。スタッフは、救急専任の医師が非常勤を合わせて12名、そのほかに院内の研修医がローテーションで加わる。看護師は救急外来、ドクターヘリなどを合わせて約60名で、24時間365日の対応を行っている。ドクターヘリについては、基地病院として医師と看護師1名が待機し、敷地内のヘリポートから現場に直行する。年間の出動件数は800件弱で、1日平均では2回以上、多い時には6、7回出動することもある。
救命救急センターの髙山隼人センター長は、救急医療でのAquilion ONE/Global Standard Editionの有用性について、「ADCTの高速撮影によって、呼吸管理が難しい患者さんでもモーションアーチファクトの少ない画像が得られるようになり、評価が可能になりました。また、脳血管のアンギオグラフィはCTAに置き換わっています」と述べる。同センターでは、救急の撮影はほぼAquilion ONE/Global Standard Editionで行っている。赤澤主任は、「特に頭のCTAについてはADCTのサブトラクションによる画像の評価が高く、頭部の救急患者についてはADCTを優先して撮影しています」と、ADCTの高速撮影とボリュームスキャンによるスループットの良さが、救急撮影に大きく貢献していると評価する。
AIDR 3Dをメニューに組み込んで被ばく低減を実施
被ばく低減技術である“AIDR 3D”は、ほとんどのスキャンプロトコールにあらかじめ組み込んで使用されている。基本的にWeak(25%)を使用し、造影検査の3D再構成などでMild(50%)を使用する。赤澤主任は、「2台のCTでSD値が同じになるように調整して設定していますが、すべての領域で線量を下げた撮影が可能になっています」と説明する。松岡部長は被ばく低減の取り組みについて、「被ばく低減については、医師や技師がCT線量当量などの概念や数値の意味を理解することが必要です。その上で、検査後の線量レポートで実際にどれくらいの被ばくがあったかを把握し、リスクとベネフィットを判断して検査を進めることが重要です」と述べる。
松岡部長は今後の放射線科医に求められる資質について、「病院の機能分化が進み、高度医療を行う急性期病院の数は限られるようになります。その中で放射線科医に求められるのは、救急や教育などの現場に深くコミットし、その中で画像診断専門医としての読影力を発揮することです。急性期病院に求められる放射線科医を育てていくことも当センターの役割です」と述べる。
臨床と教育を高いレベルで提供する同センターでの診療をAquilion ONE/Global Standard Editionが支えていく。
(2015年2月19日取材)
独立行政法人国立病院機構長崎医療センター
長崎県大村市久原2丁目1001-1
TEL 0957-52-312
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