技術解説(AZE)
2014年12月号
Digital Radiography(DR)を極める【動画編】
手技支援のためのアプリケーション技術(ワークステーション:AZE VirtualPlace)
阪本 剛((株)AZE開発部)
術者は,手術に向けてあらゆる有力な情報を事前に入手し,手術計画を立て,手術に挑む。その中で,われわれが取り扱うCTやMRIの断層画像に基づいた三次元画像解析技術は,病変部を含む患者個体の複雑な解剖構造,信号値に基づく組織性状および物理量(距離,面積,体積など)を術者に提示することが大きな目的である。ここに2つのステップがある。すなわち,「物体抽出」と「画像表示」である。
■物体抽出:必要なものの抽出・術中に得られない情報の支援
あらゆる手術にはターゲットが存在する。したがって,われわれが利用するCTやMRIの画像の領域中には「必要構造物」と「不要構造物」が存在しており,病変部の理解のためには,なるべく必要な情報のみを表示する必要がある。これらを区別する技術は一般的に「セグメンテーション」と呼ばれ,さまざまな手法が開発されている。われわれが開発する「AZE VirtualPlace」には,汎用性の高いセグメンテーション技術が搭載されており,手術のターゲットに応じて骨や血管など,さまざまな物体を必要に応じて抽出することが可能である。
図1は,大腸がんの術前CTを基に作成された画像である。セグメンテーション技術を用いることで腫瘍,周囲の腸管や血管の区別,さらには血管の分岐の分類など,手術前に有用な情報を容易に抽出することができる。また,切除する腸管の長さや周囲との位置関係,腫瘍の体積や信号値の分布など,必要に応じてさまざまな情報を入手できる。図2は,慢性完全閉塞病変(CTO)に対する画像解析アプリケーションである。経皮的冠動脈形成術(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)にしても,手術は透視下の冠動脈造影撮影を基に戦略が検討される。そこで,造影剤の走行を表示する冠動脈造影に対し,CTでは壁の情報を得ることができるため,壁情報を基に閉塞した右冠状動脈を三次元的に描出することを可能にしている。これによって術中では把握しにくい閉塞血管の走行の情報を補うことができる。
見えるもの,必要なものを的確に表現すること,さらに術中に得ることが難しい情報を事前に補うこと。これらが術者にとって重要とされるアプリケーションの要件であろう。
■画像表示:ネットワーク利用による新しい展開
画像解析装置にとって手術を支援するためには,作成したデータを手術に役立ててもらうための環境作りも大切なことである。従来の画像解析装置では,設置された部屋から遠く離れた場所からでは,画像として保存したデータを院内に設置されているビューワで閲覧することのみが可能であった。しかし,われわれが開発するシステムでは院内のネットワークを利用して,あらゆるところからデータそのものを扱うことが可能である。すなわち,設定したクライアント端末であれば本体と同様の機能を扱うことができる。しかし,手術を支援するためには何らかのコンピュータが必要であり,手術現場で本体同様の機能を利用することは少なかった。これに対して,近年ではタブレット端末を利用した手術応用の取り組みの検討がなされている。
図3は,肝がんに対する肝切除術を想定した利用法であるが「門脈枝が血液を環流させる領域の体積を推定する」というような高度な機能を,術中に指先操作のみで実現できる。さらに,領域をあらゆる角度から閲覧することが可能である。これは利用の一例であるが,ほかにも気管支内視鏡の経路確認などをリアルタイムで行うことが可能である。
いかに価値のある情報を作成していても,その情報量を維持したまま術者に届けられなければ手術支援アプリケーションの価値は低減してしまう。このような汎用性のある環境作り,デバイスの利用は,今後ますます重要になると考えている。
◎
本稿では,手術支援を目的としたアプリケーションに求められる要件を解説した。高度かつ先進的な画像解析技術を開発する傍らで,「手術」というきわめて現場指向の医療活動において画像解析を取り扱うわれわれは,「何を求められているのか,現状では何が足りないのか」を常に意識しなければならないと考えている。
【問い合わせ先】
マーケティング部
TEL 03-3212-7721
http://www.aze.co.jp/