技術解説(AZE)
2014年3月号
読影コンソールPhoenixシリーズの「AZE Phoenix Lexus network」が構築する新時代の読影環境
阪本 剛(株式会社AZE開発部)
初めに
近年の読影環境を振り返ると,フィルム時代では考えられないような状態である。X線撮影をフォローするCT撮影が増加し,その中でも1mm以下の薄いスライスのデータが当然のように算出され,体軸あたりの画像密度が大幅に増えたことにより,CT1検査あたりの読影に要する枚数は限りなく増えている。さらには冠動脈などの新領域の読影,検診用の大腸CTなど,5年前には未開拓であった身体の領域が検査として成り立ち,診療報酬加算も得ている現状である。それに対して,現状の読影に用いられているほとんどのビューアは,身体の三次元的な構造に則った読影法に対応しきれているとは言い難い。このような現状を顧みた我々は,「AZE Phoenix Lexus network」というPhoenixの新しい読影コンソールモデルの提供を開始した。これは大規模データ,高密度データに対応した新しいアイディアに基づく読影法を,数多く搭載したソフトウェアである。
比較読影を支える様々な機能
・レジストレーション
読影は「比較する」という作業の連続ととらえることができる。比較の対象は様々であり,読影者の知識との比較や,患者の過去のデータとの比較など,考えられる状況はたくさんある。しかしながら,同日の同じ検査で撮影されたデータであれば,複数のデータを撮影しても安静に撮影された場合はビューア上で同じ断面を表示させることはたやすい。しかしながら撮影日が異なる場合は,同じCTの寝台で撮影されても身体の体勢にわずかな差が生じるため,同じ部位を同じように比較することは不可能であり,読影者の脳内で状態を解釈していた。これに対し我々は,三次元レジストレーション技術を読影用に改良しLexus networkに搭載することで,この問題を解決している。読影者はボタンを押すだけでLexus network が画像の身体情報を解析し,比較データを読影データと同じ表示断面に切り替える。この間わずか1秒程度であるため,読影進行を妨げることはない。
・スライディングMPR
高密度なCTデータは等方性ボクセルを再現できるため,あらゆる断面のMPR でCT横断面原画像と同じ解像度を表示することができる。我々は,このような性質にLexus networkの高速画像表示エンジンを利用することで,リアルタイムにMPRの表示断面を切り替えられる「スライディングMPR」を開発した。この手法は,冠動脈読影や腸管の絞扼性イレウスの検索などに用いられる。さらに,前述のレジストレーション技術を用いることで,比較データでさえも同断面を維持したまま,あらゆる断面を同時に表示することを可能にしている。このような技術は,肝腫瘍に対するラジオ波焼灼術の術前・術後データ比較時に,焼灼域と術前の腫瘍の関係性をより正確に表現可能であると考えられている。
三次元画像解析装置としてのLexus network
前述のとおり,近年の検査技術の向上から様々な手法を用いることによって,数年前では不可能であった領域が読影対象領域として取り扱われるようになった。10年ほど前より始まった「冠動脈CT」に代表され,近年では検診用に大腸をCT撮影する検査が増加している。複雑な構造を呈するこれらの臓器で,対象になる病変は数mm程度であり,従来の読影手法のみでは膨大な時間を要する。そこでLexus networkでは,三次元画像解析装置として様々なアプリケーションを操作することが可能である。データはボタンひとつで直ちに三次元化され,高画質なボリュームレンダリング画像を生成することができる。我々が開発するレンダリングエンジンによる高度な三次元画像は,数mmの病変部を高いコントラストで表示することが可能であるため,先ほど述べた大腸CTによるポリープの検出に有用である。また,物体抽出や血管抽出など,身体のあらゆる構造物を解析できるため,例えば冠動脈読影も起動直後に読影を実施することが可能である。レポート端末との連携を行えば,読影結果をそのまま院内レポートに入力することも可能である。
押し寄せる「データ管理の重要性」
・データ自動圧縮と自動転送
大規模かつ高密度なデータが頻出する現在は,「次世代」と呼べるほど効率的にデータ管理及びデータ利用がなされているとは言えず,多くの施設でデータサーバーの新設や移設などで対処している実情を調査している。しかしながらインフラストラクチャでの解決は,施設が利用可能な面積の狭い日本国内だけではいずれ限界を迎えることは想像にたやすい。そこで我々はデータの受け皿を大きくするのではなく,圧縮技術を用いて1枚あたりのデータ量を低減させて保存する仕組みに注力している。Lexus networkでは,データを可逆圧縮にて3 分の1,不可逆圧縮にて10分の1まで圧縮させることができるため,1つのディスクに従来の3倍以上のデータを収めることが可能である。可逆圧縮は展開後に元のDICOM画像に戻すことができるので,のちに再度読影が必要になるデータを保存することに適している。また,圧縮データに対応していない別サーバへの転送は自動的に元のDICOMデータに再変換して送られるため,院内システムを乱すことはない。また不可逆圧縮は,圧縮によって削減されたデータが一部欠損する可能性があるものの,物体形状は損なわれないためボリュームレンダリング画像等の作成には原画像とほぼ同等のクオリティを発揮でき,距離や面積,体積計測などで用いることが可能である。
また,近年は院内に複数のサーバを持つことがまれではないため,常に送り先サーバの指定という作業が生じる。Lexus networkは,設定次第であらゆるサーバへデータを自動転送できる仕組みを持つ。さらに送られてきたデータに対しては自動的に圧縮を行う設定も可能であるため,「A社のCTデータは3分に圧縮して直接B社のサーバへ」「Lexus networkで解析したデータはC社のレポートサーバーへ無圧縮で」「CTデータは10分の1に圧縮して研究用の外付けハードディスクへ」という運用を,すべてLexus networkへデータを通すことで可能になる。
終わりに
株式会社AZEが提供するPhoenixシリーズとは,「次世代の読影」をターゲットにとらえた全く新しい読影システムで,現在も様々な研究施設からの協力を得て開発されている。コンセプトは人間の知覚や感覚を軸に据えた「スマート」なシステムであり,汎用的に利用される最新のテクノロジーを投じることによって,ユーザビリティの向上を実現している。このため読影に必要なビューアソフトウェアの操作に慣れは不要で,ユーザのイメージどおりの操作感で読影を進行することができる。Lexus networkは院内のデータ環境を最適化するシステムであり,読影に必要なツールが手に届く位置に配置された最適な空間である。本稿では,主に大規模かつ高密度な時代に突入したCTデータを対象とした。今後リリースされる機能にも注目していただきたい。