セミナーレポート(AZE)

第75回日本医学放射線学会総会が2016年4月14日(木)〜17日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。16日(土)に行われた株式会社AZE共催ランチョンセミナー17では,慶應義塾大学病院放射線診断科教授の陣崎雅弘氏が司会を務め,国家公務員共済組合連合会 熊本中央病院放射線診断科部長の片平和博氏が「ノイズリダクションソフトウェアの有用性」をテーマに講演を行った。

2016年8月号

第75回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー17

CT/MRIにおけるNoise Reduction Softwareの有用性 ―古い装置も新しい装置も全部パワーアップ!―

片平 和博(国家公務員共済組合連合会 熊本中央病院放射線診断科)

片平 和博 氏

AZE社が開発中のNoise Reduction Software(NRS)は,元画像からノイズの広がりを表示したノイズマップを作成し,それを元画像から差分する原理で,CTやMRIの画像のノイズを低減することができる。本講演では,NRSの有用性について,臨床画像への適用例も提示しながら紹介する。

CTにおける有用性

NRSは,CTにおいては逐次近似画像再構成(IR)法と同じようなノイズ低減効果を得ることができる。ノイズ低減強度も任意に変更可能で,ソフトウェア上のスライダーバーでノイズ低減強度を調整し,リアルタイムに画像を確認できる。
CT撮影においては,「空間分解能」「被ばく線量」「ノイズ」の3要素がトレードオフの関係となる。そのため,ノイズが増加する体格の大きい被検者の撮影では,線量を上げる,スライスを厚くするといった対応が行われてきた。また,小児撮影などでは被ばくを低減するために,空間分解能が低い画像やノイズが多い画像での読影を強いられてきた。しかし,NRSにより「ノイズ」の要素を補えることから,ノイズ低減に使っていたCT性能を「空間分解能」や「被ばく線量」に振り分けることができる。NRSはIR法と比べ,以下の点で優れている。

(1)あらゆるCT装置の画像に適用可能
院内にIR法搭載CT装置と非搭載CT装置が混在していても,同等にノイズを低減した画像で読影することができる。
(2)IR画像にも適用可能
IR画像に適用することで,さらなるノイズ低減を図ることができる。低線量,薄いスライス厚,体格の大きい被検者といった条件が厳しい場合でも,ある程度良好な画像を得ることができる。
(3)レトロスペクティブに適用可能
画像ベースで処理を行うため,raw dataが残っていない過去の画像でもノイズを低減することができる。他院から持ち込まれた画像にも適用できるなど,応用範囲は広い。

NRSは,ワークステーションにCTやMRIの画像を取り込めば,自動でノイズ低減処理,PACSへの転送が行われるように開発が進められている。1分間に400枚程度の処理が可能となっており,臨床のルーチン検査でも適用できると考えられる。

CT:NRS適用臨床例の提示

当院の臨床画像にNRSを適用した画像を供覧する。

●ノイズ低減
図1は,BMIが34,低用量造影剤で80kVp撮影という条件の厳しい症例であったが,FBP(a),IR(b)と比べ,IRにNRSを適用した画像(c)は血管がより明瞭になっている。NRSにより診断に有用な3D画像を得られることに加え,元画像のノイズを低減した上で3D画像処理を行うことで診療放射線技師の労力軽減につながる。

図1 BMI=34,低用量造影剤による低管電圧撮影の3D画像の比較

図1 BMI=34,低用量造影剤による低管電圧撮影の3D画像の比較

 

●低線量CT
図2は,6歳,男児の症例で,腹部を1.1mSvで撮影した。薄いスライス厚(1mm)では,IR(b)でもノイズが多く,full IR(c)を適用するとノイズは低減するものの,特有の不自然さが否めない。これに対してIRにNRSを適用すると,不自然さのないノイズの少ない画像を得ることができる(d)。
低線量CTにおけるNRSの効果を検証するため,SPECT/CT装置の減弱補正用CT画像にNRSを適用したところ,小児の腎シンチグラフィで0.22mSvの超低線量で撮影したCT画像でも画質向上の効果が認められた。

図2 低線量腹部CT(6歳,男児,1.1mSv)

図2 低線量腹部CT(6歳,男児,1.1mSv)

 

●Thin slice volume reading
thin slice volume readingは,多断面で観察でき有用性が高いが,ノイズが増加する点が課題である。これに対しても,NRSによりthin sliceでも読影に適した画像を得ることができる。
図3は肝細胞がんの症例で,IR画像,NRS適用画像のSDを比較すると,IRの5mmスライス厚(a)よりもNRSを適用した1mmスライス厚(d)の方が低い値を示した。NRSによりノイズの少ない画像で読影ができ,アドバンテージが高いと言える。

図3 肝細胞がん(61歳,男性)におけるSD比較

図3 肝細胞がん(61歳,男性)におけるSD比較

 

●高分解能CT
ultra-high resolution撮影では微細な病変もとらえることができるが,ノイズが非常に多くなる。これに対してもNRSを適用することで,ノイズの少ない自然な画像を得ることができる(図4)。

図4 離断性骨軟骨炎(20歳,女性)

図4 離断性骨軟骨炎(20歳,女性)

 

●造影剤低減
高BMIで腎機能が低下している場合は,造影CT検査に不利な条件ではあるが,臨床では術前3D-CTなどがオーダされることもある。低用量造影剤で低管電圧撮影を行うと非常にノイズが多くなるが,NRSにより3D作成に適したノイズの少ない画像を得ることができる。

MRIにおける有用性

MRIにはIRのようなノイズ低減法はないため,NRSによりノイズを低減できる意義は大きい。NRSを用いることで,ノイズ低減,高分解能,撮像時間短縮のいずれかのメリットを得ることができる。

MRI:NRS適用臨床例の提示

●ノイズ低減
NRSにより元画像のノイズを低減することで,MPRや高分解能のボリュームT2強調画像,非造影MRAなどもクリアな画像を得ることができる。また,1.5T装置ではノイズが多く診断が難しいプラークイメージングも,NRSにより3T装置の画像に近い高画質を得られる。
DWI撮像ではノイズが多い場合に,SENSE factorを減らしてノイズ軽減を図ることもあるが,歪みが多くなるという弱点がある。これに対しても,SENSE factorを変えずにNRSを用いることで,歪みがなくノイズを低減した画像を得ることができる。また,体幹部のDWIは,EPI-DWIに比べてTSE-DWIで歪みの少ない画像を得られるもののSNRが低いことが課題であったが,NRSによりTSE-DWIが臨床で使いやすくなると期待される。

●高分解能MRI
MR撮像では,small FOVやスライス厚を薄くして高分解能にするほどノイズが多くなるため,NRSが有用になる。これを応用して,従来は呼吸同期で撮像していた腹部のthin sliceを,息止めで撮像してNRSでノイズを低減し,呼吸同期と同等の画像を得るなど,NRSには撮像法も変えるほどのポテンシャルがある。
また,thin sliceからcomputed DWI(cDWI)を作成する際にNRSでノイズを低減しておくことで,b=2000などのultra high b値でも高分解能な画像を得られる(図5)。このほか,Zoomイメージングや血管撮像においても,高分解能化で増えたノイズを低減するためにNRSは有用である。

図5 cDWIにおけるultra high b値の高分解能化

図5 cDWIにおけるultra high b値の高分解能化

 

●撮像時間短縮
MRIでは,撮像時間短縮のために加算回数を減らす,SENSE factorを増やすといった対応がとられるが,ノイズ増加が課題であった。そこでNRSを用いることで,短時間撮像の画像でも,評価に有用な見やすい画像を得ることができる(図6)。

図6 冠動脈MRAにおける撮像時間短縮への応用

図6 冠動脈MRAにおける撮像時間短縮への応用

 

まとめ

NRSは,さまざまな理由でノイズが多くなったCTやMRIの画像に対してレトロスペクティブにノイズ低減処理をすることができ,非常に臨床的有用性が高いと言える。

 

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