次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2019年8月号

No.208 AZE VirtualPlace iNoir2Dの物理評価と臨床的有用性

渡邊 翔太(近畿大学高度先端総合医療センターPET分子イメージング部)河野 雄輝/小坂 浩之/山田 浩司(近畿大学病院中央放射線部)

はじめに

AZE社が開発した“AZE VirtualPlace iNoir(以下,iNoir)”は,画像データを基に非線形なノイズ低減処理を施すことが可能であり,近年のCT装置に搭載されている逐次近似再構成(iterative reconstruction:IR)法や逐次近似応用画像再構成(Hybrid IR)法のように投影データは必要としない。それにもかかわらず,iNoirはHybrid IRと比べてエッジを保ちつつimage texture変化の少ないノイズ低減が可能であり,画像データベースであっても十分な性能を有したノイズ低減を実現している。したがって,投影データの残っていない過去画像や他院で撮影された画像であっても,ノイズ低減効果を得ることができる。
一方,従来のiNoir(iNoir3D)は,2mm以下のスライス厚を有する画像のみ適応可能であったが,2mmより大きいスライス厚でも処理可能なiNoir2Dが開発された。そこで,本稿ではiNoir2Dのノイズ低減効果をiNoir3DやHybrid IRと比較,評価した結果を報告する。なお,評価に用いた画像は,GE社製CT装置に付属するQAファントム内の水で満たされた均一なモジュールを撮影して取得し,画像計測にはCT画像計測プログラム「CTmeasure ver.0.97b」1)を使用した。

Standard deviation(SD),noise power spectrum(NPS)

1.25mmのスライス厚と5mmのスライス厚で同等のSDとなるように調整した2種類の線量でQAファントムを撮影し,filtered back projection(FBP)で再構成した。1.25mmスライス厚のFBP画像にはiNoir3D,5mmスライス厚のFBP画像にはiNoir2Dによる処理を加え,ブレンド率(強度)50%と100%で画像を作成した。また,iNoirと同様に,Hybrid IRもFBPとのブレンド率50%と100%で画像再構成した。
1.25mmのスライス厚画像をiNoir3Dで,5mmのスライス厚画像をiNoir2Dで処理した際のSD低減率を,Hybrid IRと比較して表1に示す。iNoir3D,iNoir2D共に,ブレンド率が高くなるにつれSD低減率は増加した。同一のブレンド率におけるSD低減率はiNoir3D,iNoir2D間でほぼ同等であり,いずれも同ブレンド率のHybrid IRより低い値となった。

表1 FBP画像からのSD低減率

表1 FBP画像からのSD低減率

 

図1に,FBP,Hybrid IR,iNoir3DおよびiNoir2DのNPSを示す。NPSカーブのピーク周波数に着目すると,iNoir3Dのピーク周波数はFBPのピーク周波数とのズレが小さいことがわかる。一方,iNoir2Dでは,ブレンド率が大きくなるほどピーク周波数が低空間周波数側に移行している。この傾向は多くのHybrid IRでも確認されており,高空間周波数領域に偏ったノイズ低減であることがわかる。また,このような周波数特性の変化は,FBPとのimage texture変化が大きくなる原因の一つとされている。しかし,画像上の周波数特性の変化がそのまま観察者の視覚評価に影響するとは限らない。そこで,Solomonら2)が提唱している,観察者の視覚的な応答特性を加味したピーク周波数差(peak frequency difference:PFD)を測定し,image textureの変化を定量的に評価した(図2)。

図1 NPSの測定結果 a:1.25mmのスライス厚におけるFBP,iNoir3DおよびHybrid IRのNPS b:5mmのスライス厚におけるFBP,iNoir2DおよびHybrid IRのNPS

図1 NPSの測定結果
a:1.25mmのスライス厚におけるFBP,iNoir3DおよびHybrid IRのNPS
b:5mmのスライス厚におけるFBP,iNoir2DおよびHybrid IRのNPS

 

図2 PFD算出の概説

図2 PFD算出の概説

 

PFD

iNoir3DではHybrid IRよりも低いPFDを示し,iNoir2Dではブレンド率50%のHybrid IRと同程度のPFDを示した(表2)。本検討で使用したHybrid IRは,ブレンド率50%であればimage textureによる変化が影響を及ぼすことはないと報告されている3)。また,臨床画像においても,iNoir3DとiNoir2Dではimage textureに明らかな変化を認めなかった。一方,比較的大きなPFDを示したブレンド率100%のHybrid IRは,1.25mmと5mmの双方においてimage texture変化が認められる(図3,4)。したがって,iNoir2DはNPSカーブの周波数特性が変化するが,視覚の応答特性を加味すると,視覚評価に大きな影響を与えないと考えられる。

表2 FBP画像とのPFD

表2 FBP画像とのPFD

 

図3 1.25mmのスライス厚におけるFBP,iNoir3DおよびHybrid IRの腹部単純CT画像

図3 1.25mmのスライス厚におけるFBP,iNoir3DおよびHybrid IRの腹部単純CT画像

 

図4 5mmのスライス厚におけるFBP,iNoir2DおよびHybrid IRの腹部単純CT画像

図4 5mmのスライス厚におけるFBP,iNoir2DおよびHybrid IRの腹部単純CT画像

 

臨床画像での有用性

上記の検討により,iNoir2DはiNoir3Dと同様に,image texture変化の少ないノイズ低減を施すことが明らかになった。また,iNoir2Dは2mmより大きいスライス厚にも対応しているため,頭部単純CTや体幹部CTのように通常5mm程度のスライス厚で評価されることの多い領域においても,投影データなしにノイズ低減が可能であり,画質の向上が期待できる。ほかに,CT画像は核医学分野においても,SPECTやPET画像との融合や,吸収補正に使用されているが,診断用に撮影されるCT画像に比べて線量を抑えた上,厚い実効スライス厚で画像を取得している場合が多い。加えて,SPECT/CTやPET/CTにおいては,Hybrid IRが搭載されている装置も少ないため,iNoir2Dは核医学で使用するCT画像にも大いに貢献できると考える。

●参考文献
1)Ichikawa, K. : CTmeasure, Japanese society of CT technology, Kasumi, Minami-ku, Hiroshima, JPN, 2012-2014.
http://www.jsct-tech.org/
2)Solomon, J.B., et al. : Quantitative comparison of noise texture across CT scanners from different manufacturers. Med. Phys., 39・10, 6048〜6055, 2012.
3)Singh, S., et al. : Abdominal CT ; Comparison of adaptive statistical iterative and filtered back projection reconstruction techniques. Radiology, 257・2, 373〜383, 2010.

【使用CT装置】
Discovery CT 750HD(GE社製)
【使用ソフトウェア】
AZE VirtualPlace iNoir(AZE社製)

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