次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2019年5月号

No.205 高精細CT装置とAZE VirtualPlaceの運用と接続環境を考える

岩永 秀幸(山口大学医学部附属病院放射線部)

はじめに

当院ではこのたび,CT装置の更新が実現し,キヤノンメディカルシステムズ社製の高精細CT装置「Aquilion Precision」(以下,高精細CT装置)を導入することになった。また,高精細CT画像に対応するため,AZE社製3Dワークステーション「AZE VirtualPlace 雷神」(以下,3DWS)も同時に更新し,高精細なCT画像による3D画像を扱える環境の構築を行った。

データの大容量化に対応

現在,CT画像の主流は512×512マトリックスであるが,高精細CT装置の登場で,1024×1024マトリックスや2048×2048マトリックスの画像を得ることができる時代になってきている。CT画像の512×512マトリックスのデータ容量は1枚あたり0.55MB程度であるが,1024×1024マトリックスでは2.1MB程度,2048×2048マトリックスでは8.4MB程度である。通常,1検査あたりのCT画像の発生枚数は数十〜数千枚であり,マトリックスサイズが大きくなると,データの発生量は4倍,16倍と指数関数的に増加することになる。ネットワークや画像サーバを管理する関係者にとっては,素直に受け入れ難い内容である。一方で,マトリックスサイズが大きくなると詳細な画像が得られ,臨床的有用性の高い情報を得ることが期待されるが,半面,被ばく線量の増加が懸念される。また,マトリックスサイズが大きくなると,臨床ではMPR画像や3D画像を作成する上でいくつかの壁が立ち塞がる。一例として考えてみると,512×512マトリックス,1mmスライス厚画像1000枚(100cm)を3DWSで扱うには,最低でも単純計算で元データの2倍の1.1GB程度のメモリ容量を扱える必要がある。これに加えて,影や色などを付けていくとさらにメモリ容量が必要となる。同じ条件で1024×1024マトリックスを考えてみると,単純に半分の0.5mmスライス厚画像であれば100cmでは2000枚となり,8倍の8.4GB以上のメモリ容量を扱える必要があり,3DWSのスペックは導入の際には注意を要する。実際の臨床では,複数の時相を読み込ませて処理することも少なくないことから,最低でも20〜30GB程度をメモリ実装する必要がある。
このたび更新した3DWSは,Xeonプロセッサ 8コア2基(インテル社製)で,メインメモリを196GB搭載し,保存容量はRAID6の30TBである。また今回は,高精細CT画像を快適に利用するため,ネットワークの構築にも注意を払った(図1)。ローカルエリアネットワーク(LAN)は,従来の1Gbpsから変更し,高精細CT関連の主要な接続形式を10Gbpsの光回線および10Gbpsメタル回線を組み合わせて接続する仕様とした。画像データは,CT装置本体からは10Gbpsの光回線で出力される。一方,3DWSは,10Gbpsのメタル回線2本をlink aggregationで接続する仕様とした。この目的は,画像データをより高速に転送することはもとより,3DWSを安定稼働させることである。当院の3DWSは,電子化カルテ端末にもライセンスを開放しており,同時アクセスが10台まで可能なネットワーク型である。画像を受信(保存)しながら,同時に複数のクライアントからのアクセスがあるような場合でも,ネットワークの負荷を低減し,3DWSのレスポンスを一定のレベルに担保することができる。
当院での高精細CT画像の運用については,CT装置本体で1024×1024マトリックスから512×512マトリックスにダウンサイズしてから,検像システムを経由して統合医用画像サーバに保存し,電子カルテ側に配信している。現在のところ,1024×1024マトリックス画像は一部に限り,院内配信をしている。また,放射線科医の読影をサポートするために,必要に応じて高精細CTの画像をキヤノンメディカルシステムズ社製の高精細CT画像専用サーバに送信し,専用の8Kのモニタで観察することができる。

図1 高精細CT装置とAZE 3Dワークステーションのネットワーク構成図 link aggregationで接続することで,画像転送速度を上げる一方,通信を安定させる。今回採用した10Gスイッチは,速度を重視したスイッチを2台構成で拡張している。

図1 高精細CT装置とAZE 3Dワークステーションのネットワーク構成図
link aggregationで接続することで,画像転送速度を上げる一方,通信を安定させる。今回採用した10Gスイッチは,速度を重視したスイッチを2台構成で拡張している。

 

転送・読込速度の検証

次に,実際に画像の転送速度の計測を行った。業務終了後に行ったため,実際の日中帯の運用速度とは異なるかもしれないが,業務中は極端な転送速度の低下は経験していない。
高精細CT装置本体から3DWSの転送速度は,512×512マトリックスでは,12.9枚/秒(7.1MB/s)程度で,1024×1024マトリックスでは,8.8枚/秒(18.5MB/s)程度であった。1秒間あたりの転送枚数は512×512マトリックスが多いと感じるが,1秒間あたりの転送容量(MB)は,512×512マトリックスより1024×1024マトリックスの方が2倍以上の通信量(MB)が流れていることに気づく。これは,ある一定量の通信量(パケット)が流れると,自動的にもう1本のLANを使って通信効率を上げる特長を持つlink aggregationの効果と考えられる。検証では,画像の転送時間は512×512マトリックス1000枚では80秒程度,1024×1024マトリックス1000枚では120秒程度との結果となり,4倍の容量のデータを約1.5倍の時間で転送できている。しかし,高精細CT画像専用のLANとして10Gbpsベースを採用した効果が,従来の1Gbpsベースの転送速度に比べて十分に得られたかは疑問が残る。転送速度は,CT装置本体の転送能力と3DWSの受信(保存)能力にも左右されるため,今後も検証する必要があると考えている。
一方で,3DWSに保存したCT画像で,3D処理の初期画面までの立ち上がり速度を「影あり+寝台除去」の条件下で計測を行った。
512×512マトリックス1000枚では,初期画面表示に12秒程度,1024×1024マトリックス1000枚では37秒程度であり,3.2倍の展開時間が必要であった。初期画面表示後のマウスによる回転処理や閾値処理については,特にマトリックスサイズの影響は感じられず,スムーズな動きで支障は感じられなかった。
現在,3DWSは,1024×1024マトリックスでは扱える画像枚数が2000枚までという制限があり,多時相を処理する上で,最低でも4000枚程度は3D処理ができないと実運用上十分でないと要望をあげている。1024×1024マトリックス2000枚もテストしたが,初期画面表示には80秒程度必要で,実運用する上でオペレータのストレスは増える感じを受けた。DVD1枚分に相当する4GB程度のデータを読み込むため,時間を要することは理解できるが,運用に耐えうる速度の改善を期待したい。そのため,今回は2048×2048マトリックスについては動作検証を行っていない。

臨床画像

実際の臨床画像の例を示す。図2は,高精細CTの肺野の画像である。aが512×512マトリックス,bが1024×1024マトリックスである。ノイズは目立つが,1024×1024マトリックス(図2 b)の方が肺野の微細構造がより明瞭に描出されていることがわかる。図3は,腹部造影CTのMIP画像である。1024×1024マトリックス(図3 b)の方が,細い血管も明瞭に描出されている。

図2 ‌高精細CT画像(肺野のアキシャル画像)

図2 ‌高精細CT画像(肺野のアキシャル画像)

 

図3 高精細CT画像(腹部造影CTのMIP画像)

図3 高精細CT画像(腹部造影CTのMIP画像)

 

おわりに

高精細CT画像を取り扱う上で,512×512マトリックスベースから1024×1024マトリックスベースとマトリックスサイズは大きくなり,データ容量も急速に増えていく時代も近いかもしれない。しかしながら,実運用する上では,CT装置からの画像転送スピード,3DWSの取り扱える枚数や展開速度も,大きな課題であることを改めて感じた。一方で,マトリックスサイズはそのままでdual energyを利用したCT装置もある。いずれにしても,発生する画像容量が増加することは間違いなく,画像の転送速度をある一定のレベルまで高速化することは不可欠と思われる。当院では,CT検査のほとんどで512×512マトリックスの1mmスライス厚画像を保存して運用しているが,この状況下でも検像システムの処理能力は運用上限界に近く,オペレータのストレスは大きい。そのため,1024×1024マトリックスを運用する上では,3DWSを含めた周辺環境のさらなる検討が必要であると考える。

【使用CT装置】
Aquilion Precision(キヤノンメディカルシステムズ社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 雷神(AZE社製)

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