次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2018年10月号

No.198 AZE VirtualPlace iNoirの基礎検討ならびに臨床的有用性

太田 佳孝(岩手医科大学附属病院中央放射線部) / 田村 明生(岩手医科大学医学部放射線医学講座)

はじめに

“AZE VirtualPlace iNoir(以下,iNoir)”(AZE社製)は,画像データよりノイズ成分を抽出し,差分することでノイズ低減を行うワークステーション型ノイズリダクションソフトウェアである。強度を0%から100%まで10%刻みに変化させることで,差分するノイズ量を任意の重み付けで決定することができる。
CT,MRIに対応し,2mm以下のthin sliceデータが適応となる。したがって,thin sliceデータを用いたMPR処理や3D処理だけでなく,thin sliceデータそのものを用いた読影に対して有効に働く可能性が示唆される。
本稿では,腹部領域を対象に,ファントムによる基礎検討および症例を踏まえたiNoirの臨床的有用性について述べる。

基礎検討

iNoirの特性を把握するために,水ファントムを用いて画像SD,noise power spectrum(NPS)を測定し検討した。
対象群は,FBP,ハイブリッド型逐次近似再構成法(AIDR 3D Mild:以下,AIDR),FBP画像にiNoir処理を行った群〔以下,NR(FBP)〕,AIDR画像にiNoir処理を行った群〔以下,NR(AIDR)〕の4群で比較した。
画像SDおよびNPSの特性を示す。画像SDは,iNoirを使用することで低下を認め,視覚上でも著明なノイズ低減を認める(図1)。NPSは全周波数帯において低下を認めるが,特に低周波数側に強く作用することがわかる(図2)。
次に,デジタルファントムによる模擬腫瘤影を作成し,撮影された腹部ファントムデータの肝臓に挿入して,FBP,AIDR,NR(AIDR)処理の3群の検出能について,ROC解析によりAUC値を算出した(図3)。その結果,NR(AIDR)処理がAUC値が最も高く,次いでAIDR,FBPの順であった。
以上の結果から,iNoir処理によって腹部領域の実臨床においても低コントラスト分解能の向上,さらには腫瘤検出能の向上が期待できた。

図1 各画像におけるファントム画像と画像SD値

図1 各画像におけるファントム画像と画像SD値

 

図2 ノイズ低減によるNPSの変化

図2 ノイズ低減によるNPSの変化

 

図3 ROC解析によるAUC値

図3 ROC解析によるAUC値

 

症 例

●症例1:悪性リンパ腫(60歳代,女性)
腹水貯留卵巣がん疑いにてCT撮影したが,多発肝腫瘤および脾腫瘤を伴う脾腫を認めた。著明な腹水増加のためノイズが多い画像であったが,iNoir処理により画質が改善し,所見が明瞭化しているのが認められる(図4)。

図4 症例1:悪性リンパ腫(60歳代,女性)

図4 症例1:悪性リンパ腫(60歳代,女性)

 

●症例2:下肢静脈血栓(70歳代,女性)
穿孔性腹膜炎手術後,呼吸器合併症状を伴い長期臥床。血栓評価目的にてCT撮影となるが,静脈路を確保できず中心静脈ラインより造影剤60mLを注入し,80kVにて撮影した(図5)。FBP画像では血栓の存在が不明瞭だが,iNoir処理により静脈内血栓が明瞭に描出された。

図5 症例2:下肢静脈血栓(70歳代,女性)

図5 症例2:下肢静脈血栓(70歳代,女性)

 

●症例3:多発性囊胞腎(30歳代,女性)
多発性囊胞腎のフォローアップにて来院。経時的変化の確認および腎臓容積の計測目的だが,iNoir処理により囊胞,出血囊胞の境界,内部性状がより鮮明に認められる(図6)。

図6 症例3:多発性囊胞腎(30歳代,女性)

図6 症例3:多発性囊胞腎(30歳代,女性)

 

●症例4:小児(生後5週)
副鼻腔評価目的でCT撮影した(CTDIvol:15mGy)。撮影範囲に含まれる頭部において,iNoir処理をかけると一定のコントラストを得ることができる(図7)。
小児では頭部の撮影件数が最も多いため,本処理を利用した線量低減の有効性が示唆される。

図7 症例4:小児(生後5週)

図7 症例4:小児(生後5週)

 

臨床的有用性

thin sliceデータの課題は,増加する画像ノイズ,もしくはノイズによる視認コントラストの低下であった。本来,空間分解能とノイズはトレードオフの関係だが,本ソフトウェアによりthin sliceデータの画像ノイズを低減できることは,読影医の負担軽減につながるため実用性は高いと考えられる。
ハイブリッド型逐次近似再構成など,装置本体のノイズ低減処理に加えて,ワークステーション側でさらなる処理ができることも有効であり,特にiNoirは低周波数領域のノイズに作用するため,腹部領域においては高体重や低管電圧による出力不足,若年者への被ばく低減などにも応用が可能である。
現在は2mm以下のスライス厚にのみ対応しているが,将来的に厚いスライスにも対応可能になれば院内配信画像を対象にノイズ低減が図れるため,被ばく低減も視野に積極的応用も可能になると思われる。

【使用CT装置】
Aquilion/CXL Edition
(キヤノンメディカルシステムズ社製)
LightSpeed VCT(GE社製)
【使用ソフトウェア】
AZE VirtualPlace iNoir(AZE社製)

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