次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2018年9月号

No.197 難治性てんかん手術におけるAZE VirtualPlaceを使用したマルチモダリティによる手術支援画像

坂本 和翔(医療法人社団高邦会 福岡山王病院放射線室)

はじめに

2009年5月に開院した当院は,医療法人社団高邦会グループの一員であり,福岡市近郊の地域医療を支えている。近年,医療現場において手術支援画像作成を求める声が増加していると感じられる。実際に,公益社団法人日本診療放射線技師会において画像等手術支援認定診療放射線技師認定資格が発足し,勉強会や講演などでも手術支援画像分野を目にする機会が増えている。この背景には,先述したとおり医療現場のニーズが増えたことも挙げられるが,手術支援画像を作成するワークステーションの進歩も重要な要因の一つであると考える。この進歩により,われわれは画像が持つ情報を最大限に抽出し,日々の医療現場に提供している。

てんかん焦点,難治性てんかんについて

脳の回路は興奮と抑制をバランス良く行うことで均衡を保っているが,この回路のバランスが崩れると発作や痙攣を引き起こす。このような発作や痙攣は誰にでも普段から起こりうるが,てんかん患者は慢性的に回路のバランスが取れておらず,繰り返し症状を発症する。この異常回路は,てんかん焦点と呼ばれている。てんかん患者の一般的な治療法は薬剤治療であるが,適切な薬剤治療にもかかわらず患者の発作が継続する場合があり,これを難治性てんかんという。難治性てんかんには,しばしば外科的治療が選択される。外科的治療は開頭手術によりてんかん焦点の切除を行うため,てんかん焦点の把握が重要となる。

てんかん焦点把握から切除まで

当院では,てんかん焦点の把握と切除範囲決定のため,CT,MRI,PET,RIなどの画像診断や脳波測定を行っている。主にCT,MRIでは海馬の硬化や皮質形成異常の把握,PET,RIでは代謝・血流の異常の把握を行い,これらを脳波と比較することでてんかん焦点の同定に努めている。また,脳に深部電極や硬膜下電極を埋め込み直接的に脳波を得ることにより,さらに確実な焦点把握と切除範囲の決定を行っている(図1)。

図1 使用画像と使用アプリケーション

図1 使用画像と使用アプリケーション

 

AZE VirtualPlaceによる難治性てんかん手術支援画像の使用経験

難治性てんかんの外科的治療に至るまでには多くのモダリティ画像や膨大な情報を必要とするが,すべてが独立したモダリティであるために,必要な情報のみ効率良く抽出することが困難な場面に遭遇する。そこで当院では,「AZE VirtualPlace」(AZE社製)を使用してマルチモダリティを統合することで,この欠点を解消した。
まず,独立したMR画像とPET画像を“フュージョン”アプリケーションで統合することで,形態診断画像に糖代謝情報を付加した。また,この統合画像をVR表示することで,術者は三次元的な形態情報と糖代謝情報を同時に得ることが可能となった(図2)。

図2 PETとMRIのフュージョン画像

図2 PETとMRIのフュージョン画像

 

さらに,確実なてんかん焦点把握と切除範囲決定のために,脳に電極を埋め込み直接的に脳波形を取得する。この際に,異常脳波がどの箇所から発生しているかを同定するために画像診断を行うが,電極がMRI非対応であるためにCTが選択される。しかし,CTでは金属によるアーチファクトが問題であった。この問題もフュージョンアプリケーションを使用し,CT画像とMR画像を統合することで解消した。統合を平均値で行うことによりCTのアーチファクトが低減され,電極位置と脳実質との位置関係を明瞭に描出した。さらに,これもVR表示を行うことにより,術者は電極位置と脳実質との位置関係を三次元的に把握可能である。
脳波では発作起始領域や発作間欠期てんかん活動領域などを主に確認するが,脳波形には位置情報はない。そのため大まかな脳のシェーマを作成し,そこに挿入した電極の番号をプロットして異常脳波が発生した位置を把握するのが一般的であると考える。しかし,当院では,CT画像とMR画像を統合したVR画像の電極を領域ごとに色分けして提供している。これにより脳波を可視化させ,脳のどの部分から異常脳波が発生しているのか三次元的に把握可能となった(図3)。ここで問題となるのが,硬膜下電極の挿入によりブレインシフトが発生した場合,脳の形状が変化することで位置合わせが困難になることである。この問題には,脳表を走行する静脈を用いてCT画像とMR画像の位置合わせすることで対応している(図4)。これにより,ブレインシフトした患者に対しても正確な電極位置の確認を行うことが可能となった。
最後に外科治療手術後であるが,“サブトラクション”アプリケーションを使用して手術前後のMR画像から差分画像を作成することで,てんかん焦点である脳皮質切除の範囲を描出した。また,VR表示により三次元的に把握可能にし,切除範囲のマスク体積を同時に表示することで,切除した脳皮質の体積を術者に提供している。

図3 発作起始領域と発作間欠期てんかん活動領域の色分け

図3 発作起始領域と発作間欠期てんかん活動領域の色分け

 

図4 静脈を利用した位置合わせ

図4 静脈を利用した位置合わせ

 

まとめ

難治性てんかん手術におけるAZE VirtualPlaceを使用したマルチモダリティによる手術支援画像は,臨床現場において大変有用であり,高い評価を得ている。
マルチモダリティ画像を統合し処理を行う場合,装置の違いなどからさまざまな制約を受けそうであるが,AZE VirtualPlaceはそのような制約が一切なく汎用性に優れている。また,最大4つのマルチタスクを有しており,多くのマルチモダリティ画像を一度に処理可能である。今回紹介した手術支援画像は標準アプリケーションのみで作成可能であり,操作法も直感性に優れており,初心者から熟練者まで幅広く使用できる。
ルーチンワークとして支援画像を作成するわれわれにとって,AZE VirtualPlaceの利便性の高さは非常に有用であると感じている。

〈謝辞〉
日頃より株式会社AZEの関係者の方々には迅速な対応と多大なご指導をいただき,深謝いたします。

【使用CT装置】
Aquilion ONE(キヤノンメディカルシステムズ社製)
【使用MRI装置】
Achieva 3.0T X Quasar Dual(フィリップス社製)
【使用PET/CT装置】
Discovery ST Elite(GE社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)

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