次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2018年2月号

No. 190 骨盤寛骨臼骨折に対する3Dプランニングの有用性

伊藤  肇/梁川 範幸(東千葉メディカルセンター放射線部)

はじめに

当センターは,救命救急センターを併設した3次救急まで対応できる総合病院である。開院して4年目を迎え,救急搬送された患者に対する画像構築の検討に試行錯誤を繰り返し,放射線部員一丸となって取り組み,最善な方法が確立された。その中でも,高エネルギー外傷などによる骨盤骨折に対する術前シミュレーション画像構築におけるワークステーションの活用は有用である。今回は,複雑な骨折形態となる骨盤寛骨臼骨折のT型骨折に対して,骨折型を詳細に分析して手術のアプローチ方法を決定し,さらに,整復するためのプレート固定方法までの一連の作業を行う3Dプランニングの方法を解説する。

骨盤寛骨臼骨折に対するアプローチ

骨盤寛骨臼骨折は複雑な骨折形態を有するT型骨折であり,単純CT画像からの情報だけでは,骨折による転位が激しく粉砕を伴う場合は,手術のアプローチ1),2)や整復後のプレート設置およびスクリュー刺入方向を計画することに難渋することが多い。
当センターでは,AZE社製の「AZE VirtualPlace雷神」(以下,VirtualPlace)を有効活用して,骨折型の詳細な分析,アプローチ方法の選択,固定方法の計画など(以下,3Dプランニング)を行っている。さらに,術中にcone beam CT(CBCT)撮影を行い,骨盤骨折の固定に用いるプレートやスクリューの整復状況を確認している。
また,手術体位は腹臥位で行っているため,骨盤骨折による医原性の血管・神経損傷のリスクが減り,手術展開の際には坐骨神経や短回旋筋群を確実に同定が可能である3)。この3Dプランニングは,術中の危険性を回避し確実な整復固定に有用である。

ワークステーションによる3Dプランニングの実務

1.術前3Dプランニング
当センターでは,スキャンしたCT画像データは自動的にVirtualPlaceに転送され,転送終了と同時に画像構築に取り掛かる。骨盤寛骨臼骨折が疑われる場合には,転送された画像データを基に骨盤部のvolume rendering(VR)画像を作成する4)。作成したVR画像を整形外科医に供覧し,骨折型の確認を行う。寛骨臼骨折であることが確認できた場合,手術のアプローチ方法について検討を行う。今回提示する症例は,3Dプランニングにおいて横骨折線が荷重部を貫通せず,後方からの固定により前方要素を安定させることができると判断した症例である。
スキャンした患者のボリュームデータと,あらかじめスキャンしておいたインプラントのボリュームデータをVirtualPlaceのマルチボリューム機能から展開する。この時,「基準画像・重ね画像」に患者データを,「その他」にインプラントデータを登録する。展開されたVR画像から,カッティング機能やクリッピング機能を用いて目的の骨片を抽出する(図1)。

図1 目的の骨片を抽出

図1 目的の骨片を抽出

 

抽出された骨片をそれぞれ入力1,2,3に設定し,色分けを行う(図2)。回転および移動を用いて骨片整復シミュレーションを行う。この時,多方向から観察することで骨片整復が正確に行えているかを確認する(図3)。さらに,インプラントデータを骨折部に重ねることで,必要なプレート長,ベンディング部位をあらかじめ決めておくことができる。複雑な形状をとる骨片を色分けすることで,術前カンファレンスにおける指導医から助手への手術工程の確認や,術中の助手に対する指示を明確にすることができる。また,プランニングにおいてはスクリュー長を計測することも可能であり,術中のデプスゲージの計測値と比較することで適切な位置や角度で挿入できているかの指標になる(図4)。

図2 抽出した骨片ごとに色分け

図2 抽出した骨片ごとに色分け

図3 骨片の整復シミュレーション

図3 骨片の整復シミュレーション

   
図4 スクリュー長の計測

図4 スクリュー長の計測

 

 

2.術中における3Dプランニングの活用と術中CBCT
当センターの寛骨臼骨折に対する観血的骨整復術は,X線血管撮影装置を搭載したハイブリッド手術室で行われる。寛骨臼骨折は直視下での整復や転位の確認が困難なため,術中CBCTが骨折部の関節適合性の評価に有用となる。手術は術前にシミュレーションした3Dプランニングを確認しながら進行する。プレートを固定後,術中CBCTを撮影し速やかにmulti planar reconstruction(MPR)画像を表示する(図5)。モニタにて関節内への穿破の有無,坐骨方向への確実なスクリュー挿入,前柱骨片の整復位などの評価を,執刀医だけでなく助手や診療放射線技師を含めて行う。術中に3Dプランニングと比較し評価を行うことで,プレート位置やスクリュー長の修正,前方アプローチの必要性を判断することが可能になっている。これらに問題がなければ閉創となる。

図5 術中CBCTによるMPR画像

図5 術中CBCTによるMPR画像

 

ワークステーションの有効活用

われわれ診療放射線技師は,日常診療の中ですべてが万全の環境で業務を遂行しているとは限らない。与えられた(獲得した)環境で,いかに工夫を凝らし作業効率を最適にするよう心がけるかが肝要である。救急医療は時間的な制約を受けるが,整形外科分野などの準時間的制約を受ける環境でも,ワークステーションの活用により今までにない安全な手技を可能とする画像情報を提供することが可能である。
現状の課題としては,3Dプランニングの精度である。ファントム実験による解析では,3Dプランニングの精度はCT撮影条件(撮影体位や撮影線量など)が大きな要因となるが,実臨床では目的物以外からのアーチファクトや体動による誤差があるため注意が必要である。
ワークステーションの有効活用により,術前3Dプランニング画像と術中CBCTによるMPR画像の整合性をいち早く判断することが可能となる。これにより,手術における次の確実な治療方針の決定につながる。

●参考文献
1)Moed, B.R., et al. : Acetabulum fractures. Rockwood and Green’s Fracture in Adults, 8th ed, Wolters Kluwer, 1891〜1981, 2014.
2)Zsu, S.W., et al. : Operative treatment of associated acetabular fractures via single Kocher-Langenbeck approach. Zhonghua Yi Xue Za Zhi, 91・5, 327〜330, 2011.
3)Letournel, E., et al. : Fractures of the acetabulum. 2nd ed, Berlin, Springer-Verlag, 1993.
4)塩田直史・他 : 関節内骨折に対する術中3Dイメージによる整復位確認. 整形・災害外科, 57, 611〜617, 2014.

【使用CT装置】
Aquilion ONE/ViSION Edition
(キヤノンメディカルシステムズ社製)
【使用X線血管撮影装置】
Allura Xper FD20 FlexMove
(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace雷神(AZE社製)

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