次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)
2018年1月号
No. 189 血痰・喀血原因精査を目的とした気管支動脈,肺動静脈分離撮影
清水 美季(日本赤十字社小川赤十字病院放射線科部)
はじめに
本稿で紹介する症例は,1か月前から続く血痰を主訴とし,出血部位検索および気管支動脈の描出を目的として造影CTとなった。血痰・喀血の原因として,気管支動脈からの出血,気管支拡張症,肺結核,肺がん,肺動静脈奇形などが挙げられる。そこで本症例では,三相多段注入法により気管支動脈の描出と肺動静脈の分離撮影を実施し,「AZE VirtualPlace 風神 FORMULA」(AZE 社製)による気管支動脈塞栓術(以下,BAE)の術前シミュレーション画像のマルチボリューム処理と,“新・CT細血管解析”ソフトウェアを用いた画像処理が有用であったので紹介する。
気管支動脈の描出および肺動静脈の分離撮影法
今回は,次の3つの条件を満たすことを目的として造影プロトコールを考えた。
(1) 気管支動脈描出のため,気管支動脈のCT値を300HU以上確保すること
(2) 肺静脈と肺動脈を分離するため,両者に200HU以上のCT値差を確保すること
(3) 上大静脈に高濃度の造影剤が残留した場合のストリークアーチファクトを防ぐため,上大静脈は生理食塩水で満たすこと
そこで,以前当院で学会報告を行ったトリプルルールアウトの三相多段注入法による一相撮影法を参考にプロトコールを作成した。当院の検討では,下行大動脈と肺動脈の最大CT値到達時間の差は約10秒,肺動脈と上大静脈の差は約5秒であった。気管支動脈に合わせてボーラストラッキング法(以下,BT法)を行った場合,撮影開始から10秒後も造影剤が流れていなければ肺動脈の描出は困難であり,なおかつ上大静脈のアーチファクト低減のためには撮影開始から15秒後には生理食塩水に切り替わっている必要がある。また,肺動脈内のCT値は200HU以上であれば診断や画像処理が可能なため,肺動脈を満たす造影剤は薄めてもよいと考えた。そこで,造影剤および生理食塩水の三相多段注入法を行い,23mgI/kg/sのフラクショナルドーズにて第1投目の造影剤のみを19秒間注入,続いて同じレートで第2投目の造影剤・生理食塩水混合を5秒間注入,第3投目の生理食塩水を8秒間注入した状態で,BT法により気管支動脈分岐部レベルでモニタリングを行い,閾値100HUにて6秒後より尾頭方向で撮影を行った(図1 a)。これにより気管支動脈分岐部レベルの下行大動脈のCT値は535HU,肺動脈は201HU,肺静脈は410HU,上大静脈は189HUとなり,コントラストに優れた元画像が得られた(図1 b)。また,呼吸の影響を受けやすい下肺野・下縦隔のブレの抑制,および上大静脈に高濃度の造影剤が残留した場合に発生するストリークアーチファクトを低減させるために尾頭方向撮影を行った。
撮影プロトコールは,当院でCABG後の心臓CTで使用しているプロトコールを選択した。微細な血管である気管支動脈の描出を目的としているため小焦点での撮影を考慮したが,単純画像にて気管支動脈の確認が困難であり拍動によるブレが影響していると判断し,大焦点および心電図同期撮影に切り替えた。撮影範囲は全肺とし,pitch:0.18にてscan time:18秒と長めの呼吸停止時間となったため酸素吸入を行った。また,HR:50であり,ECG mA modulationを75%1点のみとすることで約40%の被ばく低減を行うことができた(図1 c)。
画像処理
BAEに有効な術前シミュレーション画像は,以下のようなポイントをおいて作成した。
(1) 胸部全体の位置関係把握
(2) 任意のレイヤーを表示し各部位の位置関係把握
(3) 気管支動脈の分岐レベル把握のため,骨,気管支,動脈系のレイヤーを重ねて表示
(4) 気管支動脈の本数,走行などの把握
(5) BAEの際に禁忌となる前脊髄動脈の関与の有無
(1)〜(3)は3Dソフトウェアを使用し,マルチボリューム処理を行った。まずは大動脈,気管支動脈,肺静脈,肺動脈,気管支,肺実質,骨をそれぞれのレイヤーに分離して作成する。元画像を3Dソフトウェアを使用して立ち上げ,セミオート抽出で骨と血管を抽出する。肺実質は胸部CTのスケルトンで表示し,画像を上から見るように回転して3D物体抽出の選択抽出を行う。気管支はマルチレイヤー表示を使用し,VR画像上で右クリックのSSDを選択して画像を上から見るように回転させ,数値を−1000〜−2000,−900以上に設定し選択抽出を行うことで抽出できる。気管支動脈は,リージョングローイングとセミオート抽出のフリーハンドモードを使用する。肺動静脈はマルチレイヤー表示を使用し,CT値が高い肺静脈をまず抽出し,肺動静脈全体から肺静脈を差し引きして肺動脈を抽出する。3D処理モードではレイヤーは12個まで作成可能であるが,表示可能なのは6個のみであるため2つのボリュームに分けて作成し,マルチボリューム処理で合成する(図2)。すべてのレイヤーをマルチボリューム処理して合成した画像や,レイヤーの組み合わせを変えて画像作成することにより,それぞれの位置関係が把握しやすくなる(図3)。また,気管支動脈の分岐レベル把握のためメルクマールとなる骨(椎体)と気管支,動脈系のレイヤーを重ねて表示することで,分岐レベルの把握が可能である(図4)。
(4),(5)については,新・CT細血管解析ソフトウェアを使用した。本来は冠動脈解析を目的としているが,本症例のような心臓以外のほかの微細血管の描出においても有効である。細血管抽出のマニュアル検索モードを使用し,経路を手動で指定して血管を抽出,または気管支動脈の起始部を選択し自動追跡で抽出が可能である(図5)。すべての気管支動脈を抽出しVR画像上で右クリック,「選択血管のみ表示」のチェックを外すと抽出した血管すべての中心線が表示され,気管支動脈の本数や走行を一目で確認することができる。また,CPR画像で拡張の有無なども判断可能である(図6)。気管支動脈のようなバリエーション豊富な血管に対して,描出,観察の両面において本ソフトウェアの有用性は高いと考える。なお今回は,(5)の前脊髄動脈の描出までには至らなかった。
今回の症例は,本検査および一連の検査においても血痰の原因は特定できておらず,症状も消失していることから経過観察となっている。
さいごに
画像診断や手術前シミュレーション画像として有用な画像を得るためには,コントラストに優れ,アーチファクトの少ない元画像を撮影することが重要である。なおかつ,患者への負担を減らすため,被ばくや造影剤使用量低減の工夫も必要である。本症例は,ECG mA modulationの使用や大焦点での心電図同期撮影,三相多段注入法による一相撮影法などを行ったことでコントラストに優れた元画像が得られ,VR画像の作成が簡便となった。また,新・CT細血管解析ソフトウェアは,冠動脈にかぎらずほかの微細血管やバリエーション豊富な血管に対しても使用可能であるため,新たな選択肢の一つとして有用ではないかと考える。AZE VirtualPlaceのソフトウェアは本来の部位や目的にとらわれない汎用性,また設定値をユーザーが自由に変更できるという応用性も備えている。われわれのアイデア次第で画像診断の可能性を高めてくれるものであり,今後もさらなる検討を行っていきたい。
●参考文献
1)日本放射線技術学会撮影部会 : X線CT撮影における標準化~GALACTIC~(改訂2版). 京都, 日本放射線技術学会, 2015.
2)超実践マニュアル CT. VERSUS研究会監, 東京, 医療科学社, 2006.
3)CT造影技術. 八町 淳・他, 東京, メディカルアイ, 2013.
4)CT造影理論. 市川智章編, 東京, 医学書院, 2004.
5)田中達也 : 当院における補足的3D作成のためのプロトコルの紹介. Rad Fan, 12・11, 50〜53, 2014.
【使用CT装置】
Brilliance CT 64(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 風神 FORMULA(AZE社製)
【使用インジェクタ】
DUAL SHOT GX(根本杏林堂社製)