当院の紹介

長崎県上五島病院は，九州の西端，長崎県の五島列島の北部（新上五島町）に位置するへき地医療拠点病院である。病床数186床，診療科15科で島内唯一の入院施設として，島の人口約2万人の基幹病院であり，急性期から慢性期まで対応する地域完結型の医療の提供，病気の予防（検診など）から介護・福祉（療養型病棟・在宅医療など）までの地域包括ケアの構築・提供を行っている。

当地区の抱える課題とIT化

当院がある新上五島町は，高齢化率35.8％（2014年9月），人口もここ数年で400〜500人減という高齢化と過疎化が進む地域であり，島の医療を支える医師，看護師など医療スタッフの不足も課題となっている。そこで，2004年の市町村合併以来，新上五島町では病院再編を進め，長崎県上五島病院を基幹病院として，同地区にあった2つの病院を無床診療所（有川医療センター，奈良尾医療センター）に転換して，病床とスタッフの集中化を図ってきた。
また，同時に，IT化によるさらなる医療の効率化にも力を入れ，オーダリングシステム（2001年）や電子カルテ（2004年），放射線科部門ではPACS（2002年）やRIS（2004年）をいち早く導入してきた。現在，この3施設（長崎県上五島病院，有川医療センター，奈良尾医療センター）は町のイントラネット（intranet）を使用して，医療情報ネットワーク（3病院統一の患者ID，診療情報の共有）を構築し，当院のサーバ（電子カルテ，PACS，RISなど）を利用して診療を行っている。そのため医師は，どの病院に行っても同じ環境で診療を行うことができ，医師の派遣により受診者は当院でしか受診することができなかった診療科を，その地域で受診することができるようになった。

大腸CT検査への取り組み

当院では，2008年より本格的に大腸CT検査に取り組んできた。大腸がんは近年，罹患数や死亡数が上昇しているが，その要因は高齢化の影響が大きいと言われている。高齢化が進んでいる上五島地区においては大腸がんの患者は増えており，島内の大腸がんスクリーニングの重要性は高まってきている。しかし，そこで問題となってくるのが医師のマンパワー不足である。人口10万対医師数は135と全国に比べ低い状態であり，大腸内視鏡検査に限ってみると，年間大腸内視鏡検査数は約600件，島内で行っている施設は当院のみであり内視鏡医1人で行っていた。その医師についても総合診療医として日々の業務に追われており，大腸検査を増やそうにもマンパワーの限界で対応することが困難なことが予想された。
そこで大腸CT検査の活用を模索した。われわれは，日本初の多施設共同試験（JANCT）などの精度検証に参加し，院内では数多くの臨床試験を行い，その結果から大腸CT検査は便潜血陽性者の中で内視鏡治療が必要な方とそうではない方のトリアージ法として有用であることや，高齢者にも安全に行える検査であることを確信した。
2つの診療所（有川医療センター，奈良尾医療センター）では，内視鏡医不在のため大腸内視鏡検査を行うことができなかった。そのため，この地域の住民は，検診で便潜血陽性判定が出ると内視鏡検査を受けるためだけに島外に出る方や，交通の手段がなく二次検査を敬遠する方も少なくなかった。その解決策として，各地域で大腸がん検診の二次検査として大腸CT検査を導入することは，患者負担の軽減や二次検査受診率の向上に寄与するものと考えた。そして，2013年度より2診療所において大腸CT検査を導入し，月に数十件程度の検査を行うこととなった。
解析については，先ほど述べた医療情報ネットワークを活用して，各診療所で撮影されたCT画像を大腸CT解析ソフトウェアを搭載したワークステーションである「AZE VirtualPlace 風神」（AZE社製）に転送して，当院で解析およびレポートの作成（DICOM出力）を行っている（図1）。

図1　大腸解析結果レポート

大腸CTの解析

解析はAZE VirtualPlace 風神の大腸解析ソフトウェアを使用し，一次チェックを診療放射線技師が行い，診療医が最終診断をする。
当院が行っている大腸CTの解析では，主に三次元画像から始めるprimary 3D reading法を用いている。primary 3D reading法は，内視鏡類似画像でそれぞれの体位を直腸→盲腸→直腸の順で死角のないように読影し，その後，2Dの横断像で直腸から回盲部まで腸管の内腔を追跡（lumen tracking）していく方法である。病変を認めた場合は，両体位で同じ場所に指摘できるかのマッチングを行う。
AZE社の大腸解析ソフトウェアは，この読影法に適したワークステーションの一つである。特に，マッチング（両体位での比較）と病変サイズ計測（病変の所見）は容易である。マッチングについては，各体位で拾い上げた病変が2体位比較画面のレイアウト上で大腸の長さに応じた場所に表示されており，そこでおおよその位置の把握ができる（図2）。病変サイズ計測は，内視鏡類似画像などで指摘した病変について，サイズ計測ツールを用いて最大径を直感的に計測することができ，記録をすることで自動的にキー画像と計測した距離が所見に反映される（図3）。精度の高い検査にするためには，このマッチングと病変サイズ計測は大変重要で，このソフトウェアは解析のスループットを大幅に改善させている。

図2　2体位比較

図3　病変サイズ計測

まとめ

高齢者が多く医師不足の状態にある当地域において，大腸CT検査の役割は小さくないと考える。今後もAZE社大腸解析ソフトウェアを使用した大腸CT検査を活用して，大腸がん検査を積極的に行い，地域における大腸がん死を少しでも減らす一助にしたい。

^{●参考文献
1）国立研究開発法人国立がん研究センター : がん情報サービス　2015年のがん罹患数, 死亡予測.
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20150428.html
2）Nagata, K., Endo, S., Honda, T., et al. : Accuracy of CT Colonography for Detection of Polypoid and Nonpolypoid Neoplasia by Gastroenterologists and Radiologists ; A Nationwide Multicenter Study in Japan. Am. J. Gastroenterol., 2016（Epub ahead of print）.
3）Utano, K., Nagata, K., Honda, T., et al. : Diagnostic Performance and Patient Acceptance of Reduced-Laxative CT Colonography for the Detection of Polypoid and Non-Polypoid Neoplasms ; A Multicenter Prospective Trial. Radiology, 2016（Epub ahead of print）.
4）Johnson, C.D., Chen, M.H., Toledano, A.Y., et al. : Accuracy of CT colonography for detection of large adenomas and cancers. N. Engl. J. Med., 359, 1207〜1217, 2008.
5）Regge, D., Laudi, C., Galatola, G., et al. : Diagnostic accuracy of computed tomographic colonography for the detection of advanced neoplasia in individuals at increased risk of colorectal cancer. JAMA, 301, 2453〜2461, 2009.
6）Graser, A., Stieber, P., Nagel, D., et al. : Comparison of CT colonography, colonoscopy, sigmoidoscopy and faecal occult blood tests for the detection of advanced adenoma in an average risk population. Gut, 58, 241〜248, 2009.
7）Heresbach, D., Djabbari, M., Riou, F., et al. : Accuracy of computed tomographic colonography in a nationwide multicentre trial, and its relation to radiologist expertise. Gut, 60, 658〜665, 2011.}

【使用CT装置】
Aquilion PRIME（東芝メディカルシステムズ社製）
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 風神（AZE社製）