次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)
2016年8月号
No. 172 3D phase contrast画像と2D cine FIESTA画像の統合による頭部術前シミュレーション─脳表動静脈の鑑別と描出不良の補完
重永 裕(兵庫県立がんセンター放射線部)
はじめに
頭部の術前シミュレーションのために非造影MRIが選択されることがある。施設・装置・症例などに応じて3D time of flight(以下,TOF)法や3D phase contrast(以下,PC)法などで撮像し,ワークステーションを用いてvolume rendering(以下,VR)処理することで,頭皮・血管・脳実質などが立体的に視覚化できる。しかし,非造影MRIは造影CTと比較すると脳溝がわかりやすい反面,脳表血管の描出能は個体差が大きく,血管径が術中所見と乖離していることがある。また,動脈と静脈の鑑別は困難である(図1)。そこで,われわれは脈波同期を用いた2D cine FIESTAを追加撮像し,3D PC法から得られたVR画像との統合画像を作成することにより,上述の弱点を補完する手法を考案した。本稿では,その統合画像の作成方法について述べる。
2D cine FIESTA
2D cine FIESTAとは,動態画像が取得可能なシーケンスで,心臓cine MRIなどで使用されている。血流の方向や流速に影響を受けにくく,信号ノイズ比が非常に高いので,高分解能で脳表を撮像すれば,3D TOF法や3D PC法では描出困難な微小動脈の拍動を観察できる(図2)。撮像条件を表1に示す。
統合画像作成方法
今回の統合画像の作成方法は大きく2段階に分けられる。(1) 3D PC VR画像の作成,(2) 3D PC VR画像と2D cine FIESTA画像の統合である。
1.3D PC VR画像の作成
3D PC VR画像の作成には,「AZE VirtualPlace Plus」(AZE社製)を使用した。3D PC法では,T1強調画像であるmagnitude imageと特定の流速を強調したflow imageの2つのボリュームデータを1回の撮像で同時に得ることができる。まず,magnitude imageを用いて,リージョングローイングやカットツールを駆使して脳を抽出する。次にフュージョン機能でflow imageにマスクを反映させ,閾値調整でノイズを除去する。この時に脳表の微小な血管まで消してしまわないように注意が必要である。最後に,それぞれのVR画像をマルチボリューム機能を使って統合させれば,3D PC VR画像の完成である(図3)。
2.3D PC VR画像と2D cine FIESTA画像の統合
3D PC VR画像と2D cine FIESTA画像の統合は,「Microsoft Power Point 2010(以下,MPP)」を使用した。なぜなら,われわれが調べた限り3D-VR画像と2D-cine画像を統合する機能を有した市販のワークステーションが存在しないからである。そのため,3D PC VR画像をbitmap形式で,2D cine FIESTA画像をAVI形式で出力する必要がある。出力した2つのファイルをMPP上に展開させ,拡大率や透過度を調整し脳溝や血管を頼りに重ね合わせれば完成である。
図4に3D PC法において描出良好であった症例,図5に3D PC法において描出不良であった症例を例示する。3D PC VR画像の透過度を変更することで,拍動の有無により動脈(←)と静脈(→)の鑑別が可能である。また,3D PC法において描出不良な脳表血管を2D cine FIESTA画像では確認できる(図5←)。
まとめ
本手法を用いることで,非造影MRIによる術前シミュレーションの精度が向上すると考えられる。例えば,脳虚血性疾患の治療である浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術(STA-MCAバイパス)では,開頭後に蛍光血管撮影やドプラ流速計など用いて吻合血管を決定しているため,ある程度の開頭範囲が必要となっている。しかし,本手法により吻合に最適な血管を術前に同定できれば,開頭範囲を縮小できる可能性もある。
メーカーへの要望
上述した通り,3D-VR画像と2D-cine画像の統合にはMPP上での煩雑な作業が必要となる。位置情報などはDICOMデータとして持ち合わせているはずである。同じMRI装置で連続して撮像されたデータであるので,ワークステーション上で簡単に統合が可能になれば大幅に作業時間が短縮できる。有用な機能と考えられるので開発が望まれる。
【使用MRI装置】
Signa HDxt 1.5T(GE社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace Plus(AZE社製)