次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)
2016年1月号
No. 165 AZE VirtualPlace 風神 FORMULAにおけるマルチボリュームの有用性
田中 達也(小川赤十字病院放射線科部)
はじめに
当院では2013年12月より,「AZE VirtualPlace 風神 FORMULA」(AZE社製)が稼働している。選定に当たっては,過去に当院で画像処理や解析が困難であった11症例のデータを用い,各メーカーの装置で実際に処理を行った。これまで本連載で多くの先生方が報告されているとおり,主に心臓を目的としたCT細血管解析や大腸を目的としたCT大腸解析のソフトウェアをほかの部位でも活用できる。また,ソフトウェアの設定値をユーザーが自由に変更できるという柔軟性が導入の主な決め手となった。
導入によって,以前当院では不可能であったマルチボリューム処理が可能となり,画像処理だけでなく元画像を得るための撮影方法にも変化が出始めている。本稿では,当院で行っている腫瘍性病変へのマルチボリューム処理について紹介する。
マルチフェーズへの活用
膀胱の腫瘍性病変においては,臨床科より,腫瘍と尿管の位置関係を明確に表した画像を求められている。そのため,排泄相の撮影を追加し,尿管を描出する場合がある。以前は膀胱内にオリーブオイルを注入し撮影を行っていたが,注入を行う時間のロスや,病変部が膀胱後壁に存在する場合は腹臥位撮影の必要があり(図1 a),患者も尿意が強くなるため排泄相までの撮影は困難であった。また,膀胱内にオリーブオイル,尿,造影剤と3層のニボーを形成するため(図1 a),VR画像作成時に膀胱のレイヤーを抽出するにはMPR画像上にてセミオート抽出のフリーハンドモードで行う必要があった(図1 c)。
そこで現在は,ある程度尿をためた状態で通常の造影撮影を実施し,次の患者の検査を行った後に再入室してもらい,排泄相のみの追加撮影を行っている。これにより注入時間のロスは軽減し,膀胱内の造影剤が歩行により尿と均一に混ざることによって,病変部の位置に関係なく常に背臥位で撮影を行うことができる(図1 b)。また,膀胱のレイヤー抽出においても,オパシティカーブの調整のみと格段に容易になった(図1 d)。本法は患者が一度退室するため,画像処理において早期相(図2 a),遅延相(図2 b),排泄相(図2 c)の寝台位置が一致しない(図2 d)。そこで,各フェーズの骨のレイヤーをマルチボリューム処理上でメルクマールとし,マニュアルのボリューム操作で位置合わせを行っている。これにより,患者やわれわれ診療放射線技師の負担を軽減しながらも,オリーブオイル以上の効果を得ることが可能となった(図2 e)。
マルチモダリティへの活用
膵・胆管系,特に膵頭部や下部胆管の腫瘍性病変においては,臨床科より,腫瘍や血管だけでなく膵管や総胆管の位置関係を明確にした画像を求められている。しかし,膵管や総胆管は周囲組織とのCT値の差が少ないため,通常の造影CTデータを用いてVRで抽出することはとても労力が要る。以前はERCP後にCTを実施することもあったが,AZE VirtualPlace導入以降はMRCPとのマルチボリューム処理で対応している。問題点は寝台位置の不一致である(図3 a)。そこで位置合わせの方法として,まずCTのMPR画像上にてセミオート抽出のフリーハンドモードで膵実質,または膵管のレイヤーを作成する(図3 b)。次に,骨・血管系・腫瘍のレイヤーを非表示にした状態で,このCTの膵臓レイヤーとMRCPの膵管レイヤー(図3 c)をマニュアルのボリューム操作で位置合わせを行う(図3 d)。その後,骨・血管系・腫瘍のレイヤーを表示している(図3 e)。現在,当院では,MRCPは呼気で撮像しているのに対して,CTは吸気にて撮影を行っているため,さらに精度を高めるためのプロトコール作成が今後の課題である。
マルチレイヤーへの活用
消化管や乳腺の腫瘍性病変に関しては,骨(体幹)・血管系・消化管や乳腺・リンパ節のレイヤーを作成している。特に,リンパ節に関しては当初,所属リンパ節によって色分けを行う予定であったが,臨床科より,転移の可能性にかかわらず抽出可能なリンパ節を直径1cmを境に色分けしてほしいとの要望があり対応している。通常の3D処理モードではレイヤーは12個まで作成が可能であるが,表示可能なのは6個のみである。そこで,リンパ節に関しては別のボリュームで作成し(図4 b,図5 b),骨(体幹)・血管系・消化管や乳腺のボリューム(図4 a,図5 a)とマルチボリューム処理で合成している(図4 c,図5 c)。しかし,作成したVR画像のムービー表示やMPR画像のプレート挿入に関しては操作が煩雑となるため,表示可能なレイヤー数の増加に期待したい。
まとめ
CTやMRIの画像診断は,アキシャルのみの時代から,現在は4Dまでとdimensionを増加させることで大きな進歩を続けてきた。CT装置やMRI装置から得られる画像データを低侵襲で収集する努力を惜しまないのは,処理を行うワークステーションの進歩によるところも大きいと考える。AZE VirtualPlaceのマルチボリューム処理は,当院の画像診断や手術前シミュレーションなどの臨床支援にも大きく貢献している。また,ネットワーク型のため各ボリュームを複数の端末で処理することができ,われわれにとっても利便性が高い。患者と診療科の間で,画像収集装置と画像処理装置の両者を扱う診療放射線技師として,装置の進歩に劣らない努力をしていきたいと考える。
●参考文献
1)日本放射線技術学会撮影部会 : X線CT撮影における標準化〜GALACTIC〜(改訂2版). 放射線医療技術学叢書(27), 京都, 日本放射線技術学会, 2015.
2)超実践マニュアル CT. VERSUS研究会監, 東京, 医療科学社, 2006.
3)八町 淳・他 : CT造影技術. 東京, メディカルアイ, 2013.
4)CT造影理論. 市川智章編, 東京, 医学書院, 2004.
5)田中達也 : 当院における補足的3D作成のためのプロトコルの紹介. Rad Fan, 12・11, 50〜53, 2014.
【使用CT装置】
Brilliance CT 64(フィリップス社製)
【使用MRI装置】
Achieva1.5T(フィリップス社製)
【使用インジェクタ】
DUAL SHOT GX(根本杏林堂社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 風神 FORMULA(AZE社製)