次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2015年7月号

No.159 救急医療におけるワークステーションの活用

梁川 範幸(東千葉メディカルセンター放射線部)

はじめに

当センター(http://www.tkmedical.jp/ )は,救命救急センターを併設し,三次救急まで対応できる総合病院である。2014年4月に仮オープンし,2016年度に320床がフルオープン予定である。また,千葉大学医学部附属病院東金九十九里地域臨床教育センターとして,学生・研修医などの研修施設としても機能している。山武・長生・夷隅地域の三次医療を担うばかりでなく,東日本大震災の教訓を踏まえ,病院本体を免震構造とした災害拠点病院の機能も果たす。
われわれ放射線部は日常一般業務に加え,救命救急センターに搬送される急患の業務にも対応している。救急医療に対する業務の一環として,一般業務で使用する方法とは異なったワークステーション活用法について解説する。

救急撮影に挑む

300床規模の施設であるため,CT装置1台(ほかにアンギオCT装置をバックアップとして1台),MRI装置2台(1.5T,3.0T)で運用している。そのため,救急搬送された患者のCT検査は,一般患者の間に割り込む形で行われる。三次救急施設であるため,高エネルギー外傷による搬送が多い。当然,緊急手術などの処置が必要とされる場合が多く,いかに迅速に対応し,必要とされる情報を短時間に供給できるかが重要になってくる1),2)。当センターでは,この画像処理をAZE社製の「AZE VirtualPlace雷神」(図1)で行っている。画像データは自動的にAZE VirtualPlaceに転送され,転送終了と同時に画像構築に取り掛かる。

図1 CT操作室

図1 CT操作室
65インチモニタを配置し,CT画像はもちろんAZE VirtualPlace雷神で画像構築された画像も配信し,画像共有できるシステムになっている。

 

救急医療に携わる診療放射線技師は,日常業務以外にも救急医療に関する知識を事前に学習していなければならない3)。日本救急撮影技師認定機構(http://www.jert.jp/ )は,救急医療における診療放射線技師の学習項目を明確にしている。患者の基本的なバイタルサインを理解し,撮影に役立てることや,迅速な放射線撮影業務の実施が要求される。救急医療におけるCT検査は,外傷初期診療ガイドライン(JATEC)のsecondary surveyに位置し,全身状態を安定させた後に治療に入るための本格的な検査になる。取得した情報を基に的確な撮影プロトコールをプランニングし,さらには適切な画像構築を行うために既存のワークステーションを利用して迅速な画像処理を行うことが重要である(図2)。また,撮影プロトコールをプランニングする際は,ワークステーションへの画像転送速度も十分に把握し,転送優先画像をあらかじめ設定しておく必要がある。

図2 救急医療で求められること

図2 救急医療で求められること
救急医療において要求されることは,迅速な放射線の撮影業務と画像構築で,そのためには的確な撮影プランニングを瞬時に立て画像情報を基にVRなどの画像構築を行う。

 

ワークステーションでの実務

症例1は,ほぼ毎日搬送される高エネルギー外傷による多発骨折である。対象症例の身体が小さいこともあるが,FOV(field of view)を最大限に広げ,四肢を含むtrauma panscan4)を施行した。瞬時にバックボードやモニターケーブル類などを除去したVR画像を作成し,骨折部位を確認する。観察にはカッティングを使用せず,ボリュームクリップ(図3)を用いてすべての方向から骨折部位を確認する。また,体幹部のアーチファクトなどにより画像ノイズが目立つ場合は,スムージングノイズ除去フィルタ(図4)を活用すると便利である。

図3 症例1:クリッピング機能の有効活用

図3 症例1:クリッピング機能の有効活用
事前にモニターケーブル,寝台,バックボードなどの画像を作成して,全体VR画像から引き算を行う。局所を観察するにはカッティングを行わず,クリッピング機能を駆使して局所拡大を繰り返す。

 

図4 症例1:スムージングノイズ除去フィルタの活用

図4 症例1:スムージングノイズ除去フィルタの活用
通常はVR画像作成時のゴミを消去するためのフィルタであるが,FOVの端に描出される四肢はアーチファクトの影響を受けやすいため,時間的な制約からスムージングフィルタを使用し,観察しやすくする。

 

症例2は,高エネルギー外傷による活動性出血である。救急受け入れで骨盤骨折を指摘され,創外固定された後にtrauma panscanを施行した。VR画像により創外固定具の確認ができた(図5)。骨自動除去のアイテムを使用しても完全に除去できなかったが,オパシティの調節やマルチレイヤーを駆使して骨以外の血管や臓器をMIP画像(図6 b)として描出した。VR画像(図6 c)により活動性出血の血管を同定し5),6),IVRによる塞栓術および臓器破裂による緊急外科手術に至った。

図5 症例2:創外固定具の確認

図5 症例2:創外固定具の確認
金属用のオパシティを作成しておき,創外固定具のみを選択描出する。マルチレイヤーを使用し,固定具および骨のオパシティを下げていった画像を重ねると,骨との位置関係が明瞭となる。

 

図6 症例2:活動性出血画像の描出

図6 症例2:活動性出血画像の描出
骨を自動除去できない場合は手動での画像作成になるが,時間的な制約を考慮して骨と血管を分離する技術が必要となる。特にMIP画像は,骨を除去して造影された周辺臓器や組織を描出しなければならない。 (1)まず診断に必要のないゴミを消去する。(2)マルチレイヤーを使用する。(3)全体のVR画像のオパシティを調整して骨のみを薄く描出する。(4)全体のVR画像から(3)を引き算して大まかな血管を描出する。(5)全体のVR画像から(4)を引き算して骨のみを描出する。この時血管が残っていないかを確認する。(6)全体のVR画像から(5)を引き算することで骨以外の軟部組織が描出される。(7)それぞれをマルチレイヤーに保存して,MIP画像やVR画像を作成する。

 

症例3は,上腸間膜動脈の血栓である。絞扼性イレウスを疑われ,腹部dynamic CTを施行した。造影早期相および遅延相において,肥厚した腸管の造影能の低下を認めた7),8)。骨除去された末梢血管まで確認できるMIP画像(図7 a)を用いて,血管の走行および閉塞している血管の同定を行った。上腸間膜動脈の起始部での閉塞が確認でき,VR画像にMPR画像をプレート挿入(図7 b)して腸管や血管の走行を再確認し,緊急外科手術が行われた。

図7 症例3:上腸間膜脈動脈の血栓の描出

図7 症例3:上腸間膜脈動脈の血栓の描出
末梢までの血管描出にはMIP画像が適するが,立体的な位置関係はVR画像が適する。VR画像上にMPR画像プレートを挿入すると,実質臓器や周辺組織との位置関係を把握できる。

 

まとめ

われわれ診療放射線技師が救急医療に携わるには,外傷初期診療ガイドライン(JATEC)などを熟知し,日々研鑽することが重要である。ワークステーションの技術的進歩も日進月歩であり,一昔前までのじっくり腰を据えてワークステーションを駆使した画像づくりの姿勢ではなく,技術進歩したアイテムを効率良く使用することは,迅速な画像提供を要求される救急医療現場にとっては非常に重要である。

●参考文献
1)救急撮影ガイドライン─救急撮影認定技師標準テキスト. 日本救急撮影技師認定機構 編, 東京, へるす出版, 2011.
2)日本救急撮影技師認定機構 : 救急撮影認定技師資料集. 名古屋, 三恵社, 2010.
3)第4版外傷初期診療ガイドライン. 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン編集委員会 編, 東京, へるす出版, 2012.
4)水沼仁考, 加藤弘毅, 苅安俊哉・他 : 救急医療におけるCT撮影法 外傷パンスキャン(外傷全身CT)の実践方法.救急医学, 35, 133〜134, 2011.
5)倉本憲明・他 : 急性腹症の画像診断 出血.画像診断, 28, 1280〜1289, 2008.
6)吉岡敏治 : 肝損傷. 救急疾患CTアトラス─その撮り方・読み方の実際, 吉岡敏治 編, 永井書店, 67〜80, 2006.
7)森下恵美子・他 : 腹痛のCT診断 肝・胆道・膵疾患. 臨床画像, 23, 147〜159, 2007.
8)本郷哲史・他 : 腹痛のCT診断 腹膜・腸間膜・脾疾患. 臨床画像, 23, 160〜171, 2007.

【使用CT装置】
Aquilion ONE/ViSION Edition(東芝社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace雷神(AZE社製)

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