次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2014年11月号

No. 151 AZE VirtualPlaceを用いた心筋灌流評価

望月 純二(みなみ野ハートクリニック放射線科)

はじめに

従来から心筋虚血の画像診断としてRIやMRI,超音波による評価が行われている。しかし近年,装置の進歩に伴いCTによる評価が可能になってきた。特に,管球回転速度の高速化と検出器の多列化により時間分解能が向上したことで,CTによる心筋性状評価への期待が高まっている。
当院では,心筋灌流評価を安静時心臓CTで行っている。今回,「AZE VirtualPlace」(AZE社製)のバージョンアップに伴い,“新・CT細血管解析”の1つの機能として,左室心内膜抽出機能が搭載された。本稿では,本ソフトウェアの使用経験を踏まえた上で,当院で行っている心筋灌流評価について紹介する。

心筋灌流評価

冠動脈に高度狭窄や閉塞が生じると,安静時心臓CTにおいても左室心筋内に造影低下領域を認めることが報告されている1)。当院では,心筋灌流評価に冠動脈評価と同じraw dataを使用している。解析に用いる再構成画像は,拡張期および収縮期の最適位相で,モーションアーチファクトの最も少ない画像であることが重要である。特に,収縮期の心内膜側は虚血による影響を反映することが報告されており1),この部分の解析を正確に行うことが最も重要であると言える。再構成した画像から短軸および長軸画像を作成して評価していくが,正常心筋と病変部の灌流域に生じる造影低下領域のCT値差は非常に小さく,通常のグレイスケールでは評価することが困難であることが多い。当院の評価は,心臓CTのファーストパスで造影される心筋内血流分布に明瞭なコントラストをつけるため,左室心筋のCT値差を強調させたカラーマップを用いたvolume rendering(VR)表示で行う。VR画像で正常心筋を赤に近い色で示し,CT値が低い領域を青に近い色で示すことで,心筋内血流分布が明瞭なコントラストで描出され,視覚的に灌流異常領域を検出することが可能となる(図1)。VR画像で評価する理由は,心臓CTでは左室心筋の造影能のバラツキが生じるが,VR画像では症例ごとに正常心筋のCT値設定を行えるからである。この画像により灌流異常領域の推定とともに,transmuralityの評価が可能であると考えられる。

図1 心筋灌流評価

図1 心筋灌流評価
a:心臓VR画像
b:左前下行枝(LAD)CPR画像
c:グレイスケール(短軸像,長軸像)
d:VR画像(短軸像,長軸像)
50歳代,男性。LAD#6に高度狭窄を認める(a,b)。グレイスケール(c)では描出が不明瞭であるが,心筋内のわずかなCT値差を強調させたVR画像では前壁心内膜側に顕著な造影低下領域(d▽)を認める。造影低下領域は,狭窄病変による虚血領域を描出していることが考えられる。

 

VirtualPlaceによる解析方法

新・CT細血管解析では,画像を読み込むと大動脈,心臓,左右の冠動脈を自動で抽出できる。従来では心臓の全体像を抽出していたが,新たな機能として左室心内膜のみを自動抽出することが可能になった。方法はとても簡単であり,内膜表示というボタンをクリックするだけで,数秒で心内膜側を三次元的に自動抽出し,心筋のCT値を反映したカラーマップでVR表示される(図2)。虚血は,心内膜側から起こり心外膜側に進展するため,内膜側を選択的に抽出することで正常領域と灌流異常領域に明瞭なコントラストを得られ,虚血に対する診断能が上がる。さらに,冠動脈と左室心内膜側のVRを融合表示することで,灌流異常の評価とともに病変部の責任血管を容易に同定でき,一連の流れで冠動脈の形態的評価と心筋の機能的評価を行うことが可能である。

図2 心内膜カラーマップ表示機能イメージ

図2 心内膜カラーマップ表示機能イメージ

 

症例提示

症例は,持続する胸痛により当院に救急搬送された60歳代,男性。冠動脈解析の結果,左回旋枝(LCX)低形成,右冠動脈(RCA)優位の冠動脈であり,LAD#6に混合型プラークを認め同部位の有意狭窄が疑われた。しかし,心筋灌流評価を行った結果,LCXの灌流域である側壁に貫壁性の造影低下領域を検出した(図2,図3 a,c)。そこで,造影低下領域の冠動脈を再確認するとLCX#13完全閉塞であることが判明した。この結果から,LCXの完全閉塞による心筋梗塞であると診断され経皮的冠動脈形成術(PCI)が施行された。
本症例では,PCI施行後に心電図同期単純CTを撮影した。PCI直後の単純CTで認められる造影効果は,心筋障害を反映している2)。この撮影により,梗塞巣の確認とともに局在を観察し,心筋バイアビリティを評価することが可能である。この評価にも,心筋灌流評価に用いるカラーマップを使用することで,遅延造影領域を明瞭に描出できる。本症例では,心臓CTで認めた灌流異常領域と一致する領域に,PCI後単純CTで貫壁性の遅延造影を認めた(図3 b,d)。これより,心臓CTで描出された低CT値領域が灌流異常領域を示していることが確定できる。

図3 心筋性状評価

図3 心筋性状評価
a:心臓CT四腔像
b:PCI後単純CT四腔像
c:心臓CT冠動脈と心臓CT心筋の融合画像
d:心臓CT冠動脈とPCI後単あ純CT心筋の融合画像

 

おわりに

安静時心臓CTによる心筋灌流評価は,造影剤の追加や放射線被ばくを増やすことなく行える利点がある。しかし,灌流画像は撮影や再構成の最適化,造影剤の注入法など検査の影響ばかりでなく,被検者の側副血行路の有無や心筋肥厚などの影響を受けることが考えられる。実際の評価には,非造影CTによる心筋性状評価,造影CTでの冠動脈評価を加えた総合的判断が必要となる。これにより,高度石灰化を伴った病変の評価や多枝病変に対する責任血管推定などの可能性が広がり,診断に対する心臓CTの臨床的有用性が向上することが期待できると考える。

●参考文献
1)Nagao, M., et al. : Quantification of myocardial perfusion by contrast-enhanced 64-MDCT ;
Characterization of ischemic myocardium. Am. J. Roentgenol., 191, 19〜25, 2008.
2)山口隆義 : 急性冠症候群に対する心臓CT検査 ;
特に心筋遅延造影効果の意義について. 日本放射線技術学会雑誌, 63・6, 709〜716, 2007.

【使用CT装置】
Brilliance iCT SP(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)

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