次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2014年9月号

No. 149 MR細血管解析を用いた耳下腺内顔面神経の描出

大下 剛史(社会医療法人製鉄記念八幡病院放射線部)

はじめに

本稿では,AZE展2014で発表した「MR細血管解析を用いた耳下腺内顔面神経の描出」という,末梢神経を描出する方法を紹介する。解析には,「AZE VirtualPlace雷神」(AZE社製)の冠動脈解析用ソフトウェアである“MR細血管解析”を使用する。

撮像方法

まずワークステーションで解析する前に大切なことは,MR画像のクオリティを高めることである。末梢神経は構造が微細であり,信号も弱い。そのため,いかに神経を高信号に,周囲組織を低信号に描出するかが重要となる。今回,耳下腺内顔面神経の描出には,T2-FFEというgradient echo法でありながらspin echoを収集するという独特なMRIシーケンスを用いている。このシーケンスは,強いT2コントラストをもたらし,血管を低信号に描出するという特徴を持っている。そのため耳下腺部の撮像範囲では,耳下腺を含めたほとんどの組織が低信号に,神経や耳下腺管のみが高信号に描出され,画像解析に必要な条件を満たすことができる。このシーケンスパラメータを表1に示す。

表1 3D-T2-FFEシーケンス

表1 3D-T2-FFEシーケンス

 

これまでの解析・描出

3D-T2-FFEにて高精細な画像を撮像し,その後,ワークステーションにて耳下腺内顔面神経の描出を行う。この耳下腺内顔面神経の描出に関し,これまでの解析方法を示す。
まずは,元画像のまま(図1 a),次にMPR(図1 b)で観察を行い,ほかにsliding MIP(図2 a),curved MPR(図2 b)などでの観察が考えられる。しかし,元画像のままでは,構造が細く画像の解釈が困難である。また,MPR,sliding MIPでは観察可能であるものの,断面をその都度ずらす必要があり,神経全体の観察には適していない。curved MPRでは,細部まで神経の走行を追跡できるものの,1本の神経しか描出できず,分岐していく神経には対応できない。このように,これまでの描出方法では分岐していく神経全体像をとらえることは困難であった。

図1 耳下腺内顔面神経の描出方法:元画像とMPR

図1 耳下腺内顔面神経の描出方法:元画像とMPR

 

図2 耳下腺内顔面神経の描出方法:sliding MIPとcurved MPR

図2 耳下腺内顔面神経の描出方法:sliding MIPとcurved MPR

 

MR細血管解析

そこで,これまでの解析方法の問題点を解決する方法として,MR細血管解析の使用を検討した。もともとMR細血管解析は,冠動脈の描出用のソフトウェアである。この方法は,低信号に描出される心筋と高信号に描出される冠動脈のコントラストを利用し,冠動脈の走行を追跡するというものである。さらに,このソフトウェアは,分岐していく血管を追跡し,1本に統合する機能を有している。これらを耳下腺内顔面神経の描出に利用できるのではないかと考えた。つまり,低信号に描出される耳下腺と,高信号に描出される神経が,心筋と冠動脈の関係と同一になり,冠動脈と同じように耳下腺内顔面神経の描出が可能ではないかということである。

描出方法

実際の解析方法を図3に示す。最初に大動脈の場所を設定しなければならないが,顔面神経では,そのような構造が存在しないので,頭蓋外の顔面神経の起始部を大動脈と見立てて設定する。次に,冠動脈の抽出と同様に顔面神経の起始部から末梢に向かって細かくマウスをクリックし,神経を抽出していく。冠動脈では,ある程度抽出すればオートで抽出できるが,顔面神経では構造の細かさ,信号の弱さからうまくいかない。そのため,マニュアルですべてクリックしていくことが必要となる。1本の神経の抽出が終わったら,分枝を同様に抽出していく。すべての抽出が完了すると,全体像描出のためにpartial width(PW)MIP表示を行う。このようにして作成した耳下腺内顔面神経が図4である。顔面神経が耳下腺を貫く様子が描出されている。
耳下腺内顔面神経の描出のためのPWMIPのスライス厚は, 1〜2mmが最適であった。PWMIPの最適なスライス厚は部位により異なるため,その都度設定する必要がある。
今回は耳下腺内顔面神経について紹介したが,ほかの部位でも管状に神経が描出されていれば,この方法で全体像の描出が可能となる。1例として腕神経叢を提示する(図5)。

図3 “MR細血管解析”を用いた解析方法

図3 “MR細血管解析”を用いた解析方法
3断面を詳細に観察しながら神経の抽出を行う。

 

図4 耳下腺内顔面神経

図4 耳下腺内顔面神経

図5 腕神経叢

図5 腕神経叢

 

まとめ

近年,MRIの発展は目覚ましく,高精細な画像を撮像することが可能となっている。ただ,撮像した元画像のままや単純なMPR,MIPだけでは画像が有している情報をすべて表現しているとは限らない。そこで,ワークステーションを駆使することにより,画像の含む情報を最大限に引き出すことが可能となる。

 

【使用MRI】
Ingenia 3.0T(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 雷神(AZE社製)

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